第22話 教導
Pupil 教導
「雑草なんて、燃やせばいいッス!」
「ダメダメ。ここは雑草も土に埋めて、肥料にするんだから。草木灰にする雑草は別にあるから……」
ザグバは畑作業を手伝う、といいだし、一緒に作業をしていた。ちなみに、スピリトゥスは彼女がいると出現しない。これは冒険者のマリアンナのときもそうだったけれど、植物との向き合い方、そんな相手のことを踏まえて彼女たちは接し方を変えているようだ。
「魔族だって、畑仕事をするだろ?」
「するッスけど……、あんまりうまくできないッス」
「じゃあ、食事はどうしているの?」
「人族から奪うッス!」
「そんなことをしていたら、人族だって魔族を倒したくなるだろ……」
それでは魔族というより、盗賊だ。
ただ三十八人しかいない魔族では、それこそ食糧をつくるより奪った方が早いことも確かだ。
「もしかして、魔王が人族を征服しようとしているのも?」
「多分、食糧事情の改善ッスね。魔王城って、痩せた土地にあるから……」
それは、魔王城ってイメージ通りの岩だらけで、おどろおどろしい場所にあるそうだけど、そんなところに城を建てたら食糧事情が悪くなるぐらい、想像できるだろうに……。
「魔族同士って、仲間意識はあるの?」
「仲間ッスよ。でも、魔王様に従うだけって感じじゃないッスね。一応掟とか、決まりがあって、それには従うッス。でも、破ったからといって罰がどうなるとか、よく分からないし……」
「どんな掟があるの?」
「魔力の高い者が魔王になる……とか、人とまぐわってはいけない、とか?」
「人と? どうして?」
「魔力が落ちるみたいッスよ。人族はほとんど魔力をもたないッスからね」
確かに、魔法使いといっても魔王と比べると、かなり力が落ちるのは火を見るよりも明らかだった。
「じゃあ、魔王は何で征服なんか……」
「さぁ? 魔王様とは一、二回会っただけッスから……」
それでよく魔王親衛隊三十七人衆とか、言っていたな……。でも、魔族が一枚岩でないからこそ、魔王討伐をしたときも、誰も妨害に動かなかったわけだ。
でも、魔王はハーレムをつくろうとか、そういうことはないようだ。何しろ、子を生しても魔族になれないから。人族を支配して、富を簒奪したい? 食糧を確保したい? 彼の目的が今ひとつ不明だ。何をしたいのか? もう少しさぐる必要も感じていた。
「とにかく、魔族の食べ物が足りないからといって、人々から盗んではダメだ。しばらくここにいて、農業の大切さとそのコツを学んで、自給自足できるようになるまで特訓だ。いいね」
「え~ッ‼」
「文句は言わない。これは君たちの将来にかかわる問題だよ」
しばらくザグバはぶーぶー文句を言っていたけれど、反論をゆるさないのは、圧倒的な力の差もあるからだ。
どうやら魔族とは魔力をもつ者――。それは純粋に、遺伝的に決まるものらしく、ほとんど人間、亜種といってもよいのだろう。そうでないと、これほど生物学的に姿形が似ていないだろうし、言語とて通じていないはずだ。
掟で子を生すことを禁じるぐらい、それは厳格に守られてきた。でもそうなると、余計に魔王が人族を支配しようとする理由が不明となってきた。
ボクとしては、魔力にかまけて努力を怠り、農作業に力をいれてこなかった魔族たちに、植物を育てる大切さを教えこむ、という大切な任務が課された。まずはザグバに、植物の愛で方、育て方を教えよう……と、しばらくここに住みこみで働かせることにした。
でも、不都合もあった。文化のちがいだろうか、お風呂からザグバが上がってきて「イクト、タオル!」と、全裸で駆け込んできた。
「脱衣所に……って、隠さないの?」
「……ん? 飼い犬の前では、全裸でも大丈夫ッスよね?」
「……それって、ボクを飼い犬扱いしているってこと?」
「…………てへ♥」
全裸でぶりっ子するザグバの頭を、殴っておいた。自分からタオルで前を隠さないので、後ろめたさや後ろ暗さは感じずに済むが、むしろ殴って前のめりになってくれた方が、前を見ずに済む……。
スピリトゥスたちは、新しい農場の方で作業するようお願いしておいた。ほとんどの植物は、すでに移植してあるので問題ない。むしろこの古い農場を誰かに解放しようと考えていた。
ボクとグロ爺、二人だと一ヶ所の農場だけでも十分な食料が確保できる。スピリトゥスは基本、食事はとらないので、今のままだと余るほどだ。農場が二つあっても手に余る。
秋の収穫を終えたので、種もとれ、野菜も新農場に移植できるようになったので、ここをどうするか? 迷っていたところでもあった。
とにかくザグバがどうして、ボクの前に現れたのか知らないけれど、彼女に農業を叩きこみ、食糧調達を行えるようになり、少しでも魔族と人族の争いが減るようにする。それがボクの新しいミッションとなった。
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