第69話 三日月蹴り・月剣
「せいっ! やぁっ!!」
「面!!」
「小手!!」
数日後。
放課後の部活で、俺は休憩しながらサブクエストを開いた。
『サブクエスト:愚者の足跡』
『攻撃スキルを使う 8022/10000』
『※単一スキルのみカウントされます!』
『報酬:スキルグレードアップ』
(残り2000か……)
今日追い込みをかけて終わらせよう。
『現在セット中:【三日月蹴り】』
俺はグレードアップするスキルに、【三日月蹴り】を選んだ。
理由はまぁ、現在進行形で進めている計画的にも必要だし、取り回しもいいから。
正直SSRの【狐拳】【バックスピンキック】のどちらかを強化しようと思っていたんだが……
(【バックスピンキック】は威力が高いが前隙も後隙も大きいし、ボクシングを操る月城に有効打は与えられないだろう)
【狐拳】はジャブと同じ速度でストレート以上の威力を発揮するが、ジャブと違って後隙が大きい。
もしガードされた場合は次に防御が間に合わず、また顎への一撃を受けるリスクが高くなる。
そもそも、北区は100人くらいしか配下がいない。
それも、他の区だと行き場がないような実力の不良ばかり。
能力値増加スキルが2000個くらいないと、どう足掻いても全面戦争じゃ敗北必死だ。
──だったら、
『俺たちが東区に勝とうと思えば、月城を1点狙いで倒すしかない。だが、月城は強い……1人でノコノコやってくることも無いだろうし、どうにかして周りの奴らを避けボスと一騎打ちさせるのが得策だ』
『だけど、それにしても配下が足りなく無い? 西区から何人か連れてくる?』
『いや……この状況で復讐心が強いトップのいる西区を刺激するのはまずいだろう。東区を諦めて先に西区と戦うならそれもいいが……』
『いや……とりあえず、先に東区を手に入れるぞ。要は……俺が月城に勝てるようになればいいんだろ?』
『……!』
『そうだけど……何かアテはあるわけ?』
『ああ……任せろ。今年中に、東区は手に入れる!』
だが、どのような作戦を立てようと結局最後には俺が月城に勝たなきゃいけない。
そのために、凡人の俺が出来ることは──スキルをもっと集めるか、もしくは極めるかだ。
(【サマーソルト】は隙がデカいし、【アルマーダ】は斜めに叩きつけるようにして蹴るから、ガードされやすい)
となれば、隙が少なく出が早く、ガードされにくい面じゃなく点攻撃のスキル……
──【三日月蹴り】だ。
「神楽くん? 今日ぼーっとしてたけど……どうしたの?」
「……っ? ぁ……滝川さん」
「大丈夫?」
滝川さんが、心配そうな顔色で見てくれている。
「……大丈夫。心配しないで、ありがとう」
「そう? ならいいけど……もう帰る?」
「え? うん、もう帰るけど……」
「……じゃあ、帰ろっか」
「……! うん!」
あの事件以来、滝川さんは居残り練習を7時までには切り上げるようになった。
それと、またあんなことがあったら堪らないし、少々遠回りになっても滝川さんを家の近くまで送っていくことが習慣になった。
部活のある日はほぼ毎日、一緒に帰っている。
「神楽先輩……なんで今日もいるんですか? ストーカーですか?」
「いや、違うっての」
「綾香……そんな事言わないで?」
「お姉様!? ……分かりました」
……まぁ、何か綾香もいるけど。
『滝川瑞樹 好感度:78⤴︎(1up!)』
『梨綾香 好感度:−11⤴︎(7up!)』
まぁ、こっちは順調だ。
それに、クールな滝川さんが徐々に心を開いてくれだしたのか、言葉数が増えてきてる。
(今はこれだけで、幸せだ)
クエストのおかげで、俺は幸せに近づいた。
だから──
(何が何でも、月城……俺はお前をぶっ倒す)
俺は、満月を見つめながら決意した。
〜〜〜〜〜
「仁ー! お風呂沸いてるわよー!」
「今行くー!」
『サブクエストをクリアしました!』
俺がサブクエストをクリアしたのは、その日の夜だった。
『【三日月蹴り】がアップグレードされます!』
『【三日月蹴り・月剣】を獲得しました!!』
「お、おぉ……っ!?」
三日月蹴り、月剣……!?
「な、なんかかっこいいぞ……!?」
俺は保有スキルを見てみるが、【三日月蹴り】は消えて【三日月蹴り・月剣】のみが残っていた。
(ランクはSRのままなのか……)
グレードアップはランクが変わらないのか?
