第67話 東区の王


「あ?」


 初め、気がついたのは1人だった。


「チッ……雨降ってきやがった」


「まじかよ〜」

「傘もってねぇぞ……」

「だりぃ〜」


 その言葉に、周りの仲間たちが溜め息を吐く。


「とりあえず、誰か窓閉めてくれ」


「はいよ〜」


 東区No.41、毛利もうり義人よしとの言葉に、1人がドアの方へと歩いていく。


 そして、入口横の窓を閉めようと手を伸ばし──


「──グハッ!?」


「「「っ!?」」」


 入口が蹴り破られた。


「な、なんだ!?」


「誰だてめぇ!!」


 そこに居たのは──


「よォ、これで全員か?」


 尻もちをついた1人の首元を掴んで口端を吊り上げる、北区のNo.1だった。



〜〜〜〜〜



「な、なんだお前は!! ここが東区の領土と知ってのことか!!」


「んー……まぁまだ知らねぇのか? 俺のこと」


毛利もうり 義人よしひと

『185cm』『87kg』

『力   B+

 俊敏  C−

 知力  D

 耐久力 B』


(へぇ……これがNo.41か)


 ステータスを見て、俺は考察する。


(力は強いけど動きが遅い感じか? 太牧に似てるな……)


 まぁ、太牧よりは軽いけど……マジでデケェな。


 てか、これでNo.41って魔窟か……?


 一応他の配下も流し見するが、Bが1つでもある者は極小数だった。


「何……? お前、まさか……最近北区を統合したって噂の神楽仁か!?」


(──ま、問題ないけどな)


 俺は、冷静に自分のステータスを見つめた。


神楽かぐら じん

『175cm』『58kg』

『力   SS−

 俊敏  A+

 知力  E+

 耐久力 A−』


(これなら、バフ全積みで……)


 俺は【決戦の時間】【アジテーション】を発動した状態のステータスを想像する。


神楽かぐら じん

『175cm』『58kg』

『力   SS− →SSS+(Limit!)(6up!)

 俊敏  A+  →SS+

 知力  E+

 耐久力 A−  →B−(3down!)』


 ほぼ上限値。少なくとも1体1で負けることはないだろう。


 あ、【狂暴化】?

 使えるかあんなん。


 次は理性が戻らない可能性もあるのに。


「どこかで見たことあると思ったら……1人でノコノコやってきやがって!! やれ!!」


「「死ねぇぇええぇ!!」」


 南部と違って武器は持ってないが、力C+とBの配下が二人がかりで走りよってくる。


 それに、俺は──


『アルマーダを使用します』


「グハッ!?」「ガフッ!?」


「「「……!?」」」


 360°後ろ回し蹴り。


 その一撃で、2人をまとめて薙ぎ払った。


「どうした? 俺がただのこのこやってきたと思ったか?」


神楽かぐら じん

『175cm』『58kg』

『力   SS−

 俊敏  A+

 知力  E+

 耐久力 A−』


 俺は今バフなんか使ってない。


 だが、十分だ。


(これは俺の体感だが──)


 例えば、力が能力値限界のSSS+の時、俺は人2人を纏めて吹っ飛ばした。

 だけど、あれは【狂暴化】の理性喪失による肉体のリミッター解除も含まれてるから、実際は1人を2、3m飛ばすので精一杯だろう。


 【狂暴化】は数値以上の力を引き出す。

 その分、代償は【代償】スキルよりでかいけど……


 とにかく、今の俺の力の数値は、そんな人間の限界のたった5段階下だ。


 吹っ飛ばすことは出来なくても、一撃で沈めることは容易い。


「チッ……調子に乗るなよ!!」


「北区ごときが!」


「俺たち東区の足元にも及ばない分際で──」


『狐拳を使用します』


「ゲボッ!!」


「「っ!!」」


 丸めた拳で、敵をつ。

 神速で放たれた俺の手首が、耐久力C+の一般配下の顎を穿った。


 それを受けた配下が、後ろ手に軽く飛ばされて血を吐いた。


「なっ……な!?」


(は?)


 それを見た東区の配下と俺は困惑する。


(いやちょっと待て。【狐拳】こんな馬鹿みたいな威力だったか!?)


 例えば【バックスピンキック】なんかは隙もでかいが一撃がとても強力だ。

 冗談抜きにこいつらに撃つと、打ちどころによっては死ぬ可能性があるので絶対撃てないんだが……


 【狐拳】にこんな威力が……?


【狐拳】

空手の狐拳を使うことが出来る。

(俊敏の値によって威力上昇)


「あ……」


 そういや、そんな効果あったな。


 後隙は長いけど初速に優れたタイプのジャブみたいに使ってた。


(ってことは……)


『力   SS−

 俊敏  A+』


 あぁ……そりゃ強いわ。


 そういや【狐拳】も【バックスピンキック】と同じSSR攻撃スキルだったな。


『正拳突きを使用します』

『狐拳を使用します』


「グハッ!!」


「ゲホッ!?」


「お前が最後だな?」


 名前も興味無い一般配下モブを打ち倒して、俺は毛利に向かって笑った。


「くっ……調子に乗るなよ!! 俺にかかればお前なんか……っ!?」


「さぁ……」


『狐拳を使用します』


「グハッ……!?」


 下から顎に入った俺の手首が、毛利の体を宙に浮かせた。


「調子に乗ってるのはどっちかな?」


(決まった……!)


