05話 成長は唐突に
もう半年だぞ...
早く魔力を使わせてくれよ....
---半年前---
「それで師匠〜、最初は俺に何を教えてくれるんですか?」
「最初の方は体を作ることから始めましょうか」
「体を作る...それって大変ですよね...」
「楽して強くなろうなど、言語道断。テクト様、あなたには頑張って強くなる人間になって欲しい。」
リサが微笑む。
ドッキっとした。
急に良いこと言ってくる...
俺じゃなきゃ、好きになるぞ。
「いちおうここでもできますけど、どうせなら街の郊外にある、サリー様が保有しているダンジョンに行きましょうか。あそこなら広い上に何をしてもいいですから」
「ダンジョン...危険ですか?」
「あぁ、言ってませんでしたね、ダンジョンと言っても危険性は皆無です。1階層しかなくただ草原が広がってるだけですからね」
ダンジョン...安全らしいが少し男心をくすぐるな...
「早速行きましょうか、”
と言い、炎に纏われた馬のようなものを魔力で作り出した。
「凄いですね!なんですかこれは?」
「生成魔術の一つです、炎のイメージで馬を作る。これが意外と簡単なんですよ。主流は召喚魔術ですけど、私はこっちのほうが便利で好きですね。さぁ乗りましょう」
知らない魔術はまだまだたくさんあるようだ。
炎でできてるって熱くないのかな?
少しためらった様子を見たのか、リサが声をかけてきた。
「怖くないですよ、魔術で作ってますし、安全です」
そう言い、俺を抱き上げ乗せた。
続けてリサが乗る。
乗り心地は良い。
乗ってみると全然怖くないものだな。
「20分ほどで着くと思います。その体勢だと危ないですよ」
リサの腰に手をまわす。
……柔らかい...
馬が動き出した。
俺に考慮しているのかそこまで速くない。
家の門を出て視界に入るのは、皆が想像するようなTheヨーロッパのような町並み。
所々に大きい建物もある。
俺の家が特別デカいということはなさそうだ。
もちろん、金を持っている方だとは思う。
「師匠、僕が家の外出るの初めてなんです。きれいな街ですね」
「そう言えばそうでしたね、世界のことは勉強しました?」
「いやあまり...」
「……まぁよい機会ですし、色々説明しましょうか。まずこの世界全体をリノジェクトと言います。
なるほど。
世界は広いということだ。
その後は特に会話などはなかったが不思議と気まずさがない。
街から出て、そのままダンジョンへと着いた。
「着きましたね」
「ここがダンジョンですか...?」
見えるのは古ぼけた小屋のみ。
この中に草原が広がっているとは思えないのだが。
はて、中は広いみたいなことはあるのだろうか。
リサがドアを開き中に入る。
俺もそれに続く。
視界が光に包まれ次に見えるのは緑に溢れた草原、太陽、地平線。
中は広いみたいなことはあったのだ。
「綺麗だな」
自然に声が漏れた。
「私もここは好きです。サリー様との思い出の場にもなりますしね。着いて早々ですが、早速稽古といきましょうか」
「体作りは何をするんですか?」
「そうですね、あなたの体は軟弱ですので基礎からいきましょうか。それと一つルールを決めましょう、これからは私が許可するまでの間、魔力を使うことを禁止とします」
それからは地獄だった
---半年後---
筋トレ、筋トレ、筋トレ、筋トレって馬鹿か、俺がしたいことは魔術の稽古だ。
この半年筋トレしかしてない...
半年だぞ...
速く魔力を使わせてくれよ...
おかげでガキの体ではありえないくらいの筋肉がついたわけだが...
最近だと俺を馬で送ってもくれず、走ってこいという始末...
汗だくで着いたその場には優雅に紅茶を飲むリサ。
それにリサの態度が冷たいのだ、優しかったのは稽古し始めた初日だけ。
流石の俺でもキレそうだ。
いや、今日こそは言ってやる。
1時間かけて走りダンジョンに着く。
そこにはいつものように、紅茶を飲むリサ
「少し遅いですよ、テクト」
!?
