08話 夢は戦いの後に


 最近は朝にリリシアの家に行き、そのまま一緒にダンジョンに行くことが多い。

 一緒に魔術をリサから教えてもらっているのだ。

 リリシアは強くなるなどを目標にしているのではなく、興味本位でやっているみたいなのだが。


 本人曰く人王ガイアには許可をもらい外出してるらしいが、本当なのか疑問だ。

 今まで外出の許可をもらってなかったのに、いきなりOKを出すだろうか...

 少し心配だな。


 「リサ様、基礎的風エレメンタルウィンドの発動がいたしかねますのですが、どうすれば良いのでございますか?」

 「イメージと集中あるのみですね。また何度も反復して練習することで咄嗟に出せます」


 リリシアは苦戦しているようだ。

 俺はというと順調に魔術を覚えてきている。

 また、魔力総量もそこそこに増大きくなっていっていると思う。

 

 最近は敵と戦いたくて仕方ない。

 自分の魔術がどれぐらい通用できるのかの確認がしたく、少し遠征して魔獣が多くいる森やダンジョンに行きたいと思っているのだが


 それをリサに言うと

 自分に攻撃を一撃でも当てれたら承諾するとのことだ。


 この条件は非常に酷である。

 前提としてリサが俺相手に本気になったことはない。

 だが、もし遠征のことで勝負するなら本気でいくと言ってきた。


 今の俺では当然傷一つもつけれない。

 ということで新しい魔術を勉強するか、戦術で勝ちにいくかのどちらかなのだが、どちらも短期間で大幅に強くなれるわけではない。

 唯一勝てる要素があったら使える魔力量だろうか。

 魔力総量は全然勝てないが、魔眼を使えば俺のほうが多くの魔力を使えると思う。

 いっそ大規模魔術でもやってみるのもありだ。

 だがそれには時間がかかるだろうし...

 それに、リサに教えてもらったら即座に対策されるだろう。


 お先真っ暗とはこのことだ...



---稽古の帰り道---



 「リリシアは魔術を使ってて楽しい?」

 「わたくしはテクト様が魔術を扱っているのを見るだけで幸せでございます」

 「そういう返事は困るよ...」

 「それは失礼」


 少しの間沈黙が続いた。


 「僕がリサさんに攻撃当てれると思う?」

 「正直に言いますと、今のテクト様では差がありすぎだと思いますわ」


 だよなぁ...


 「リリシアの知り合いに強い魔術の先生とかいないの?」

 「数人思いつきますが、テクト様の身近に一番強い方がいるではありませんか」

 「リサのこと?」

 「いえ、サリー様です。あの方は数年前まで人国のトップに君臨する騎士団オーディナリーの団長であったはずでございます」

 「え?......騎士団に入ってたとは聞いてたけど、そこまで強いの?」

 「現騎士団の団長ナース・タイシンや、副団長セイ・ガランティーナが慕っていたと存じておりますよ」

 

 サリーが?

 とても、あのセイ叔父さんが慕ってるなんて想像できないのだが...


 「一回聞いてみるよ、色々ありがとう」

 「役に立てたのならよかったですわ」


 その後リリシアを街の真ん中にある城まで送った。

 

 やっぱりデカいし綺麗な城だ...

 ディズ◯ーラ◯ドみたいだな。


 家に帰ってサリーに聞くとするか。

 

---



 「母さん、少しいいですか?」

 「いいけどなに〜?」

 「師匠と勝負することになって。どうすれば勝てるかと考えていて、何をすれば良いと思いますか?」

 「ルールは?」


 サリーの目つきが変わった気がする...


 「なんでもありで、僕が一撃当てれば勝ちです」

 「テクちゃんって無属性魔術使えたっけ?」

 「ペクシアンぐらいでしょうか」


 「う〜ん...もう少ししたらとは思っていたけど、少し早めようかな~」

 サリーが独り言を言う

 

 「うん、テクちゃんにあたしが魔術を教えてあげるわ!」

 「ありがとうございます!」

 「親として普通よ~」


 サリーが仲間になってくれて良かった。


 「テクちゃんって炎の攻撃魔術使える?」

 「はい、基礎的炎エレメンタルファイヤ火炎罠ミニモットファイヤ灼熱矢ファイヤアロウぐらいなら使えます」

 

 強さ的に言うと

 基礎的炎エレメンタルファイヤ火炎罠ミニモットファイヤ灼熱矢ファイヤアロウ

 

 基礎的炎エレメンタルファイヤは、手のひらから炎を放出する魔術


 簡単に言うと火炎放射だ。


 火炎罠ミニモットファイヤは、マーキングしている場所を爆発させる魔術


 普通に爆弾だな。


 灼熱矢ファイヤアロウは、炎の矢を放つ魔術になる


 殺傷能力は高いと思う。

 また魔力の密度を上げれば威力の上がり、攻撃範囲も広くなる。


 「基礎的炎エレメンタルファイヤが使えればいいわ~、少し使って見せてくれる?」

 「ここでですか?」

 

 家の中で炎魔術を使って良いのだろうか?

