(11) 光の裏

         ***

 変わったのは何も雫だけじゃない。この一年で僕にも色々あったのだ。

 まず寝るようになったこと。いつの間にか眠気が襲うようになっていたのだ。そして感覚が分かるようになったこと。少しずつだけど、分かるようになってきた。寒さが分かるようになった時には雫に叱られるほど大発狂したっけ。

 でも、食べたり飲んだりは必要ないからかできないままだけど。

 けれど、それで十分すぎるほどだった。

 そして、これらのことも大きすぎる一歩だが僕の正体に近づく革新的すぎることが現れたのだ。それは前世の頃の記憶がたまに夢で現れるようになったこと。ただ、どれも不鮮明だったり、大した場面でなかったり、忘れてしまったりと自分の情報は依然として分からないままなんだけど。


 一息吐いてソファーに寝転がりながら考える。

 ――もう自分はいらないんじゃないか。

 ――いても二人の邪魔をするだけなんじゃないか。

 いつしかそう考えるようになっていた。

 だから「自分を取り戻す旅に出る」という口実で出て行こうかと考えていた。

 心の奥底で大きな不安に似た何かが日に日に大きく広がっていくのを感じていた。あの堤防で幽霊と気づいた時から今まで何をしていても少し気が紛れて忘れることはあっても決して消えることは無かった。それどころか日を増すごとに自分を蝕んでいく。

 だから自分を探す旅というのはその何かを解消できるのではないか。だからあながち間違いでもないのかもしれない。

 もちろんずっとここにいたいというのが本心だが二人の邪魔にだけはなりたくなかった。

 しかも彼は僕のことを知らないから、もし知って二人の関係に亀裂が入ってしまうということには絶対何があっても避けたかった。

 もう一回ため息を吐いて瞼をそっと落とした。

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