第16話 魔王の憤慨
Dudgeon 魔王の憤慨
一方が魔族に襲撃をうけた、ということで国同士の戦争は止まったらしい。これで移住計画を慌ててする必要もなくなった。
ただ街道の位置関係からも、移住はすすめることにして、スピリトゥスのみんなが二拠点生活となってきた。
でも、そうなると違う意味で、色々な要求がでてきた。
「私たちも、色々なところに殖えたら、色々な場所に行けるよね?」
そういう子たちが増えたのだ。
同じ系統でも、スピリトゥスが生まれた後で、クローンとして殖やしてあげると、現れる場所も増える。その仕組みにみんなが気づいて、旅行をするような気分で移植を望む。
しかし、これが次の展開を生むこととなった。
リノアに野草を教えたことで、ふたたび依頼がきた。
「冒険者パーティーに協力して欲しいって」
タンポポのスピリトゥスがそう伝えてきた。
「何でまた?」
「今回の件で、魔王への反攻計画があって、冒険者がパーティーを組んで、人類存亡の戦いを仕掛けたい……と。でも道中の食糧調達すらままならず、食べられる野草を調達して欲しいって」
なるほど、庶民ですら食べるものに苦労する中、冒険者が遠征するからといって、食糧を融通する余裕もない。
「人類存亡をかけた戦い……協力しないといけなそうね」
タイムのスピリトゥスが、話を聞いてそうつぶやく。
「そのお題目で、無視していたら、確かに白い目でみられそうだね」
「むしろ、リノアさんが野草の知識をもつことで、白羽の矢が立てられたらしいね。でも本人は自信がないから、お願いしたいって話」
そう、彼女に野草の知識を教えたことで、食糧事情がよい町……の噂が広まったらしい。ボクのせいでもあって、ここで断ったら、リノアの立場を悪くすることになるだろう。
冒険者パーティー。勇者を筆頭に、ガーディアン、ウィザード、ハンターといった多種多様な人々が集められた。まさに人類の存亡をかけた反攻作戦。全力でぶつかる構図である。
「君は?」
そう尋ねられ、ボクも「プロキュアメントです」と応じた。きょとんとされたけれど、他にいいようがない。
調達――。ボクが担っている役であり、三十人近くいる冒険者の中で、ボクだけが異質の、非戦闘員。
わずかな手持ち食糧と、途中でボクが調達する食糧で、魔王のいる魔王城まで連れて行かなければいけないのだ。ハッキリ言って、ボクが一番難しいミッションを請け負う。ただ地味で目立たないし、目立ちたくもない。
一応、作戦は立てておいた。魔王城のある位置は分かっているので、その道中にツルナという植物を植えておいた。
ハマヂシャとも呼ばれ、強壮な種で、よく海岸近くで岩の隙間、波をかぶるところに生えていてびっくりする。ほうれん草と、栄養も調理法もそっくり。ただし、ほうれん草は一回収穫すれば終わりだけれど、ツルナは脇芽を伸ばし、何度も収穫でき、繁茂する限り何度も収穫できるので、行きと帰りで役にたつものだ。
それ以外でも、多くの野草の在り処などを事前に調べておいた。もう遠征に行く前から、へとへと……。
そんなボクの苦労もあり、冒険者パーティーは魔王城へと接近していた。しかし当然、魔王とてその動きを察知していた。ここまではほとんど戦闘もなかったのに、いきなり魔王との直接対決――。
冒険者パーティーは寄せ集めだけれど、魔法と剣のの熟達者同士。阿吽の呼吸で戦いをすすめる。でもこのパーティーの初戦、連携にはムダが多い。
ボクは遠くから眺めるっばかりだ。戦闘の素人だし、ボクが入っても邪魔なだけ。
しかし退屈な戦い……。勇者はブーストがかかって高速で動く……らしい、でもボクにはスローに見えるし、魔王の攻撃も、魔法に頼った威力重視で、勇者の動きに遅れをとる。
これだから魔王と人族が争える……というか、共存し、相争ってきた……などと考えるほどだ。
でも体力的な差もあって徐々に冒険者たちが押されはじめ、次々と倒されていく。
ある者は力尽き、ある者は魔王の攻撃に討たれて……。
魔王の大規模、範囲攻撃がきた。それで、仕方なくボクも倒れることにした。
痛くも痒くもないけれど、ボクだけ立っていたら不自然――。
でも、そんなボクを心配して、スピリトゥスたちが駆け寄ってきてしまう。
役に立つこともあるかと思って、彼女たちも所々に植えておいたのだ。
魔王も、勇者も、唖然としてボクたちをみつめているけれど、まさかボクがスピリトゥスたちの加護によって、無双状態となってしまった一般人なんて、思いもしないだろう。
「……これ以上やると……」
ボクの言葉を最後まで待たず、魔王の最大攻撃「ダジオン‼」が襲ってきた。
早く家に、農場に帰ろう……。ボクは戦いに付き合わされることに、うんざりしていた。怒りの炎――という名の最大攻撃を軽くあしらい、魔王に向けてグーパンチを放っていた。
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