ったく舐めやがって、こっちはリサより少し年いってるんだからな。
リサが男だったら殴っていたかもしれない。
「師匠!...いつになったら魔術の稽古になるんですか?...流石に筋トレは飽きました」
必死に笑顔を作ったつもりだが、苦笑いになっていると思う。
「……まぁそろそろ頃合いですかね、一つ質問ですが六魔術において一番大事な魔術は何だと思います?」
一旦冷静に考えよう...
なんだろうか普通に攻撃魔術だろうか
回復魔術などもあるかもな...
「攻撃魔術でしょうか」
「もちろんそれも一つの回答としては正しいです、ですが私の考える大事な魔術は強化魔術です。どんなに攻撃魔術が弱かろうとも、強化魔術がしっかりしていれば戦えます。逆にしっかりしていなければ殺される、ここはそういう世界です」
なるほどな...
剣自体がどんなに強くても、それを扱う剣士の身体能力が低ければ攻撃を当てることができないことと一緒だろうか。
「もう一つ質問です、強化魔術にとって一番大事だとされるものは何だと思います?」
これは簡単だ。
「魔力量とかでしょうか」
「半分正解ですが不正解です、正解を言うと体ですね。体ができていれば大量の魔力を込めても体は壊れるどころか、普通ではありえないほどの強化が肉体にされます。で、この半年私がテクトに筋トレをさせてた理由がわかりました?」
……
「大量の魔力を使う強化魔術に耐えれるだけの体を作っていたから?...」
「そうです、あなたは強化魔術の重要性が分かってなさそうでしたので、魔力禁止で強化魔術を使わせず、半年分の成長を一気に体験してほしくてですね、ずっと筋トレのみをさせておりました。さぁ体験してみてください」
魔力を使っていいってことだよな?
「
感覚は前に使ったときとあまり変わらないと思う。
取り敢えずなので魔力量も変えてない。
だがなんとなくだが、以前より体が大きく軽い気がする。
走るか。
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、、、
え?
風を切った。
例えじゃない本当に風を切った気がした。
走るのをやめる。
「はぁ、はぁ、はぁぁ、ふぅ、ふー」
今までと違う。
具体的に言うと100メートルを2・3秒ぐらいで走ったと思う。
だがその分体にかかる負担も以前よりデカい。
「理解できました?強化魔術の重要性」
「ふぅ...はい...」
「私がいなくともテクト様は才能がありますので良い魔術師になると思います。ですが前のままだと強化魔術を大事にしない戦い方になっていたでしょう。魔術師だから身体能力は必要ないのではなく、魔術師だからこそ、身体能力、強化魔術が必要なんです。少しは私がいて良かったって思って欲しいではありませんか」
リサが笑う。
俺は咄嗟に顔をそらしてしまった。
鼓動が早くなる。
初めて見たかもしれない、リサの満面な笑み...
最近は忘れていたがやっぱりかわいいな...
それにしてもなんだろう、この胸のときめきは?
強化魔術の副作用だろうか、それともリサの笑顔にだろうか。
今の俺には分からない。
半年近く厳しくされてたこととのギャップに驚いただけなのかもしれないな。
「効果も見れたことなので、今日はもう終わりにしましょうか。明日からも筋トレは続けますよ」
「まだ筋トレするんですか...」
「当たり前でしょう、筋トレは大事ってわかったでしょう?」
「はっ、はい...でも攻撃魔術もそろそろ取り入れませんか?」
「分かりましたよ、考えときます」
ありがたい
「師匠、僕、師匠の事好きになりましたよ!」
「前は嫌いだったんですか?...」
「まぁ、最近は少し怖かったですので、多少ですよ」
「そうですか...テクト様がそういう感じなら私拗ねちゃいますよ...」
「冗談ですって、それとテクトでいいです、そっちの方が慣れました」
「そういうことならそうします」
その後も雑談をしながら帰っていった。
俺はこれからもこの人についていこうと思う。
この人が師匠で良かった。
と思ったテクトだが。
その晩、久しぶりの魔術にテンションが上がっていたのか、夕飯の準備をしているリサのスカートを風魔術でめくってしまった。
そのままバレないわけがなく、1週間魔力の禁止を言い渡され泣き喚くテクトであった。
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