第5話 加護
Kiss 加護
スピリトゥスたちの加護――。
元々ウィースというエネルギー体でもある彼女たちは、魔力そのものといってよい存在だ。
ボクに魔法特性はない。そこで、スピリトゥスが加護を与えることになったが、その与え方というのが〝スキンシップ〟である。
ワイルドストロベリーがお尻をすりすりとボクの股の間にこすりつけてきたのも、そのスキンシップ。
イチゴが「農作業にいく」というボクに、そそくさとお弁当を準備してついてきてくれたのも、行き帰りで手をつなぐことがスキンシップになるから。
スキンシップのやり方は様々で、個性がよく表れるけれど、少しでも自分の加護を与えようと、虎視眈々と狙ってくる。
「ほら、イクト。またオッパイ飲む?」
「タイムさん、語弊があるから。小さいころの話だからね、それ」
スピリトゥスは歳を重ねないので、出会ったころと見た目がほとんど変わらない。それはふくよかな胸も同じ……。タイムのほかにも、色々なスピリトゥスから乳を与えられ、ボクは大きくなった。
「いいのよ、今でも飲んでくれても」
そういって、胸元を露わにする。ボクだって、興味がないわけではないけれど、スピリトゥスはふだん、姿を消していても近くにいることもあり、誰の目があるか分からない。
オッパイなんて吸っていたら、他のスピリトゥスが「私も、私も」と押し寄せるに決まっている。
「イクト、おはよう……」
寝ぼけ眼で声をかけてくるのは、サフランのスピリトゥス。彼女は「おはよう」といっても、他の植物が元気に育つ時期、眠りにつくのが特徴である。
今はまだ少しずつ眠りにつこう、という段階なので、眠ったり起きたりをくり返している。
サフランは球根で殖える多年草で、五月に球根を掘り上げ、乾燥させて初秋に植え付ける。冬の初めに花を咲かせるけれど、その花の雌しべが世界一高価とされる香辛料。色付け、香りづけとして使われるけれど、薬効も期待される。ただし、たくさんとり過ぎるのは厳禁な、気難しい面ももつ。
サフランは寝ぼけ眼のままボクに近づくと、「ん~……」と唸りつつ、キスをしてきた。
ボクが小さいころ、サフランも精霊化し、スピリトゥスが誕生した。ボクと一緒に育ってきたのだ。
そして小さいころの戯れ、ボクたちはよくキスをしていた。ボクのファーストキスの相手――。
そして、今でもこうしてキスをしてくる。
ボクも彼女をうけとめ、キスをする。昔よりちょっぴり、ただふれるだけではなく濃厚な感じで……。
「おやすみ~……」
サフランはそういって消える。スピリトゥスは基本、姿を現わすかどうかは自分たちの意思で決める。精霊化するのもそうだけれど、大切に育ててあげると、この人と一緒にいたい……その思いが強くなり、人型のスピリトゥスとなるのであって、それと同じこと。
休眠する間は基本、現れない。今のサフランとのキスは、初秋までの休眠を告げる別れのキスだ。
でも、冬は多くのスピリトゥスたちが眠りにつくのに、サフランは元気に活動している。だからサフランと一緒に過ごすことが多くなったのだ。
「サフランとばかり、キスをするのは納得いきませんわ!」
そういうのは、レモングラスのスピリトゥス。山奥のここだと、自然に任せているだけだと冬には枯れてしまう。暖かいところを好むイネ科の多年草だ。
ここでは冬に鉢上げをして、暖かい建物の中にいれて冬越しをさせる。そのため数を殖やすことが難しいが、毎年株分けをして、新しい株にして育てている。香りがよく癖がない、シトラールという香り成分をふくむ、ハーブティーや料理の香りづけにも利用されるものだ。
イネ科らしく、すっとした立ち姿に、スジの通った主張をする。
「私たちとも、キスして下さいませ」
「えっと……分かりました」
「では……」
サフランも香りの良さが特徴だけれど、レモングラスもまた爽やかな印象のある香りだ。
特にそれが、唇を合わせて直接伝わってくる。几帳面な性格で、情熱的なキスではないけれど、気持ちを落ち着かせてくれるので、しばらくそのままでいい……と思えるものだった。
ラベンダーのように、下着を見られることさえ毛嫌いする、恥ずかしがり屋もいるし、イチゴのように淡い初恋のような、手をつなぐスキンシップをとろうとする子もいる。
みんな、ボクに加護を与えようとしてくれているので、拒むのも失礼だ。
魔法をもたないボクだけれど、スピリトゥスから与えられる加護というのが、一体どういう効果をもつのか? このときのボクはまだよく分かっていない。
彼女たちの気配り、心配りだとばかり思っていた。しかし、小さいころからこうやって、彼女たちと過ごしていたボクが、いつの間にか凄いことになっていることを、もう少ししたら知ることになる。
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