第14話 苦い草

  War 苦い草


 ただボクたちがそうやって、移動の準備をはじめていたころ、人族の方では大変なことが起きていた。

 魔族による誘導によって、国同士が戦争を起こしていたのだ。

 リノアがそう知らせてくれた。彼女に渡しておいたタンポポが、スピリトゥスを通して伝えてくれた。ちなみに、タンポポは知られざる薬草であり、花、茎、葉、根までつかえる。

 金というより黄色に近い、明るい髪色に、幼女のような見た目をしたスピリトゥスで、俗に西洋タンポポという呼び方がされる。彼女たちは単為生殖、つまり受粉しなくても種を殖やせる、つまりクローンで殖えるので、リノアに渡しておいた種から彼女たちが育つと、こうして意思を伝達できるのだ。

 ちなみに、西洋タンポポは侵略的植物として、毛嫌いする人も多いけれど、和タンポポより味はよいらしい。逆にボクは、西洋タンポポしか口にしていないので、比較はできないけれど、栄養成分的にも西洋タンポポの方がいいらしい。

 もう一ついえば、環境適応力は和タンポポに軍配が上がる一方、西洋タンポポは、和タンポポが苦手とする街中に生えるので、こちらの方が多く見え、それで毛嫌いされることもある。

 ただし、和タンポポは精霊化しないので、やはりここでは西洋タンポポに軍配が上がっている。


「戦争か……。街道の方にも兵士が通るかもしれないな」

 この辺りは急峻な地形もあるため、山に入って……つまり、この農場に近づく、ということはなそうだけれど、街道を多くの兵士がつかうと、農場が発見されてしまうかもしれない。

「移住は急いだ方がよさそうね」

 ローズマリーも、深刻そうにそう応じる。彼女がスピリトゥスたちの意見を代弁してくれる。

 しかし果物やハーブなら、植え替えだったり、挿し木をつくり、新しい株として育てたり、といったことが容易だ。ただし一年草の野菜、果物の類だと、そう簡単に移植というわけにはいかない。

 たいていが根をさわられるのを極端に嫌がるからだ。植え替えたら、そのまま枯れてしまうか、上手く育っても収穫を期待できないぐらいの成長にしかならず、種すらとれない。つまりここでは購入も難しいので〝絶える〟ということだ。

 しかも、スピリトゥスとしての彼女たちを残したまま、移植するためにクローンである必要がある。

 色々と考えることも多かった。


「自分たちのお世話をするって、何か新鮮!」

 イチゴのスピリトゥスがそういって作業をする。彼女たちはランナーという枝を伸ばし、その先にクローンをつくる。クローンはその先で根付くと、また次のクローン……といった形で、クローンを大量生産していくけれど、今は緊急事態なので、すぐに親株から切り離す。

 それを新しい場所に植えるのだ。

 サフランのように、夏場は休眠するものも簡単に移し替えられる。夏場は球根の状態で、その球根に子株がついた形で、夏場は眠っている。掘り返して、子株を切り離して新しい株として育てるのだ。

 ただ、そうでない植物もいる。夏場が最盛期で、移動を嫌がる子や、そもそも根を弄られるのが嫌、という子も多い。

「キャーッ! イクトのエッチ‼」

 そういって嫌がるのは、直根性のコモンマロウ。紫の髪も美しいけれど、花も紫色をしたハーブで、花を摘んでハーブティーにすると、青い色がでて、それにレモン汁などの酸性の液体を足すと、ピンクや赤色に変わる。

「根っこを見られたくないのは分かるけれど、脇芽をとって植えるのはまだ早いし、我慢してくれよ」

「わ、私の下半身をみておいて、我慢しろっていうの⁈」

 そういって、ボクの背中をぽかぽか殴ってくる。作業がすすまない……。


 ボクはまず、移動先の土質、樹木などを植えて日照環境、そういった作業をしないといけない。

 酸性を好む植物もいれば、アルカリ性を好む植物もいる。太陽が好きな植物、日陰を好む、半日陰を好む、といったそれぞれの適した環境をととのえることも、大切な作業だった。

 そのために太くて立派な果樹を、必要なところに植え替えたり、今ある木もできるだけ伐らず、植え替えで別の場所にもっていく。そうやって環境づくりはすべて、ボク一人の作業だ。

 畑にするところは、天地返しというのをしないといけない。深くまで掘って、上の土と下の土を入れ替える。そうすると、上の土にある雑草のタネが芽吹くことなく、また栄養豊富な下の土で、野菜を育てられるのだ。基本、放ったらかしの自然農法だけれど、野放図に雑草が生えることは躊躇われるのであって、必要な雑草を生やすためにも、他の雑草を抑えないといけない。

 ドクダミ、スギナ、ヤブカラシ、根っこで殖えるワースト3の雑草で、こういうものが繁茂しないためにも、努力しないと……。




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