『メインクエスト:東区開戦』

『東区の領土を奪う 2/10』

『報酬:SSRスキル×2、SRスキル×2』


 達成になったし、どうやらここは終わったらしいな。

 もう1個は楓と珀の所か?


(てか、【廻天之力】発動しなかったな)


 計算が違った。

 南部の勢力は分かってる分だと400人。


 拠点が40数箇所だから、1拠点10人くらいしかいないわな。


 実際、ここには11人しか居なかった。


 拠点にはもっと人数が居るだろうけど……まぁ、こっちも全員把握出来てる訳じゃねぇからな。


(20人以上の戦場か……)


 いくら2段階上昇とはいえ、20人をも相手にするのはちょっときつい──


 俺がそう、呑気に考えていた時だった。


「──!!」


 閉めていたはずのドアが開く。


 そしてそこから、俺と同じくらいの背丈の男が現れた。


「ん……? 間に合わなかったか」


(な、なんだ? こいつ、誰だ……?)


 俺は、名前を確認しようと【観察眼】を使用して……息を呑んだ。


(嘘だろ……!?)


 その名前にじゃない。


 その────


「お前が、神楽仁か?」


月城つきしろ みのる

『才能開花!』

『178cm』『88kg』

『力   SSS+

 俊敏  SSS

 知力  A+

 耐久力 SSS+』

『専用スキル:【マスターボクシング】』


 ────圧倒的な、能力値に。


(さっ才能開花!?)


 才能開花って、クエストの加護を得た俺の仲間しか使えないんじゃないのかよ!?


「うーん……これは、北区と東区でやるってことでいいんだよな? 何ヶ所か襲われてるらしいし」


「くっ……!」


 高校生ボクシング全国大会優勝者……月城つきしろみのる

 当時高校二年生だった月城は、アマチュア最強の称号まで貰った、ボクシングの神だ。


 引き締まった体に、卓越した技術。


 色んな雑誌やテレビにも取り上げられた、正真正銘の武人だ。


 今はこうして、失踪状態から不良へとなっているが……


(勝てるか……?)


神楽かぐら じん

『175cm』『58kg』

『力   SS−

 俊敏  A+

 知力  E+

 耐久力 A−』


 相手は全国一位だ。

 俺もかなり喧嘩慣れしてきたとは言え、月城が持つ格闘技の経験それとは質も量も桁違い。


【マスターボクシング】

超越的な技術で、能力値以上の打撃を繰り出すことが出来る。

(ボクシングのみ適用)


 ダメ押しに、このスキル。


(俺が能力値を限界Limitまで上げても、相手の方が力が強い……)


 それに、俺がそのパワーを出せるのはたった5秒。

 その状態でも、俊敏は及ばない。


「……クソッ!!」


『アジテーションを使用します』

『決戦の時間を使用します』


 考えても仕方ない!


 敵のボスがここに居るんだ! どの道逃がしてはくれないだろうし、ここでやるしか……!!


『狐拳を使用します』


「オラァ!!」


 俺は素早く月城の懐に突っ込んで、超速の拳を突き出した。


「そう来るか? まぁいいけど……」


「……!?」


 ──しかし。


「覚悟は出来てるのか?」


「グハッ……!?!?」


 月城は軽く手のひらで俺の拳を受け流すと、神速のアッパーカットを繰り出した。


(な……なんだ、この強さッ!?)


 一瞬意識が飛んだ。


 俺の力はSSS+で並んでいるが、耐久力はB−。


 今まで痛みは無理してでも突っ切ってきたから、耐久力は最も気にしていなかったが……


(ここで響くなんて……!)


 体が言うことを聞かない。


 たった一撃で、意識を繋ぎ止めるのが精一杯だ。


(クソッ……う、ごけ……!)


 【アドレナリン】を使うか?

 3分で気絶するのに、3分でこいつを倒せるか?


 痛みがなくても、脳震盪で動けないだろう。


 【狂暴化】は使っても受け流されて勝てない可能性が高い。


「お……? 耐えたのか? 貧相な体つきに見てたが……結構やるな?」


「ぐ……!」


「じゃあな」


「ガハッ!」


 トドメの一撃ストレートが、俺の鼻っ面に叩き込まれた。


(まずい……意識が……)


 受けたダメージが深刻すぎて、意識が持たない。


 この日、俺は太牧幹夫との戦い以来、初めての敗北を味わった。


『サブクエストが開始しました!』






──────────


東区の領土を上手く奪った仁だったが、そこに何故か東区のボス月城稔が現れた……!?

圧倒的な能力値と技術が具現化したスキルの前にあっさりと敗北してしまった仁の前に現れたサブクエストとは……!?


次回!『愚者の足跡』


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