 最悪火事になりそうだが...


 「いいわよ~もしもの時はあたしが鎮火するわ」

 

 と言い親指立ててきた。


 それなら遠慮なく使うとする。

 今回は詠唱ありだ。

 

 「炎は我々に多くの潤沢を授ける、炎の力を我に与えよ、基礎的炎エレメンタルファイヤ


 いつも使っているおかげかミスはしない。


 「上出来ね、それと手のひら以外の場所からは出せる?」


 え?

 エレメンタルシリーズは手のひらから出す魔術と魔書から学んだはずだが...


 「その反応だとできなそうね~」

 「ごめんなさい...」

 「謝らなくていいわ、どうせ魔書に書いてあったんでしょ?」

 「はい...」

 「エレメンタルシリーズの魔術は大体の子供が一番最初に学ぶ魔術だろうから、出すイメージをやりやすいようにそう魔書に書いてあるのよ~」

 

 なるほど。

 手って一番器用に動かせる部位だしな。


 「それで、そう書かれてるわけだけど、応用することによって好きな所から出せるわ、こんなふうに」

  

 パチンッ


 無数の基礎的炎エレメンタルファイヤがサリーの周りから放たれた。


 すごい


 だがその結果絨毯じゅうたんが燃えた...


 「きゃああああああああ、これ...高かったのにぃぃ...」


 おいおい、悲しんでる暇はないぞ。

 さっきカッコつけて自分が鎮火するって言ったばかりだろ。


 「母さん、早く火を消さないと、家がなくなりますよ!!」

 「……それもそうね...」


 パチンッ


 小規模の竜巻に水が混ざっている魔術を出した。

 

 「母さん.......これじゃ師匠が怒りますよ...」

 

 火が消えたのは良いものも家の中は水浸し...

 それに加え竜巻に巻き込まれた複数のカーテンが引きちぎれる始末...

 やっぱり外でするべきだったか...

 サリーも焦っている...

 

 「一緒に掃除しましょう」

 「うん...ごめんね...今度からは外でしようね...」


 その後リサにバレて怒られるサリーであった



---



 今日は修練場で練習をする。

 「昨日は掃除で、できなかったけど今日はちゃんと練習しましょうか」

 「はい」

 俺がしないといけないことは二つある。

 一つは手以外の場所から魔術を放つこと。

 これは昨日の夜にやってみたが意外と簡単にできた。

 イメージしやすいからだろう。

 二つ目は一度に複数の魔術の放つこと。

 これもやってみたができなかった。

 

 この二つのことを同時にすることが必要だ。


 「コツはありますか?」

 「結局これもイメージとしか言えないのよね〜実戦では複数の魔術を同時に出さないと通用しないし。まずは魔力砲ペクシアン基礎的炎エレメンタルファイヤを同時に出しちゃおう!」

 

 できるかな...

 二つ同時だと詠唱はできないな。


 基礎的炎エレメンタルファイヤ 魔力砲ペクシアン


 形にならないな...

 魔力量には余裕がある、つまりイメージができてないということだ。

 二つのことを同時に考えることは難しい...


 「魔術を空に複数置く感じかな〜」


 置く感じって言われても...

 まず二つの魔術を同時に考えるが難しい。


 いや待てよ?


 そう”同時”に出すのが難しいのだ...

 時間差でやればいけるんじゃないか?

 もちろん1,2秒ではない、小数点の世界でだ。

 やってよう。


 基礎的炎エレメンタルファイヤ

 魔力砲ペクシアン


 二つの魔術が発動できた!


 成功だ!


 「おっ、時間差でやったんだね~!」

 「はい、どうしても魔術を同時に発動するのが難しかったので」


 今のが見えるのか...

 サリーは動体視力も良い。


 「あとは何度も練習して咄嗟にできるようになることと、短い時間の間で2つの魔術を出せるようになることかな〜」

 「ですね。今更なんですけど、それでこれは何の訓練なんですか?」

 「リサって全属性の魔術が使えるのよね。だから複数の魔術を同時に放って意識を分散しないといけないのよ〜。基礎的炎エレメンタルファイヤ一つだと水魔術で塞がれる、そこで無属性の魔力砲ペクシアンを打ち込むのが大事なの」


 なるほどな。

 一つの魔術に意識を集中させなければ良いということか。



 それからは今まで以上に魔術と向き合った。

 大変でしんどいものだったと思う。

 だがその時間は俺にとって楽しい時間になっていた。


---2ヶ月後---


 今日はいよいよ俺の努力の成果が見える日になる。

 俺的には勝つ自信はある。


 「あなたが最近何をしてきていたのかは知りません、しかしその顔を見れば多くの努力を重ねてきたことは分かります。さぁ戦いましょうか」

 「はい、師匠。俺は今日勝ちにいきます」

 「テクト様ーーー!頑張るのですわ」

 

