第68話 愚者の足跡


「う……!」


 酷い頭痛と共に、俺は目を覚ました。


「仁!」


「起きた!? 仁!」


「大丈夫か!?」


 俺の視界に、覗き込むように涼人、楓、珀の顔が映り込む。


「ここは……」


 どうやら、俺は春蘭高校うちの本拠地の会議室の机の上で寝かされていたようだ。


 誰かが気絶した俺を見つけて運んできてくれたのだろうか?


(ここに来るのも、久しぶりだな)


 最後に来たのは、楓との決戦で【アドレナリン】の気絶効果を発症した時だったか?


(……月城稔)


 俺は東区のNo.1、月城の強さを思い出して思わず笑ってしまった。


「仁……大丈夫なの?」


「仁先輩!! 大丈夫ですか!?」


 その時、丁度よく扉を蹴破って凛が現れた。


「……凛」


「仁先輩……私が守れなかったから……」


「いや、凛は俺たちが居ない間に拠点を守ってくれただろ? すごく助かったよ。それに……守るのは俺だって約束したからな」


「……!!」


 俯いて俺の手を握る凛に、俺はさっきのことを思い出しながら言う。


(……さて、どうするかだな)


 俺は相手のボスである月城稔に負けた。


 こういう時こそ冷静に、作戦を立てるべきだ。


「仁……」


 悲観する必要はない。


 大体、ほぼ負けを知らなかった今までの方が本来異常なんだから。


「……とりあえず、あの後何があったんだ?」


「ちょっと、最初に聞くことがそれ? まぁいいけど……」


(え? これ以外に聞くことない気がするけど……?)


 楓は呆れた顔をする楓に内心首を傾げつつ、先を促した。



〜〜〜〜〜



「ふん……?」


 楓と珀から聞いた内容は、にわかには信じ難いことだらけだった。


 ──まず、俺が気絶したあと、月城は何もせず気絶していた配下たちだけを回収していたらしい。


 連絡がつかない俺を心配して楓がチームを抜けて確認しに来たところ、月城が待っていたかのように言ったらしい。


『あ……お前、もしかして北区の奴か?』


『なに……? あんた、もしかして……っ!?』


『北区はやっぱり人材不足なのか? 可愛い女子が前線で戦わされるとか……』


『ちょっと! 気持ち悪いんだけど! それより、仁に何したわけ!?』


『あぁ……悪い。こいつはそっちのトップだろ? 連絡受けて来たらたまたまうちの配下が全滅したところでさ。攻撃してきたから先頭になったわけ』


『それで……仁が負けたってこと?』


『あぁ。でも、普通に強かったぞ? 北区にいるのは勿体ないな』


『あんた……仁を引き抜く気?』


『うーん……そりゃ出来たら欲しいけど……それはお前らが許してくれないだろ?』


『そりゃ……!』


『じゃあ、連れて帰っといてくれるか?』


 月城はそう言って、建物から出ていったらしい。


『はっ? 何言って……』


『そうそう、領土取ろうとしてるらしいけど……そこまでにしときな。全面戦争を望むんじゃなかったら。今引けば別に報復とかしないし』


『あっ……待っ!』


 結局、楓1人じゃ俺を運べないから珀を呼んで連れて帰ってきたらしい。


(なんか、絵面想像したら恥ずかしいな)


 ……というか。


「どういうことだ? 月城は俺たちが既に取った領土を取り返すこともなく撤退したって?」


「あぁ。なんでか分からないけど……報復する気もなさそうだし、一先ず領土は広がったけど……」


 やはり、珀にも引っかかることがあるようだ。


(月城が寛大なのか? いや……それにしても、不良なら舐められるのは致命的だし、大量の配下達も不満を抱くはず)


 しかし、月城は俺達が奪った領土はそのままに撤退を促すだけだったらしい。


 閃いた可能性は1つのみ。


(……月城は、喧嘩が好きじゃないのか?)


 だがそれなら何故、巨大勢力の東区のトップなんかやってるんだ?


 ボクシング全国一位として、表世界でも自分を慕う人なんか無数に居ただろうに……


(別に不自由なんか無いんじゃないのか?)


 考えても無駄か。


 俺の知能で思いつける気がしねぇ。


『知力  E+』


 ……やかましいわ!