まぁ、やけに日本語の差異に細かいクエスト君ならランクが上がる時はランクアップって書くよな。
(どれどれ、月剣ってのは……?)
「……三日月のことか?」
インターネットで調べてみたが、
え?
じゃあ三日月蹴り三日月ってこと?
(まぁ、別に誰かに見られる訳でもないから、名前はなんでもいいんだけど……)
俺は【三日月蹴り・月剣】のスキルを開いて──
(──!?)
書かれていた文字に、口元を裂く。
(これだ……!)
これなら……!!
『血の饗宴が始まろうとしている……』
俺は視界の端のメッセージを見て、鼻を鳴らした。
〜〜〜〜〜
「仁……」
うちは平然と作戦を立て直す仁を見て、不思議な感覚に駆られた。
(仁が、喧嘩する理由……)
そもそも、うちらには喧嘩する理由があった。
例えば、
白井は元々不良になる気は無かったけど、配下達から持ち上げられ崇められてるうちにまぁ悪くないか、って成り行きで始めたって言ってた。
うちならうちのことをいやらしい目で見てくる奴らから身を守るのと同時に、そいつらを打ちのめすためにNo.1の座を分取ってた。
……まぁ、上納金貰った頃はお小遣いが増えた感覚でショッピング趣味も出来たけど。
(だけど、仁は……)
うちは以前、仁の仲間になった時……仁にこの世界に足を踏み入れた理由を聞いたことがある。
『俺が喧嘩するのは、好きな人が居るからなんだ』
『!!』
『正直喧嘩とかさ、勝っても負けても痛いことやりたくないんだよ』
『いや……じゃあなんで……』
『でも、ちょっと事情があって北区制覇をしなきゃいけなくなったんだ。それでこそ、好きな人にアピールする自信がつくってこと』
『……利用されてるよ、それ』
『違うわ! 俺が勝手に思ってるだけ! その人に言われたわけじゃねぇから!』
仁は、好きな人……滝川さんだっけ? その子に釣り合う……ひいては告白する勇気を付けるために、地区制覇を目指しているらしい。
でも、白井が言うには既にかなり仲良くなっているらしかった。
(……そもそも、たったそれだけの理由でどうして戦い続けられるの……?)
いくら好きな人のためと言っても、限度がある。
それに、その好きな人が条件を出したわけでも唆した訳でも無く、自信を付けるために殴り殴られの世界に踏み込んだ……?
(……何か、おかしい)
仁は普通の陰キャだったから自信がないとかいってるけど、自信を付けるのにもっと他の楽な方法があるんじゃないの……?
というか、常人ならあれだけ血を流したり鉄の武器で殴られたり、危機に晒されたりしたら普通少しは恐縮するっしょ?
(うちでも、腕が折れて気圧されたのに……)
男子共は皆なんで戦うかなんて気にしてない奴が多いし、凛も仁に盲信的だから気にもとめないだろう。
(それと、あの時の……)
南部が滝川さんを攫った時、仁が付いてくるなと言って路地に駆け出した。
相手は10km先にいて、車で行ったって間に合わないはずだった。
でも、たかが数秒私が立ち止まっただけで、数百メートルはある一本道で仁の姿が消えていた。
(もしかして、建物の上を……?)
もしかしたらだけど、壁を登って上から走っていったのかもしれない。
確かに、それなら地上を走るより早いだろうし、姿が見えなかったのならそれしかないんだけど……
(忍者じゃあるまいし、そんなことある?)
しかも、写真を送ってきたのはフェイクだったらしいけど、いずれにせよあの位置から間に合った?
瞬間移動でもしなきゃそんなの無理じゃない?
(仁……)
仁は、すごい速度で強くなってる。
不思議なことに、半年程前、初めてあった頃とは既に雲泥の差だ。
どこでどう特訓してるのか知らないけど、普通に訓練したんじゃ世界一の才能でも持ってないとありえないくらいのスピードで強くなってる。
(うちは……)
凛も才能が目覚めた! って感じだし……
(うちは……?)
配下達がワイワイと騒ぐ中、うちは1人満月が照らす夜空を見上げた。
──────────
スキルがグレードアップし、【三日月蹴り・月剣】を手に入れた仁。
そんな愛に狂った少年の心を、ただ1人楓が理解しようとしていて……
次回!『千年に一度の美少女が綴る』
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