 いつもの場所でいつものようにリリシアが見ている。

 いつもと違うのはサリーが来ていることぐらいだ。


 負けるわけにはいかない。

 俺はこの戦いに全力で臨む。


 「テクちゃんとリサ準備はいいわね?」

 「「いいです」」



 「それではスタート!!」


 

 身体強化ベシテアコンを自分に使い距離を取る。

 

 すぐさまリサが追いかけて来る。


 だがリサの進行方向には火炎罠ミニモットファイヤを設置してる。

 

 これで当たれば楽なんだけどな...

 

 爆発させるがうまく避けられた。


 「クソッ」


 続けて灼熱矢ファイヤアロウと、基礎的風エレメンタルウィンドを放つ。

 が、また避けられる

 

 だがそれでいい、俺が今することはリサを油断させること。

 俺の攻撃が当たらないと思わせれば良い。


 とは言っても流石に走り続けるのは疲れる...

 早々に形を付けるべきだ。

 距離は十分にある。


 リサは直進してくるだろう。

 そこに基礎的炎エレメンタルファイヤを放つ。

 もちろんそれも防がれるのが前提で話を進める。

 この2ヶ月の間で俺は同時に6つの魔術を出せるようになった。

 詳しくは同時ではないのだが、これは前と同じ感じだ。

 5つの基礎的炎エレメンタルファイヤでリサの行動ルートを制限させ、そこに魔力砲ペクシアンを放出する。


 これが俺の作戦だ。


 「いきます!師匠」

 「勝つ気があるなら黙って攻撃してきなさい」


 4つの基礎的炎エレメンタルファイヤでリサを取り囲むように放つ。

 リサの動きが止まった。


 狙い通りだ。


 残りの一つをリサを直接狙い放つ。


 「水流壁ウォーターウォール


 水の壁が現れ塞せがれる。


 だがこれも狙い通りだ。

 俺は残りの魔術にすべての魔力を込める。


 「魔力砲ペクシアン!!」


 これも直接狙う。


 これが俺が今出せる全力だ、いっけぇぇぇぇぇぇ。


 リサがこっちを見た。

 瞬時に避けようとするがもう遅い、魔力砲ペクシアンはリサの肩にかすった。


 当たったから勝ちだよな?

 やった!


 「勝った!!師匠に勝ったぞ!!!」


 俺の勝ちだ。

 森かダンジョンにいけることも嬉しいが、リサに攻撃を当てたことも嬉しい。


 だけど攻撃が当たる前にリサが笑っていた気が……


 「油断大敵すなわち死を意味します」


 という声と共にリサの姿が一瞬見え意識が刈り取られた。



---



 目覚めるとリサが視界に入る。


 「し、師匠?」

 「……戦い中では敵の死を確認するまで油断はしてはいけませんよ...」

 「僕の負けですか?」

 「一撃当てるという条件だったのでテクトの勝ちで良いですよ」

 「本当ですか?」

 「こんなことで嘘などつきません。強くなりましたね」


 リサが俺を褒めてくれた?

 俺はこの笑顔に弱いんだよな...

 

 でも、嬉しいな。

 戦いには負けたが勝負では勝ったそんな感じだろう。

 しかし、嬉しいものは嬉しい。

 

 「テクト様カッコ良かったですわ!」

 「テクちゃん良くできてたわよ〜」


 リリシアとサリーが来る。


 やりたいことに全力で挑み達成する。

 こんなに楽しいことができるなんて昔では考えれなかった。


 俺はやっぱり魔術が好きなんだな。

 今まで冒険者になろうかな、などの曖昧な目標だったが、夢ができた気がする。

 いや、できた。

 俺は強い魔術師になろうと思う。

 これからも後悔がないように全力で努力して強くなっていきたい。

 


---



 「テクトは強くなりましたね。私としては嬉しい限りです」

 「手を抜いていた人が何を言うのやら...」

 「森やダンジョンに通用できる力があるかを確かめたかっただけですので」

 「本気と言ってそれは酷いわ。でもね、テクちゃんを見ていたら昔の自分を思い出すのよね〜」

 「それはこれから大変そうですね」

 「そうね、あの子は強くなるわ」



---リサ・クラナフ---



 得意魔術  全属性の魔術 強化魔術

 苦手魔術  なし

 好きな魔術 なし 


 特徴

 22歳

 ガランティーナ家メイド長

 テクトの師匠

 白髮ショート

 過去に騎士団所属経験あり

 雪姫の異名を持つ

 

 趣味

 植物の栽培とテクト

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