第12話 毒と友達
Solanaceae 毒と友達
トマト、ナスなどのナス科の植物が大きくなってきた。ここではタネから苗を育てて、それを植える。
ナス科は「これもナスの仲間?」というほど、葉や茎の形状、実もまったく異なる変化を遂げた。
ナス科の植物は、小低木に分類されるものもあり、その一つがクコ。杏仁豆腐に乗っている、あの赤い実……というと、知っている人も多いだろう。
あれは彩だけでなく、栄養を足す意味もある。中国料理は医食同源であり、杏仁豆腐では足りない栄養素を、クコで補っているのだ。ただし、ペタインを含むので、妊婦や授乳中の女性は注意する必要がある。
ガーデンハックルベリーもナス科だ。真っ黒い実をつけ、栄養豊富なこの植物は、一年草なので精霊化はしない。味も、香りもないけれど、晩秋に収穫してジャムにすると、冬の足りない栄養を補う効果があった。
もう一つはペピーノ。ナス科なのに、味がメロンという不思議な果実をつける。分類は多年草だけれど、冬の気温が低いところでは枯れるので、ここでは一年草の扱いとなる。
ただ、脇芽をよくだす植物で、ここでは晩秋にその脇芽をとり、ポットに苗を植えて室内の暖かいところにおく。そうすると翌春、そこから育てることができ、ここでは精霊化していた。
「イクト~!」
ペピーノのスピリトゥスは、白に紫の挿し色が入った髪をする。ぷにぷに頬っぺたと、ころんとした丸い身体が特徴だ。
上手くすると、春と秋の二回、収穫できる。他のナス科が年に一回の収穫であるのと比べると、とても豊穣な植物なのである。それが影響するのか、ボクに抱きついてくると、ペピーノはそのぷにぷにの唇でボクに吸い付いてくる。
それを受け止め、ボクも返してあげる。彼女とはこういうコミュニケーションが多くて、農作業を手伝ってくれるタイプでないけれど、甘えてくるタイプなのだ。
「相変わらず、ペピーノは甘えん坊だね」
そう声をかけてきたのは、クコのスピリトゥス。深紅の髪、深紅の光彩をもつ少女で、とても小さい。
「クコも甘えたら~、気持ちいいよ」
スピリトゥスは本当に千差万別、一致しているのは育ててくれる人のところに現れること、ぐらい。
クコは呆れたように首を横にふった。
「植物は強く生きる! 誰にも頼らず、環境にも負けず、甘えたらダメなの!」
彼女は荒れ地でも、雑草の中でも、しっかりと自生する性質をもつ。小低木なので、森の中で生きるのは大変なはずだけれど、日光さえ当たれば生きていける強さをもつ。
「クコってば、そんなに赤くなっていると、タコみたいだよ」
これはクコに一番言ってはいけない言葉――。彼女は顔を真っ赤にして怒るが、そうなると本当にゆで蛸のようだ。
「あなたみたいに、放っておくとひょろひょろと伸びて、自立もできない植物じゃ、しょうがないでしょ! 人に頼ってしか生きられなくなったら、植物としては終わりよ」
「終わりじゃないよ。他生物に頼って生きる子なんて、山ほどいるじゃない。寄生生物なんて、もう宿主がいないと生存することができない。私たちは大きくなったら大変だけど、その前に色々な殖え方があるもんねぇ~」
同じナス科なのに、生存戦略がまったくちがう二人だ。水と油ほどではないにしても、自律して生きることをめざすクコと、種では繁殖しにくく、脇芽で殖える方が多いなど、人間に頼るペピーノ。
むしろ同族嫌悪、なのかもしれない。
ちなみに、ナス科はサフランのスピリトゥスがつかったハシリドコロという毒草もそうだ。
人に利用されることが多かったナス科でも、毒をもつものは多い。ガーデンハックルベリーがソラニンをもつのもそうだ。ヒヨスやマンドラゴラといった、最強の猛毒草たちもナス科である。
「まったく、あの二人もしょうがないわねぇ」
ケンカする二人を遠巻きにして、そうつぶやいたのはトウガラシのスピリトゥスである。彼女もナス科、トウガラシも一年草に思われがちだけれど、多年草であり、ここではタネから育てるのが難しく、ペピーノと同じで脇芽を翌年まで暖かいところで育てる。そのため、精霊化している。
「同じナス科なんだから、仲裁しないの?
「しない、しない。好きにさせておけばいいのよ。私は、アナタと仲良くしたいかなぁ~♥」
そういうと、ボクにすりすりしてくる。ハバネロほど暴君ではないものの、ここのトウガラシも結構辛い。彼女が服の中に手を入れてきて、身体をいじってくると、それだけで少しヒリヒリするのは、トウガラシが皮膚についた時と同じ。カプサイシンの効果だ。
「ちょ、ちょっとトウガラシ……」
「うふふ……。刺激的な体験、させてあげる♥」
刺激的というか、刺すような痛みて悶絶していると、そんなボクたちに気づいたクコとペピーノが「トウガラシ!」と怒りをむける。ナス科は連作が難しいように、他のスピりトゥスの為すことを、いなすことができないようだ……。
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