第17話 おすそわけ
Piece? おすそわけ
人類の存亡をかけた反攻作戦は、引き分けに終わった。
冒険者パーティーのほとんどが倒されたが、ボクがハーブと薬草で回復し、命を落とす者はいなかった。でも完全回復までは時間もかかりそうだ。
恐らく、冒険者の中でもっともダメージを負ったのは、勇者だろう。聖剣デュランダルは折れ、冒険者パーティーもほぼ壊滅するほどの打撃をうけた。そればかりではない。一般人、ただの食糧調達係だったボクが、あっさりと魔王を撃退してしまったのだ。
心を折られた……。ボクがパーティーのメンバーを回復している間も、呆然と立ち尽くしていたっけ……。
魔王も、グーパンチで奥歯がガタガタになったらしく、半泣き状態で魔王城へと引き上げていった。
魔王には悪いことをした……。ただ、人類より体も大きく、その無尽蔵の体力、魔力で人類を苦しめ、愉しんで戦うなんて底意地の悪いことをしているから、ちょっと強めに殴ってしまった。ここは自業自得、と思うことにした。
冒険者とて、一人の魔王に対して二十人以上で殴りかかるなんてことをしているのだから、褒められたことではない。でも大体こういう戦いってまず弱い手下から倒していき、魔王の腹心みたいな相手との戦いで勇者の親友みたいな人が亡くなり、引くに引けない戦いになって……。
そんなお約束の展開があって、然るべきでは?
もう引き分けでいいじゃん! ということで、ボクが場を収めたのだ。勇者には悪いけれど、もう少し修行を積んで、魔王ももう少し空気を読んで、再戦に臨んで欲しい!
そのときは、ボクと一切関係ないところで……。
これでリノアにも迷惑をかけずに済んだ。勇者もボクの話はしないだろうし、個人的にはメデタシ、メデタシ。
ボクはさっさと農場にもどってきた。
そうして早く帰ってきたのは、夏の収穫時期を迎えていたからだった。
トマト、ナス、きゅうりといった野菜もそうだけれど、夏前が収穫時期のマメ科の植物は、夏に来年用のタネを採らないといけない。そういった諸々の作業をするためだ。
それに夏といえばニガウリ、ゴーヤも採れるし、モロヘイヤやツルムラサキといった温暖な気候を好む植物も繁茂する時期だ。暑いときだからこそ忙しくなるのも農家の宿命である。
しかも、これはリノアとの約束もあり、収穫を急いでいる面もあった。人類はさらに食糧事情が悪化し、食べられる野草を教えてあげたリノアの町は、そこそこ保っているが、それ以外は今回の反攻作戦にも食糧を割いたりしているので、余計に負担となったのだ。
そこで、この農場で余剰となった野菜を渡すことになっていた。
「申し訳ありません。こんなに……」
リノアが恐縮するぐらい、ボクはたくさんの野菜を運んできた。元々、一人では余るぐらいの量をつくっている。それは少量だと、種の多様性が損なわれるから。これはグロ爺の教えでもある。
「約束通り、これを金銭的、また政治的な取引に利用しないこと。あくまで人道支援として、周りの町に配ってあげて」
「分かりましたわ。むしろ、こんなに多くの野菜を我がファラント家が調達した、となるとひと悶着ありそうなので、父上とも相談し、信頼できる民間で配ってもらうことにしました」
「懸命だね。ときに、冒険者パーティーのことは……」
「あなたは死んだことになっていましたわ。しかし、ギリギリで追い払っただけなので、また反攻作戦を計画している、と言っていました」
「勇者も懲りないね……」
「勇者ではなく、王の意向です。勇者は聖剣も失い、今ではないと主張されたようですが……」
「王が? 何でまた……」
「勇者の報告を信じてしまったのですわ。私はあなたから連絡を受けていたので、事情を知っていますが……」
なるほど、勇者が自らの力で撃退した、という話をされたら、弱っている今こそ好機、と考えたとしても不思議はない。
「また戦うのですか?」
ローズマリーのスピリトゥスにそう問われ、ボクは首を横にふった。
「ボクはみんなの加護で無双になったけれど、戦いたいわけじゃない。多分、勇者もボクには頼りたくないだろうし、魔王もボクのことは警戒しているだろう。今のところボクの介入は、双方とも望んでいない」
「それはよかったです……」
「でも、みんなは魔王より強いの? ボクは魔王を凌駕していたけど……」
「恐らく、一人一人の能力は魔王とは比べものにならないぐらい、弱いですよ。でもアナタ一人に、私たちの加護が集中していることで、複数の作用が重なっているのでしょうね」
農作業をするには助かるけれど、戦闘をしたくて加護をうけたわけじゃない。この力を戦闘につかう気はないし、ボクらがいる農場に手出しをしないのなら、ボクは関わるつもりもない。
この時まではそう思っていた……。
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