第11話 香り
Guard 香り
リノアを目隠しして、ヴェスカに送りとどけた。
「これだけのスピリトゥスがいる場所……隠しておきたいですわね」と、変な納得の仕方だったけれど、一先ず受け入れてくれた。
「君のところにもスピリトゥスが現れたら、きっとボクたちのいるここともつながるから」として、帰ってもらうことになったのだ。
しかし、彼女のことを背負って山を越えたけれど、ボクの体力がとんでもないことになっていた。これも、加護のお陰らしい。ややボクより小さいぐらいのリノアを背負って走っても、全然疲れないのだ。
そういえば、農作業をしても馬力がついたと思っていたけれど、どうやら成長して体力がついた……だけではなさそうだ。
加護は、スピリトゥスたちがこういう場面で発動して、という形でボクにつけてくれるものだ。きっと重い荷物をもっているとき……力を倍増する加護をつけているのだろう。
いつの間にか、ボクはとんでもないことに……と気づくことになりそうだ。
その加護は、スピリトゥスたちのコミュニケーション、ボディコンタクトによって授けられることが多い。
農家の朝は早い。陽がのぼるぐらいで目覚めるけれど、ボクの部屋で悲鳴が上がった。
「何をしているの⁉ カモミール」
「ん~……、おはよう、イクト」
カモミールはお花を乾燥させ、お茶として飲むハーブとして有名だ。ローマン種とジャーマン種があるけれど、ジャーマン種は一年草で、精霊化はしない。彼女はローマン種、多年草で、花後に切り戻しをすると、また来年も青々とした緑と、美しくて香りよい花を咲かせてくれる。
寝ているボクを抱き枕のようにして、一緒に寝ていたので驚いたのだ。
「私の加護、たっぷり注入しておいたわ♥」
そう言われると、文句もいえない。白いスケスケのネグリジェのようなものに、黄色い下着がチラ見えする。わざとそういう恰好をして、色気で誘っているのだ。きっとそれは、自身の花色を表現しているのだろうけれど、そのあざとさが鼻につく。
どうやら、ボクがリノアを連れてきたことで、心配したスピリトゥスたちがもっと加護を……となったらしい。
どうやら、人と関与すると争いに巻き込まれる、と思っているのだ。グロ爺もこうして世捨て人のように、山奥で一人暮らしをしているように、人間世界というのはとかく生きにくい、とスピリトゥスたちも考えている。
「人間同士も争っているけれど、それを促しているのが魔族なのよ」
タイムのスピリトゥスがそう説明してくれる。
「魔族に唆されて?」
「魔族は強大な力をもつけれど、数が多くない。そこで人族同士を争わせ、数を減らそうとしているの。人族もバカじゃないから、それを食い止めようとする人もいるけれど、バカなのよね……」
苦笑するしかない。確かに、人間なんて戦争をしても損をするだけ……と分かっているのに、それをする。権力者にはその愚が分からないからだ。
「じゃあ、ローザ同盟と、コンボルヴュラ連合が争っているのも?」
「魔族が裏で糸を引いているのよ。私たちは、他のスピリトゥスとも連絡をとりあって、状況はつかんでいるけれどね」
スピリトゥスたちの地下ネットワークは、想像以上に広大で、様々な情報をやりとりしているようだ。
「だから、イクトも私のおっぱいを飲んで……」
タイムはそういって、自分の胸をおしつけてくる。それは小さいころ、彼女のおっぱいを飲んで大きくなったけれど、この歳ではどうにも恥ずかしくて……。
もっとも、直接おっぱいを飲まなくても、こうして胸をおしつけられるだけで、加護は授けられているはずだけれど、授乳に拘るところはタイムらしかった。
「イ~クト♥」
背後から抱き着いてきたのは、ニンニクのスピリトゥス。
彼女たちのように球根のものは、一片ずつにばらして植える形をとるため、野菜でも精霊化しやすい。サフランもそうで、夏場までにしっかりと育つ、今はそういう時期でもあった。
しかし……。「ん~……。匂う」
「あぁ~ッ! レディになんてことをいうの! ボクは匂いがするけど、これが栄養の素、なんだからね!」
その通りだけど、臭いものは臭い。だけどおいしいし、健康にもよいので、食べてしまう……そんな野菜だ。
「え~い。私の匂いをこすりつけてやる!」
「えぇ~! ちょ、ちょっと……」
ニンニクは全身をつかってすりすりしてくる。匂いは強烈だけれど、スピリトゥスとなった彼女は、色々な意味で豊かな感じだ。胸も大きくて、身体をこすりつけてくれば、当然その柔らかさも……。
タイムはボクの顔に胸をおしつけてくるだけだけれど、全身をこすりつけてくるニンニクだと……。
ただこの後、他のスピリトゥスは近づいてこなくなるだろうから、それはあり難いことにもなりそうだった。
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