第34話 仲良く

   Ginseng 仲良く


「待ちに待ったお米の収穫だ!」

「苦労した……。あの嵐のとき、魔法で嵐なんて吹っ飛ばしてやろうとしたら、逆に吹っ飛ばされて……。結局、気をもみながら一晩を過ごしたものだ……」

「オレだって、何匹のイナゴを殺したことか……というか、喰ったことか!」

 魔王と、勇者は勇んで鎌をもって、田んぼに入っていく。ここでは田んぼに水を張ったままなので、稲刈りも田植えのときのように、泥の中ですることになる。普通の稲刈りより、よほど大変な作業になるけれど、ここでは泥に棲むイトミミズのためにも水を抜かない。彼らが土をかきまぜてくれるから、雑草も生えずに、また土もふかふかで肥沃となるのだ。

 しかしここ半年、体力のついた二人なら何の苦もない。稲を干して、それで米作りは完結だ。

 三人で新米を食べて、お米を別けて、それぞれの生活にもどることにした。

 ここ半年、ボクが言いだし、文句や不満がありながらもこうしてお米や野菜をつくり、一緒に生活してきた。

 親友にはなれなかったけれど……。

「もう人間に攻撃をしかけないだろ?」

「いや、これからも人族とは争う」

「あぁ、そうさ。魔族とは相いれない。魔王は滅ぼさなければいけない対象だ」

「だが、食糧を自分たちでつくれるようになったら、何のために争う?」

「魔王が攻めてこないなら、滅ぼす必要もない」

 魔王も勇者も、ニヤリと笑った。友達にはなれなかったけれど、分かり合うことはできたようだ。

 そう、農業をすれば食糧問題は解決する。食べるという生きる上で最低限の条件を整えられるのだから、それ以上を望む必要もない。人族とは交わらない、と決めている魔族だから、人族を使役したり、お金や領土だって多く、広くする必要がないのである。

 互いにそうやって領域を守っていけば、争いなど起こらないのだ。こうして山の上という、辺鄙で条件の悪い土地でも、しっかりと農業ができると分かって、二人ともそれに納得した。

 ボクはそれを目指して、二人に農業を叩きこんできたのである。


「イクト~ッ♥」

 魔王と勇者が農場を去って、スピリトゥスのみんなももどってきた。実は、この半年の間にグロ爺ももどってきていたが、事情を話して新農場の方に行ってもらっていたのだ。

 みんなは気をもんでいたようだけれど、勇者とて最初からケンカに来たわけではない。前回、裁判で助け舟をだしたマリアンナからボクのことを聞いて、それで訪ねてきたのだ。

 魔王もボクの力の源泉がわかって、こいつには敵わない……というか、戦うべきではない、と気づいたようだ。そして農業の面白さを知り、自分でもやってみたくなったのだろう。種や苗など、いっぱいもたせて帰らせた。魔王城では植物を育てるのが難しそうだけれど、別のどこかで農場を開くようだ。

 これで世界はめでたし、めでたし。ボクはのんびり、みんなと農場をして過ごしていく……と思っていたら。


 グロ爺に会いにいくと、意外なことを言われた。

「このオタネニンジンとカンゾウ、ジュズダマの種を今回、採ってきた。これをこの農場で育てていく」

「え? オタネニンジンって……」

 そう、知る人ぞ知る、朝鮮人参とボクのいた世界では呼ばれていた植物だ。

 ボクも噂には聞いていた。それは栽培手法が確立されておらず、自生するものしか採取できないため、かなり高額で取引されていた。安く手に入るものは大抵、二年生で、五年生が最良というけれど、そこまで大きくするのが難しいのだ。

 自生地で一年以上、グロ爺が状態を確認し、それをこの農場で育ててみよう、というのである。

 農業は学びの連続だ。それこそ環境を変えると、ちがうやり方をしないといけないことも多い。

「オタネニンジンちゃんは、酸性土壌が好きなんだよ」

「ちがう、ちがう。礫質の多いところに暮らしていたら、アルカリ性だよ」

 スピリトゥスたちも興味津々で、ボクの周りに集まって喧々諤々、育て方の議論を戦わせる。まるでそれは子育てを愉しむようでもあり、水のあげ方から、植える深さまで意見が異なる。

 こうして意見がバラバラでも争うことはない。みんな、オタネニンジンが健やかに育ってくれることを願っているだけで、ケンカをするようなことではないからだ。

 植物なんて、みんなちがう立場、種類もちがうけれど、土という同じところでつながっている。匂いや、根を通して交わり、会話し、そうしたコミュニケーションをとることが知られる。

 違いなど関係ない。それを乗り越えて、仲良くできるのだ。

 農業は難しいし、大変だ。でもこうして、みんなと手をとり合って生きていく。ボクは第二の、この異世界生活をのんびり生きていく。

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Plan-T 植物を育てて異世界無双 巨豆腐心 @kyodoufsin

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