第74話 準備完了


「……今夜東区を攻めるって、本気か?」


「もう……? 俺なにも準備なんかしてないんだが……」


「私はいつでも大丈夫ですよ! 仁先輩!」


「喧嘩に準備ってなんだよ。で、もう一回言うが……」


 あれから十数日が経過した。


「俺達は今夜、東区を……というか、月城を倒す」


 俺は放課後、皆を集めて宣言する。


「月城さえ倒せば、東区は終わりだ」


「……そういう訳にもいかないぞ?」


「あぁ……月城にはボクサー時代から付き従っている数人の仲間がいる。そいつらも強敵なはずだ」


 俺の言葉に珀が唸り、太牧や赤瀬ら東区のことを知っているその他幹部がざわめきだす。


(まぁ確かに、太牧や赤瀬でさえ……能力値を増加させる前なら珀ですら、東区の上位幹部には勝てないだろう)


 珀は今スキルで能力値を追加増強しているが……


白井しらい はく

『181cm』『78kg』

『力   S

 俊敏  A−

 知力  C

 耐久力 S』


 ……正直、ボクサー相手は厳しいと言える。


 特に、No.2の月城に次ぐ天才ボクサー……城戸きど和也かずや


 他はまだしも、あいつの相手は不可能に近い。


 唯一の可能性である才能開花も……


『白井珀』

『才能:C』


 ──白井は、努力であそこまで強くなった男だ。


 才能開花しても、恐らく専用スキル次第だろう。


(凄いよな、才能Cであそこまで……)


 才能Dの涼人は現在才能開花したが、開花前の珀に及ばない。

 努力による結果がいかに大きいか、知らしめてくれる存在でもある。


(……というか、才能Cの才能開花ってどれだけ能力値が上がるんだ?)


 涼人は、才能Dで全能力値が3段階上がった。

 凛は、才能Sで全能力値が6段階上がった。


 C、B、A……なんで間に2段階しか差がないのにランクが3つあんだよ?


「そこで、チームを分けようと思ってる」


 俺は動揺する配下たちを、手を挙げて鎮める。


「まず、Aチーム……は、俺」


 Aチーム:神楽仁


「まぁ、月城とタイマンする役目だな」


「ヘッド……大丈夫なのか?」


「ん?」


 俺の言葉に、心配そうな声をかける配下がいた。


 太牧幹夫だ。


 太牧は以前、北区の北部を支配していた珀の配下で、俺と同じ2年生の中では最強だった配下だ。


 そして、俺が初めて敗北した相手でもある。


「まぁ、タイマンなら自信はある。100%とは正直な気持ち言えないけど……それより、太牧は大丈夫なのか?」


「えっ?」


「や、お前も自分の心配した方がいいぞ? お前今回重要な役回りだからな?」


「お……おう、任せろ!」


太牧ふとまき 幹夫みきお

『178cm』『112kg』

『力   C+

 俊敏  E

 知力  D+

 耐久力 C+ 』


 俺は、太牧の能力値を見て言う。


 東区のその辺の配下と同レベルだ。


 体重があるから、もう少し健闘は出来るだろうけど……


「……で、Bチームだな。楓をリーダーにして、赤瀬、太牧、白山田……やっぱ多いから、先Cチーム呼ぶわ」


「仁先輩! 私は……!」


「や、今から言うからちょっと待ってな? Cチームは凛、珀、涼人……それと、非幹部全員だ」


 Cチーム:世津円凛、白井珀、水霧涼人、etc.


「Cチームは、俺が月城と戦ってる間に、他の配下たちを止めなきゃいけない。こっちが100人弱なのに対して、相手は400人だ」


「「「……!!」」」


 俺の言葉に、息を飲む音が聞こえた。


「まぁでも、実際そんなに戦うわけじゃない。当たり前だけど、そんな人数が入るスペースもないから、人数はそこまで気にしなくていい……時間が稼げれば十分だ」


「それで、Bチームは?」


 内容を既に知っている楓が、急かすように言う。


「ああ……呼ばれてないここにいる幹部全員と、楓がBチームだ」


 Bチーム:楓、赤瀬、太牧、他幹部


「Bチームは、No.2や、その他数人の……最上位幹部を相手取るチームだ」


 東区の幹部には、No.2の城戸を初め、4人のボクサー時代の仲間がいる。


 他の幹部とも一線を画す実力者の彼らを止めるのは、乱戦になるCチームよりも難しいかもしれない。


「で……決行は21:00だ」


「ん……? 遅いな?」


「ああ。だからしっかりご飯食べて……は吐くかもしれないけど、今からゆっくり体調を整えといてくれ」


 珀の言葉に、俺は理由を言わずに返した。


(21:00開始なら……多分、月城と戦う頃には0:00を回る可能性もあるだろう)


