第27話 勇者の去就
Court 勇者の去就
人間なんて、自分の都合で相手を判断し、貶めたり、反対に持ち上げたりする。それはあくまで自分にとって相手がどういう立場か? また利用、活用できるか? という判断であって、相手のことを正当に評価するものではなく、色眼鏡がついているものだ。
勇者の立場が悪くなった。
この世界で、勇者とは神殿により託宣をうけた者をさす。魔王の力が強大化したとき、神官が神に祈る。世界を救う者を尋ねる。その結果、託宣をうけて択ばれた者のことだ。
勇者はその使命をうけ、研鑽を積み重ねてきたはずだ。それは託宣によってえらばれた……といっても、神によって力を与えられるわけではなく、あくまで資質をみとめられただけ。
彼の執念、勇者としての信念が、突出した力を身につけさせた。
元々、この世界の人々は魔力をもつ。かつてはそれに長けた、能力の高い者が魔族として選抜種となり、やがて種として分化したけれど、今でも人族の中には魔力の強い者もいる。
神官がどうやって魔力の強い子供を見極めるか? それはナゾだが、彼はよくその期待に応えてきた。多くの場面で、勇者として人々を救う行動をとってきた。
ただ、前回がそうだったように、まだ魔王に敵うほどではない。
そしてその執念深さ、ひたむきに努力する力が、ボクに向いてきたから、トラブルとなった。
困ったものだ……。
ボクは町にやってきていた。
人間と会うことは本意でない。前の世界でも、会社に散々にこき使われ、その記憶が脳裏にこびりつく。
でも町まで来たのは、勇者に対する弾劾裁判がはじまろうとしていたからだ。
前回の魔王討伐、聖剣を折られ、ほとんどの冒険者が瀕死の重傷を負った。ちなみに前回も、ボクが治療をしたことで死亡者はいなかったが、それでも大きな被害がでたことは間違いない。
そして今回、魔王討伐という前触れで、ちがう行動をとった。そしてその中で冒険者を自らの手で殺してしまった。そうした諸々のことが、他の冒険者から告発され、審理されることになっていた。
「キミが町にも来られるなんて、意外だったよ」
「あの山の上からだって、綿帽子は飛ばせるんだよ。えっへん!」
なるほど、タンポポというのは街中で多い。特に西洋タンポポは環境変動には弱いけれど、硬いアスファルトの割れ目……ここでは石畳の間などでも生えるなど、適応力は高い。
この町に来たのは初めてだけれど、タンポポのスピリトゥスのお陰で、迷わず裁判所までやってきた。
「魔王を倒すとパーティーを募った上で、民間人を殺すために冒険者をつれていったことは、本当か?」
パーティーは信用で成り立つ。勇者が一番強いのだから、勇者に随うのは当然だ。でも、その勇者が冒険者たちに牙を剥いたら、冒険者にとっては堪らない。マリアンナを殺したことは、ある意味で他の冒険者からの離反を招く、重大犯罪として認識されるのだ。
勇者ダリルは無言のままだ。目を閉じて、黙って聞いている。
「魔導士マリアンナ・トリデンを殺したのは、本当か?」
勇者は応えない。でも、他の冒険者が次々と証言していく。三十人の冒険者たちの証言だ。
いくら勇者が沈黙を貫こうと、証拠はそろった。
「勇者による、人類への叛逆は明白である。よって……」
「待って下さい!」
そのとき法廷に飛びこんできたのは、マリアンナだ。
「私は無事です。ある方に助けられ、こうしてまた戻ってきました」
冒険者たちもザワつく。あのキズ、勇者の剣をうけて無事で済むはずがない……と誰もが思っていた。
「そう、私は勇者の必殺技をうけとめ、さらにその傷を癒す、勇者以上の力をもった者に救われたのです」
「いいんですか? 最後まで聞かなくて」
タンポポのスピリトゥスが、マリアンナを送り届けただけで帰ろうとするボクに、そう尋ねてきた。
「いいんだよ。人族のことは人族に任せるさ。それでまた、農場に手をだすようならまた追い返すさ」
ボクはそういったけれど、自信があるわけではない。特に今回分かったのは、冬は弱いということ。
ボクの強さはあくまで、スピリトゥスによる加護。冬になると眠ってしまう子たちの加護は、薄くなるのだ。それでも残ってくれている子たちもいるので、彼女たちと一緒に、農場を守っていく。
勇者もしばらくは大人しくしてくれているだろう。ただ、勇者の力が弱まると、有利となるのが魔族……魔王だ。
そして魔族のザグバが言っていたように、魔王はたった一人で、様々な工作を人族に仕掛けてきているようだ。そうなると、その動きを知ることはさらに難しくなる。組織で動くなら探りようもあるけれど……。
ここで魔王を、もう一度叩いておかないとまた色々と厄介ごとが押し寄せてきそうだ。ボクも覚悟を決めた。
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