第4話 甘い農作業

   Strawberry 甘い農作業


 畑に来ている。ここだけは広く開墾し、周りの木々も低く抑えて、日当たりを確保している。

 ただここで育てたものを誰かに売ったり、譲ったりしないので、あくまで自給自足する分だけ。スピリトゥスは食事をしなくても大丈夫で、稀に付き合って一緒に食事をとったりもするけれど、基本はボクとグロ爺の、二人が暮らしていける分をつくっている。

 グロ爺とボクは、別れて作業をすることが多い。自然農法とはいえ、適地に植えるやり方なので、敷地も広くなるし、それぞれに別々な育て方をするので、手間もかかるからだ。

 野菜は精霊化しにくいけれど、ボクの元いた世界では、果樹的野菜とされた子が精霊化する。

「頑張って~」

 木陰でピクニックのようにシートを広げ、こちらに向かって手を振るのは、イチゴのスピリトゥスだ。

 イチゴ……ストロベリーであるが、ベリーというのは固有の植物種をさす言葉ではない。小さい実をつけ、人が利用できるものにベリーとつける。イチゴはバラ科で、バラ科で実をつけるものは、ベリーがつくものが多い。


 イチゴのスピリトゥスである彼女は、農作業があまり得意でない。今も付き添いで来ているのであって、お弁当をもって待機する。白く大きなハッとに、白いドレスと清楚な感じを漂わす。

 代わりに農作業を手伝ってくれるのが、ワイルドストロベリーのスピリトゥスだ。

「イクト! この切った雑草、どうするの?」

 ワイルドストロベリー……日本名だと、ヘビイチゴ。ヘビは食べないけれど、イチゴの原種とされるが、イチゴより大分小さな赤い実をつける植物だ。そのスピリトゥスである彼女は、小学生ぐらいの可愛らしい少女で、見た目はボクと近い。これは、ワイルドストロベリーがランナーで殖え、コロニーをつくるタイプだからで、若い個体が多いためだ。

 ちなみに、その実はイチゴより美味。大きくないし、みずみずしさは皆無でも、甘さばかりか香りも断然ワイルドストロベリーの方が強い。ジャムにするなら、間違いなくワイルドストロベリーでつくるべきだ。小さな実の周りに無数のタネがあって、それがえぐみになるので、つくる際に一工夫必要だけれど、一度食べてみることをおススメする。

 そんなこと、彼女たちの前でいったら、怒られそうだけれど……。


「雑草は、積んでおいて草たい肥にするから、あそこの山に運んでおいて」

「これ、たい肥になるの?」

「分解されるとね。ただ、完全に枯らさないと分解にすすまないから、ここで陽に当てて乾燥させるんだ」

「でも、この畑は何で雑草だらけなの? ふつう、畑には生やさないよね?」

「害虫が嫌がる草もあるし、何より連作障害が防げるんだよ。一種類の植物だけを育てた畑は、土の中にいる微生物や、栄養素にも偏りが生じ、何年も連作すると病気に遭いやすくなる。でも、こうして色々な植物が同じ畑に生えていると、いいこともあるのさ」

 イチゴなど、バラ科は連作障害が起こりにくいとされ、特にワイルドストロベリーはコロニーをつくるぐらい、ほとんど連作を気にしない植物なので、彼女には分からないらしい。

「雑草が生えすぎて、野菜の生育が悪くなるようだと、こうして雑草を減らすために刈るのさ。刈った草もたい肥にすることで命を循環することができる。エコシステムだよ」

 ワイルドストロベリーは首を傾げている。エコロジー、と言ったところで、彼女たちの生活のほとんどがすでにそうなので、ピンと来ないのだ。


「お昼にしましょう!」

 イチゴの呼びかけに、ボクも応じる。

 ゴザを敷いてあり、ボクがすわると、ワイルドストロベリーが走ってきて、ボクのヒザの上にちょこんとすわる。

「こら、邪魔でしょ」

 イチゴがそう注意するけれど、むしろ構わずボクのヒザから、さらに奥へと体をもぐりこませようとする。

 すると、彼女のお尻がボクの股の間へと……。彼女がすりすりと体をすり寄せるたびに、彼女のお尻がボクの尖ったところを、微妙に刺激してくる。

 時おり、こうしてスピリトゥスたちが過激なスキンシップをとってくる。ワイルドストロベリーも、きっと当たっていることは承知しており、むしろちらちらと様子をうかがうように、確信犯だ。

「いい加減、離れなさい!」

「いやん♥」

 イチゴによってボクから引き離され、ワイルドストロベリーもちょっとむくれているが、どうやら原種としての威厳はないようだ。

 ボクも危うく反応しそうになっていたので、助かった……。ワイルドストロベリーがもつ甘い香りも、誘惑するには十分で、彼女が幼い容姿でなければ、どうなっていたか分からない。

 彼女たちが、こうしてちょっと過激なまでにボクとスキンシップをとろうとするのは、理由もあって……。


















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