第73話 捨て身特攻


「俺が楓を選んだのは、一番信頼出来るからだ」


「……」


『三田楓 好感度:30⤵︎(12down!)』


 好感度が落ちた。


 だけど、【直感】がここからが勝負だと囁いている。


(……次の言葉がなければ、全部失うってわけか)


 まぁ、確かにこれはカッコつけすぎだと俺も思った。


「正直言うと涼人の方が付き合いも長いし、十分以上に信頼出来るんだが……今回の作戦には個人戦力がいるから……ちょっと、な」


「あ〜、確かに……」


「珀はなんつうか、先輩のはずなんだけど……犬っぽいというか、後輩っぽいと言うか……」


「確かに、珀はやたら仁のこと好きだもんね〜」


「──で、凛も」


 俺は、楓の目を見て断言した。


「あいつらは、


「!!」


 確かに、実力で言えば凛が1番高いだろうし、楓と珀ならどちらでも実力的には選べる。


 だけど、本当に楓じゃなきゃダメな理由は……


「──あいつらは、


 ──今回の作戦において、最も重要な立ち回り……月城ボスを倒す俺と同レベルに重要な役割を果たすには、人材が必要だ。


 それも、当然実力は必須の。


「あぁ〜……」


「だから、楓にしか頼めないことなんだよな」


 凛も珀も、やたらと忠誠心……っていうのか?


 それが高すぎて俺の指示を絶対成し遂げようと躍起になる性分だ。


 それは幸にも不幸にもなる……今回は、それが災いする作戦なのだ。


「楓には俺が月城と戦う時に、周りの配下たち……特に優秀なNo.2の辺りを相手してもらいたい。でも、それで倒す訳じゃなくて……平たく言えば時間稼ぎだ」


 東区のNo.2は……月城と同じく化け物だ。


 月城と同じで元優秀なボクサーで、ある日突然表社会から失踪した月城に着いてきてNo.2となった男だ。


 ボクシング大会ではそこそこ優秀な成績を収めており、伊達によると県優勝はしてるらしい。


 恐らく、能力値もSSやSSSに近いレベルだろう。


(俺でも厳しい……凛でもワンチャン、楓と珀は正直キツイだろう)


 凛は独特な例の武術で不意をつけるかもしれないが、それでも相手は月城と同じくボクサーだ。


 そう簡単に勝つことは出来ないだろう。


 楓も珀も強いんだが……凛が俺に似て万能型の能力値なのに大して、楓は俊敏が高いが耐久力が低くて、珀は耐久力が高いが柔道を使うから射程が短く俊敏が低い。


 そういう意味でも、楓が最適の選択だった。


「ふーん……まぁ、囮役にってこと?」


「……まぁ、信頼してるのは事実だけど」


「え?」


 何だよ……何でそんな意外な顔してんだ?


(不服そうな顔してるからフォローしようと思ったのに……)


 誰だって、今の言い方だと囮になれって言ってるみたいで気分良くないだろうから……


 ……や、まぁそう言ってるんだけどな?


「……なんで?」


「えっ……だって……」


 楓からの無言の圧力に、俺は焦って頭を働かせて……


(……逆に仲間を信用しない理由なんてあるか?)


 あれ? ねぇよな?

 それも、楓はなんだし……


「仲間を信用しない理由……あるか?」


「え?」


「え?」


 ……口に出てたか!?


「いや……楓は東部の奴を除けば最初の仲間だし? 1番常識人というか……」


「……」


『三田楓 好感度:60⤴︎(30up!)』


(!?)


 好感度が上がった……?


「……なに、それ! 常識人って……いいこと言うじゃん?」


「お……おう」


 今のも聞かれたらクサイと思って、好感度が下がるかと焦ったんだけど……


(……女心は分からん)


 まぁ、良い方に転んだならなんでもいいけどさ。


「ま、じゃあ分かったし! うちに任せときな!」


「ああ、ありがとう!」


「だけど──」


 楓は挑発的に笑うと、自信満々で言い切った。


「──別に、倒しちゃってもいいわけっしょ?」


「……!!」


『三田楓』

『才能:A』


 楓の才能はA。


 凛と同じように、才能開花すれば……本当に勝てるかもしれない。


「……あぁ。期待してるぞ?」


「舐めんなし! 任せんしゃいっ!」


 後は、時を待つのみだ。


『メインクエスト:折れぬ中木』

『東区の幹部と戦う 0/10』

『報酬:URスキル、SSRスキル』



 ……このクエストを始めると、後戻りは出来ない。


 もう一度東区に手を出せば、今度こそ月城が本気で俺達を潰そうとするだろう。


 だが、これ以上短期間に形成をひっくり返せる程の成長は見込めない。


(無駄に時間をかける必要はない……さっさと、東区を制圧してやる!)