 0:00を回れば、俺はもう一度スキルを使うことが出来るようになる。


 いつもの作戦だ。


(相手の能力値も上限値……どれだけスキルを使っても、上回ることは出来ない)


 【決戦の時間】の持続時間は5秒だ。

 5秒では当然足りない。


 2回使えれば、計10秒。


(……仕方ない)


 とはいえ、これ以上バフスキルがあるのに能力値増加スキルを使うのは勿体ない。


 一部前借りのような形で使ってるけど、凛の育成クエストで手に入れたものだしな。


 本当に負けそうで、どうしようもなければ使うことも視野に入れているが……まぁそこはもう神のみぞ知る領域だ。


(あとは────)


 俺は決戦に備えて、くもり夜空を見上げた。



〜〜〜〜〜



「月城さん!! 襲撃です!」


「ああ、分かってる」


 朝も聞いた配下の伝令に、月城は放課後皆で集まっている無人ジムでのトレーニングを止め、着替える。


 その傍らには、4人の同志が。


「稔、どうすんだ?」

「やっちまえばいいじゃん。別に遠慮することもないだろ?」

「うーん……確か中央区を潰したいんだろ? 北区でもボスなら強いだろうし、取り込んどけば?」


「月城先輩について行きます!」


 No.3西田光輝、No.4阿瀬山遥斗、No.5槌崎一織、そして──No.2の城戸和也。


 東区の最高幹部が、揃っていた。


「今から、北区との戦いを開始する」


 月城の言葉に、配下は皆黙って耳を傾ける。


「と言っても、そこまで大変なことじゃない。ボスは俺が仕留めるから、適当に配下を行かせて相手の場所を探れ」


「稔〜俺たちは〜?」


「阿瀬山、落ち着け。No.5以上の幹部で相手の幹部たちを相手する。ただ──阿瀬山」


 月城は先程意見した阿瀬山を指名する。


「お前は、別働で北区の非幹部達を配下達と一緒に片付けろ」


 その言葉に、阿瀬山はニヤリと口角を釣り上げた。


「あぁ、任せろ。俺が雑魚相手するのが好きだって知ってんだろ?」


「……弱いものいじめはやめろと言っただろ。それでもお前を選んだのは……慣れてるからだ」


 自分より弱い相手多数と戦うことに慣れている阿瀬山遥斗は、いわゆる親に習い事をさせられていたタイプで、元々不良のようなボクサーだった。


 月城が突然不良界隈に行くと聞いて、喜んで着いてきた部類だ。


 というか、No.2である一年下の天才、城戸和也以外の3人は皆同じである。


阿瀬山あせやま 遥斗はると

『才能開花!』

『175cm』『81kg』

『力   SS+

 俊敏  SS

 知力  C+

 耐久力 SS−』

『専用スキル【適力適所】』


『才能:A』


【適力適所】

自分より能力値の低い相手と戦う時、体力消耗を抑える

自分より能力値の高い相手と戦う時、体力消耗が増加する


「任せたぞ」


「はいはい。まぁ俺もいじめが好きなわけじゃねぇんだよ、安心しろ」


 月城が腰を上げると、その場に集まっていた10位以上の配下達が一斉に立ち上がる。


「じゃあ……迎撃するぞ」


(悪いが……一度警告もしたからな)


「──北区を、ここで終わらせる」


「「「「──おう!!」」」」


 そして、東区が一斉に動き出した。







──────​───────


ついに動きだした仁達北区、そして月城達東区!

圧倒的人数差のある東区を倒すため、仁は月城の所へと一直線に突き進む!


次回!『【翻訳】』


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