第30話 共同作業

   Co-operate 共同作業


 カタクリという植物は、種をつけると、その種には甘い物質が周りについていて、それを蟻がはこんでくれる。そして甘いその物質を蟻が舐めとった後、残った種を巣の周りに放置する。そこから芽生えるのだ。

 そうやって自分の居場所を、生息範囲を広げる性質があった。

 そのため、カタクリの居場所は山のすべてに及ぶ。元々、リノアのいるヴェスカという街は、農場の下流側にあたる。

 その山、全体にカタクリは広がっているのだ。彼女にはどこで魔王が何をしていたのか? すべてお見通しだった。

 タンポポのスピリトゥスに連絡をしてもらい、街のみんなにもリノアから事情を話してもらった。

 加護の力の衰えたボクでは、川の流れを変えるようなことはできない。そこで人海戦術により、防波堤をつくり、川があふれても大丈夫なように急ピッチで工事をしてもらった。

 魔王の調整が中途半端な状態だったこと、そしてまだ雨季には早かったことも幸運だった。春の雪解け水が襲っていたら、大変なことになっていたが、一先ず災厄は防がれたのだった。


 そしてボクたちは、農場にいた。

「なぜ、オレがオマエたちに協力しなければならないんだ!」

「協力じゃない。オマエは農場のお手伝いをするんだよ」

「お手伝いだと! 何でオレが……」

「二回も負けておいて、よくいうな。もう魔族の中からも、魔王にふさわしくないんじゃね? とか言われているんじゃないのか?」

 魔王も言葉につまる。そう、ボクたち……とは、魔王とボクであった。

「とにかく、魔族が食糧生産を怠るから、それを奪うために人族との間に争いが起こるんだろ? ならば、魔族が食糧を自給自足できるようになれば、争いも起こらないじゃないか。魔王が率先して自給自足ができるようになれば、すべて万々歳ってことだろ?」

「争いをなくしたい、などと……」

「黙れ! 魔王として、魔族を率いる長として、魔族の食糧事情を改善するのが、その為すべきことじゃないのか?」

「…………」

「魔法がつかえるからといって、奪って何かを得られる、という考え方がもうダメなんだよ。そもそも、魔王城も何だ! あんな草木も育たないような場所で暮らして、何が楽しいんだ? 緑をみて、咲き誇る花をみて、それで心が癒され、またそこから食料を得て、そうやって生きていくんだよ。それが人間だし、魔族だって同じだ。オマエは農業を学ぶんだ!」


 ということで、魔王はボクの農場で働くことになった。魔王がいると、スピリトゥスは隠れてしまうので、この辺りは二つの農場があることで、一方を農業研修場とできる。

「なぜ牛は臭いんだーッ!」

「牛が臭いんじゃない。牛糞が臭いんだ。でもそれを捨てるなよ。その牛糞をしっかりと熟成させると、肥料になるんだから」

「こっちの豚の糞は?」

「たい肥にできるけれど、基本的に豚は雑食だから、たい肥としてつかうときは熟成期間を長めに。鶏糞は即効性のある窒素多めの肥料だけれど、そういう肥料を好む植物と、そうでない子がいるから、注意しないといけない」

 魔王はぶちぶちと文句を言いながらも、仕事はこなす。しかし基本、魔法で色々なことをこなしてきた、その不精さもあって、仕事をする習慣もないのだから、そこから改めさせないといけない。

 この辺りはザグバと性質が似る。というより、ぐうたらで堪え性がないから、魔法に頼るようになった? とすら思えるほどだ。


「フキという植物は、肝機能障害を起こすんだけど、きちんと下処理をすれば食べられるから、よく住宅地の近くに植えられるし、春先の芽吹きであるこのフキノトウはそのまま天ぷらにして食べてもいい」

「こ……これを食べるのか⁉ ……苦ッ!」

「天ぷらにしても苦いのに、生でかじったら、それは苦いよ」

「こんな苦いもの、食べられるか!」

「舌がお子様だなぁ……。ボクもあんまり得意じゃないけれど、春先の食糧としては貴重なんだぞ」

「こんなマズイもの……ごふッ!」

 ボクに殴られ、魔王も沈黙する。

「苦くても、食べられるっていうのはとても大事なんだよ! 植物にとっては、本当は食べられたくないんだ。でもお互いに食べる、守ってもらう、という関係があって成り立っている。植物たちとは、そうやって関係を築いていくんだ」

「面倒くさいな……」

「食料を確保するっていうのは、いつも面倒なことだらけだよ。それは人間との関係だって同じ。魔族同士もそうじゃないのか? 食べ物をお金をだして買ったり、誰かから奪ったり……なんて、本来のありようじゃない」

 魔王は口をとがらせ、ぶつぶつ言っているけれど、今は人族だって、食べ物は買うもの、と認識するのだから、これは仕方ないかもしれない。

 ただ魔王さえ変われば、魔族全体が変わると信じて、今は魔王の農業研修を成功させようと考えていた。

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