 そう、特段先延ばしにする意味もないから……


(さっさとケリつけるぞ!)


「──捨て身特攻だ」


『耐久力の解放を使用します』

『耐久力の覚醒を使用します』

『耐久力の目覚めを使用します』

『俊敏の覚醒を使用します』


 俺は、握り拳に力を入れた。


神楽かぐら じん

『175cm』『58kg』

『力   SS−

 俊敏  A+ →S+(3up!)

 知力  E+

 耐久力 A− →SS−(6up!)』



〜〜〜〜〜



「う……」


 嫌な夢を見て、俺は目を覚ました。


(また、あの夢か)


 ──俺は、自由だった。


『なんとぉぉぉぉ! 新チャンピオンが誕生だぁぁぁ! 17歳! 未だ高校2年生にして、圧倒的勝利を収めたのは──月城つきしろみのる選手ぅぅぅ!』


『稔……! おめでとう……っ!!』


『稔、まじかよ……!?』


『すごい……』


『もはや言う言葉もないんだが?』


 特に理由もなく、幼少から続けていたボクシングでもやがて全国優勝し、親からも祝福され、男友達にも女子にも尊敬されて、コーチですら手放しに褒めてくれて……


 俺は、満ち足りていた。


『稔君……好きです!!』


 やがて、正直自分でも恵まれた顔立ちだと思うこともあって、好きな人から告白を受けることが出来た。


『稔君!!』


『お弁当作ってきたんだけど……どうかな?』


『稔君! 一緒に帰ろっ!』


 彼女はいつも明るくて、皆から羨まれるような、理想の女性だった。


 これまで何度も告白を受けたが、その全てを断ってきた価値があったと思えるほどに。


 俺は、幸せ者だった。


 けど────


『──唯良いら! 唯良!!』


 ある日。


 彼女が交通事故に遭ったとの知らせを受け、俺が病院に走った頃には……


 もう、彼女の温かさは失われた後だった。


『……誰だ?』


『わ、分かりません……今警察が調べているでしょうが……』


『どこのどいつが、唯良いらをこんな目に……!』


 しかし。


 その疑問が氷解することは無かった。


『……なんだと?』


『それが、調べてみたところ何も分からなくて……一応、捜査は続けて見ますが……』


『ふざけるな! あんな大通りで真昼間に、カメラも証人もいたはずだ!』


『そ、それが何も証拠がないのです! だから、犯人を捕まえることが出来ません!』


 その答えに納得することが出来ずに、俺はある場所へと向かった。


『……お前が、“グリッドイーター”か?』


『え……月城稔!? なんで表の大物が僕の所に……』


『聞きたいことがある』


 ある時見つけた大人の不良……所謂ヤクザに近い奴を脅して手に入れた情報から、俺は裏社会で有名なハッカーを訪れて、事件の犯人を探させたのだ。


 そして──見つけた。


目代めじろ彰人あきと……!』


『あ、あぁ。あのCXEFクリシスの社長の息子で、そいつが事件を揉み消したんだ……』


 半導体製造会社にして日本一の企業、CXEFクリシス

 その社長の息子は男手一つで育てられ、その想像通り我儘でひん曲がった性格であった。


 その息子が運転手に命令して信号を無視させ、唯良いらを轢き逃げさせたらしい。


 だから社長が揉み消したと。


『……絶対、償わせてやる』


 その後、俺は親に適当な理由をつけながら目代彰人の近くへ引っ越し、機会を伺うことにした。


 奴はどうやら、不良を束ねる王の如く態度でそこで君臨しているらしい。


 だから、極小数の本気で俺を慕ってくれる仲間と共に、真っ向からそいつをぶちのめすため……同じ不良になることを決めた。


(……)


『──続いてのニュースです。今夜はとても綺麗な満月が見られると予測されており、少し遅めのお月見日和となりそうです』

『そうですねぇ。十五夜は曇りでしたから、丁度いい日になるでしょう。では、続いての──』


 俺は、付けっぱなしだった古いテレビを消す。


 そして、ワイシャツのネクタイを強く締めた。


「あれ? 稔、もう起きたの?」


「……あぁ、目が覚めちゃって」


(──俺は絶対、奴に罪を償わせてやる)


 この手で復讐を遂げる。


 そのために──


「稔さん! また北区の奴らが攻めて来ました!」

「奴ら、戦争するつもりです!」

「今度こそ実力ってものを分からせてやりましょう!」

「また放っておくつもりですか!?」


「──命令を下す」


「「「!!」」」


。北区の奴らを、潰してやれ」


「「「「はい!!」」」」


 ──俺はまだ、を利用する必要があるんだ。







──────​───────


速戦即決の捨て身特攻を決行することにした仁率いる北区!

一方、東区のボスとなった月城は、哀しい軌跡の上を歩んでいた。


次回!『準備完了』


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