第28話 再戦

   Battle 再戦


 魔王城の位置は分かっている。問題はその途中は荒れ地、枯れ野原となっており、スピリトゥスたちの加護もとどくかどうか……。

 それでも、魔王を止めないとまた人族と衝突する。ボクはそれこそ、人族とは一切関係ない暮らしをしており、気にすることはないかもしれない。でもそのことで勇者がからんできたり、恨みを買って農場に人が押し寄せてきたり、そういう厄介ごとが降りかからないよう、事前に手を打っておこうと思ったのだ。

 前回、魔王城の近くまでの道のりに、彼女たちをいっぱい植え付けておいた。道中の安全と、それこそ食糧を確保するために。

 ただ山道に植えるのは、冬になると地上部が枯れて、根だけとなる子が多い。

 その中で、元気な子たちを連れていくことにした。

 まずは冬でも葉を茂らせ、栄養を蓄えて五月ごろに枯れるサフラン。毒に明るく、弓もつかえる、戦闘力に長けた子だ。

 そして春に種を撒いても育てられる多年草だけれど、秋撒きをして越年生の性質ももつウスベニアオイ。通称、マロウ――。

 花が食べられ、ハーブティーにするとレモン汁などを加えて、色の変化を愉しむことができる。また葉も食べられるので、前回のときに植えておいた。それがこぼれ種で道端に生える。

 そしてもう一人。まだ眠そうなところを、申し訳ないけれどついてきてもらった子がいる。カタクリ――。冬に芽をだし、まだ春明けきらぬころに花を咲かせ、五月には枯れて消える……。彼女たちは球根で大半を過ごすけれど、それで何十年も生きる多年草だ。

 それに、まだまだいる。冬に頑張っている子たちが、ボクが心配でついてきてくれたのだ。


 魔王城の近くまできた。前回もここで迎えられたが、今回も魔王はそこで待ち構えていた。

「前回のこと、憶えているぞ。むしろあの時の痛み、忘れるものか!」

 お父さんにもぶたれたことないのに! か……。顔面を殴った恨みは深そうだ。

「勇者を倒して悦にいっていたから、お仕置きだよ」

「お仕置きだと! キサマ、上から目線で……」

「オマエが人族の上に立とうとしているからだよ。自分より上が、上には上がいる、と思い知らせるためだ」

 魔王が光弾を放ってきた。それを手ではじくけれど、ボクは鋭い痛みを感じて、手をふる。前回のように、余裕ではじいていたときとはちがう。

 魔王もそれに気づいたようだ。

「弱っているようだな?」

「冬は苦手なんだよ。寒いときは手がビリッとするだろ?」

 弱点をみつけ、魔王も嬉しそうに笑った。

「はははッ! どうやら、もう私の攻撃をはね返す力はないようだな」

 魔王はすぐに巨大魔法を準備する。詠唱がつづく中、ボクの隣にすっと並んだスピリトゥスがいた。

 巨大なエネルギー弾が飛んでくる。ボクはそれを片手ではじき飛ばした。

「な、何だと⁉」


 ボクの隣に現れたスピリトゥスは、オオバコ――。ごくありふれた野草だ。

 でも、この子がすごい。通常、草花が育たないような踏み固められた土のところに生える。踏まれても平気、頑丈な野草だ。これはのど飴にもつかわれるなど、風邪のときののど薬としても優秀で、さらに根にはイヌリンという、お通じをよくする食物繊維が豊富。さらにその実は水分をふくむとゼリー状の物質にくるまれ、それが動物や人間の靴にくっついて生息範囲を広げる。そのゼリー状の物質は、満腹感をもたらし、お通じもよくする。つまりダイエットに利く、として利用されるほど人にとって有用な植物なのだ。

 その頑丈さで、防御力も抜群。しかも魔王城の近くは荒れ地であり、オオバコが育つ環境でもある。冬でも頑健に葉をのこすので、今回来てもらった。野草は勝手に生えるもので、本来はスピリトゥスにならないけれど、これだけの効能のある薬草なので、農場でも育てているのだ。

「その女は何者だ⁈ なぜ、いきなり現れた⁈」

 どうやら魔王も、スピリトゥスについてはよく知らないようだ。それは植物を大切にしよう、なんて魔王はいないだろう。もし考えていたら、こんな荒れ地に棲んでいないはずだ。


 オオバコのスピリトゥスがボクの隣に寄り添ってくれるから、力も強まる。加護というより、実際にボクを守る力だ。

 大きな魔力を消費し、疲労する魔王にむけて、矢が飛んでくる。かすめただけだったけれど、サフランによる毒矢だ。かすっただけでも腕が痺れる。魔王も慌ててアンチポイズンの魔法をかけるけれど、即効性のトリカブトの毒をたっぷりと塗り付けてあるはずだ。

 毒消しに気をとられ、相手の攻撃の手がゆるむ。ボクも一気に接近した。魔王も今回は警戒していたのだろう。姿が見えなくなるほど、高速で移動する。ただマロウの加護により、ボクの視力はかなりよくなっている。魔王の動きをとらえ、ボクは距離を詰めた。

「バ、バカな! また……」

 ボクの拳が、魔王の顔にめりこんでいた。










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