女パイロット
同じ頃、火星…
紛争開始から約2年。東西南北、幾つかの戦線がリィツ軍とルーレ軍との間に置かれる中、その一角にて、取り分け大規模な戦闘が発生。激しい攻防が繰り広げられていた。
ちなみに地球では、2国を挟み距離を置く両国家だが、ここ火星では隣接。だけに、その国境線における利権を巡り争う事になってしまったのだが、それももう長きに亘り、押しつ押されつの膠着状態。両軍一歩も引かぬ展開となっていた。
そう、いよいよそれを打破すべく、両軍が大規模な攻勢に出たのであった。
ゆえに、互いが数百もの戦闘車両や同航空機を繰り出し戦うといった状況下、見れば双方に混じって窺える人型は、陸ならびに空戦用のロボットである。
高さ10メートル超。背面に空戦用のバーニアやウィングを持ち、その右手にはビームガンを。また胸や脚部に、それぞれ機関砲やミサイル等の兵装を持つそれらは、リィツ側のものが『モッド』(リィツ語で『翼』)かたやルーレ側のものは『ガル』(ルーレ語で『鳥』)なる呼称の、いずれにしても新兵器である。
ところで、その新兵器はリィツ側の『モッド』に、先より空中にて一際躍動するものがあった。
小一時間のうちに、すでに敵航空機を3機、さらにガルを2機撃墜と、その性能もさることながら、それを操るパイロットの腕前が際立っているようだ。
が、そこで気を良くするあまりに油断が生じたかどうか、そのパイロット駆るモッドは、まもなくルーレ地上軍が放った高射砲の光弾を背部に受け、みるみる失速。そのバーニアの一部から煙を引きながら、徐々に高度を下げ始めた。
「出力が上がらない…私としたことが、あんなレトロな兵器にしてやられるとは…」
前面に強化ガラスが張られた頭部コックピット内。電子機器満載の狭小な空間に響くは、そのパイロットたる若い女の声である。
「コントロール…背面バーニア部に被弾した。脱出の必要はなくも、戦闘継続に支障あり。よって、マリア=リサ・ジェン少尉、これより一時帰還する」
かろうじて機体を保つ傍ら、ヘルメットに付属のマイク越しに彼女が声を張れば、
『了解』
眼下のスピーカーから応答が。
かくして、その女主人を乗せたモッドは、なお背部から細く煙を引きつつ、この混乱の場から離脱していった。
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