『メインクエスト:東区開戦』

『東区の領土を奪う 10/10』

『報酬:SSRスキル×2、SRスキル×2』


 あぁ……結局、楓と珀で4箇所、涼人達が3箇所、俺が3箇所潰すつもりだったんだが、涼人達と楓達が気絶した俺の代わりに1つずつ領土を取ってくれていたらしい。


『SSRスキル【読解力】【直感】、SRスキル【ダッシュ】【跳躍】を獲得しました!』


 ……とりあえず、達成出来ただけ良かったか。


 でも、これからは慎重に動かないとな……


【読解力】

文章の理解能力が飛躍的に上昇する。文脈を繋げて読み解くことが出来る。


【直感】

直感が鋭くなる。


【ダッシュ】

走る速度が1.1倍になる。


【跳躍】

最大2mまで垂直に上昇することが出来るようになる。


 日常SSRにSR……!


 大当たりではあるんだが……


(クソ……こんな時に限って、戦闘スキルが欲しくなるな……!)


 ……無いものは仕方ない。


「じゃあ……東区に対する対策を立てるか」


「……! あぁ」


 いつの間にか入ってきたのか、伊達がそう言って黒板に絵を描く。


「その前に……仁は、諦めないわけ?」


「え?」


 不意の楓の言葉に、俺は間抜けな声を上げた。


「なんで?」


「や、だって相手は多いし、強いわけじゃん? それでも諦めないのは何でかなって……ちょっと気になって?」


 どうやら、本当に単純な興味らしい。


 クエスト……なんて言えるはずもないから……


「まぁ、やられたらやり返すのが道理だろ。俺結構負けず嫌いな方だし」


「……そう? ま、仁が諦めないでくれてうちらも助かるけど!」


 ……何だったんだ?


 俺は改めて、伊達が書いた大まかな地区地図を見る。


         〇〇〇

▲▲▲▲▲〇〇〇〇〇〇〇〇

▲▲▲▲〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

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▲▲▲▲■■■■■■■■■▽▽▽▽▽

▲▲▲▲▲■■■■■■■▽▽▽▽▽▽

▲▲▲▲■■■■■■■■■▽▽▽▽▽▽

▲▲▲▲■■■■■■■■■▽▽▽▽▽▽

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▲▲▲▲■■■■■■■■▽▽▽▽▽□□

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□□□□□□□□□□□□□□□□□□


〇……北区

▲……西区

▽……東区

□……南区

■……中央区


「今回、▽の1列目を手に入れることが出来た」


 伊達は黒板を決して書き換える。


「しかし、現状これ以上攻めれば……東区との全面戦争は免れない」


「「「……」」」


 伊達の言葉に、幹部の皆はつばを飲む。


「だからまずは、戦力を高めるために西区の──」


(ん……?)


 会議の最中、俺はクエストを見ていると、知らないクエストが追加されていたのに気がついた。


『サブクエスト:愚者の足跡』

『攻撃スキルを使う 0/10000』

『※単一スキルのみカウントされます!』

『報酬:スキルグレードアップ』


(スキルグレードアップ……!?)


 どういう事だ……!?


(まさか……SRスキルがSSRスキルになったりするのか!?)


 俺はクエストを作った管理者……“神”に会ってから、クエストについてより考えるようになった。


 例えば、クエストタイトル。


 タイトルは今までも、明確に内容や状況を表していた。


(愚者の足跡……)


 愚者は多分、俺の事だろう。


 ちょっとムカつくけど……その通りだ。

 スキルがあるから凡人ではないけど、何年も磨き続けてきた月城の技術に対抗出来る程の技量は持ち合わせてない。


 だから、今から訓練なんかするよりも新たなスキルでゴリ押しをするしか道は無いのだ。


(確かに、愚者の方法だな)


 にしても、スキルグレードアップか……


♢保有スキル♢

攻撃スキル

SSR:【狐拳】【バックスピンキック】

SR:【三日月蹴り】【サマーソルト】【踵落とし】【アルマーダ】【フック】【正拳突き】【アッパー】


 ……何をグレードアップさせるべきだろうか?


「……!」


「〜〜!」


「〜〜?」


 やんややんやと会議が踊る中、俺は密かに口端を釣り上げた。






──────────


敗北後、即座に作戦を立て直す仁達北区幹部。

そこに現れたサブクエストの報酬は、まさかの“グレードアップ”で……!?


次回!『三日月蹴り・月剣』


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