第60話 罰


「……行ってきます」


「お、お邪魔しました!」


 滝川さんがマンションのドアを閉めると、自動でロックがかかる。


(自動ロックもそうだけど……滝川さんって、金持ちだったんだな……)


 先程、朝ごはんを頂いた時も……


『はい、これ……簡単なやつだけど……』

『え!? まさか、作ってくれたの!?』

『……うん。いつも、作ってるから……』

『え、いつも?』

『……親、二人とも医者だから……普段帰ってこないの』


 詳しいことは分からないけど、食器も凄く豪華そうなやつだったし……14階建てマンションの14階に住んでるって、どう考えても金持ちの家だよな?


 あ、料理?


 言葉にするのもおこがましいほど美味しかった。


 多分、好きな人補正抜きでも相当だと思う。

 ずっと作ってきたっていうのも、本当なんだろな……


「ご飯……美味しかった……」


「そ、そうかな? よかった」


 あ、やべ。つい思い出して本音漏らしちまった。


「……ごめんね」


「……え?」


 不意に、滝川さんが呟いた。


「私のせいで……神楽くんが、痛い思いを……」


「──違うッ!!」


「っ!」


「滝川さんのせいじゃない……俺のせいだ!」


 滝川さんの言葉に、俺は思わずそう叫んだ。


「俺のせいで、滝川さんにあんな思いを……」


「い、いや、神楽くんが悪いわけじゃ……!」


「俺が、不良だから──」


「……!」


『私、不良は嫌いなの』


 心が冷たくなるのを感じる。


 だけど、これだけは言わなきゃいけない。


「関係ないのに、巻き込んじゃったんだ」


 ──人として当然のことだから。


「……ごめん」


「……」


 滝川さんも俺も、既に足は止まっていた。


「……ううん」


「!」


「それも、違うと思う」


 滝川さんはこっちを向いて、俺の目を見て告げた。


「──ありがとう」


「──!」


「神楽くんのおかげで、助かったから」


『滝川瑞樹 好感度:76⤴︎(1up!)』


「滝川さん……」


「そもそも、私が夜中に1人でいたのが悪いしね」


 俺がいなければ、そもそもあんな事件起こってなかったはずなのに……


(優しすぎる……)


 本当に、俺に滝川さんと釣り合うようになれる日が来るのだろうか。

 ここまで来ると、不安になってしまう。


(だけど、引くつもりは無い)


 クエストの力を得たのは、天命だったんだ。


 この力なら、挑戦できる。


(滝川さんに惚れられるような男になるんだ!)


 俺の目的は最初から、変わらない。



〜〜〜〜〜



『サブクエストをクリアしました!』


『サブクエスト:新しい朝』

『滝川瑞樹と学校に行く 1/1』

『Rスキル【薫香くんこう:柑橘】を獲得しました!』


 しばらくして、昼下がり。

 俺たちは一緒に学校へ辿り着いた。


薫香くんこう:柑橘】

24時間柑橘系の香りを微弱に発するようになる(使い切り)


(あ、当たりスキルだ)


「ん……じゃあ、遅刻報告しないと」


「あぁ……そうだった。めんどいなぁ……」


 無断遅刻欠席早退は、回数が多いと大学の推薦を書いて貰えなくなる。

 だから、遅刻欠席早退届けを書いて出さなきゃいけないんだ。


「今は5時間目か? じゃあ……」


「「体育」」


 俺と滝川さんの声が被る。


「あっ……」


「……そっか。A組……」


 体育は2クラス合同で行われる。


 A組の俺とB組の滝川さんは、お互い5時間目が体育ということだ。


「……じゃあ、体育館行こっか」


「うん」


 ……もう少し、一緒に居られそうだ。


 体育館に行くと、既に男女半々に分けて体育の授業が始まっていた。


 体育の先生は二人で喋っている。


「え? あれって……」


「あ、神楽? 来たのか?」


「隣に誰かいるけど……」


 数人に気づかれて見られながら、俺達は先生の元に向かった。


 やがて、先生も近づいてきた俺達に気がつく。


「おはようございます」


「……おはようございます」


「お、神楽か? どうした、遅刻か?」


 体育の松阪先生が不思議そうに言う。


「はい。実はちょっと自転車と事故ってしまって……」


「お、おお!? そ、そうか……大丈夫なのか?」


「はい、俺は大丈夫です。もう病院行ってきたんで」


「あぁ、そうか。お大事にな。じゃあ、まだ時間もあるし着替えて来い。今日からマット運動だからな」


「はい」


 松阪先生は、今年に入ってからかなり好感度が上がっていて、特に疑われたり怒られたりする気配なく話が終わった。


 去年なら絶対多少は怒られただろうが……


 番長だからという理由以外にも、卓球の時に卓球部顧問なだけあって盛り上がってたからな。それもあるだろう。


 俺が軽く済んだと内心、ホッとした時……


「だから、どうして遅れたのって言ってるでしょ?」


 横から、剣呑な声色が聞こえてきた。


「えっと……寝坊して……」


「はぁ……高校生にもなって……もう3年になるんだから、もっとしっかりしなさい」


「……はい」


 見れば、女子体育の蜂木先生が滝川さんを詰めていた。


(え?)


「もう昼過ぎですよ? 本当に寝坊ですか? それとも遊んでいてサボってたんじゃ──」


「滝川さんは、悪くないですよ」


「「!!」」


 蜂木先生の詰問に、俺は間に入る。


 蜂木先生は面倒臭い先生で生徒の中では有名で、結構……というかかなり嫌われている。


 だけど、女子体育教師だしあまり会うことがないから、気にしたことがなかったけど……


 滝川さんを責めるなら、黙ってはいられない。


「滝川さんは俺が事故った時にたまたま近くにいて、病院に連れて行ってくれました。だから遅れたんです」


「……あなたは? 話し中に急に……」


「なので、正確には遅刻にはならないと思います」


 矢継ぎ早に、俺は蜂木先生の目を見て被せる。


「でも、さっき寝坊って……」


「俺の治療中に登校出来たものを、待っててくれたのは事実なので。でも、優しさで遅れたのは結局、俺のせいでしょう?」


「……」


 滝川さんは、目をぱちくりしながら見ている。


 まぁ病院に行ったのは嘘だが、療養も事故も本当だからな。

 別に交通事故とか言ってないし。


「でも──」


「先生」


 それでもなお食い下がる先生に、俺はをだす。


「っ!?」


「事故ですって」


 俺の低い声に、蜂木先生はビクッと怪訝な表示を浮かべた。


(ほんとはこんなことしたくないけど……)


 俺は、未だ他クラス他学年と先生に恐れられてる……“番長”であることを、初めて学校で利用することにした。


 滝川さんの前でこんなことするのはかっこ悪いし嫌だけど……そんなことよりまずは、滝川さんを助けるのが先だ。


 俺のせいで巻き込んじゃったのに、これ以上迷惑はかけれない。


「神楽くん……」


「神楽……っ?」


 滝川さんの一言で、俺の事に気づいたらしい。


 最近あんまり意識してなかったけど、名前だけはまだ有名だからな。


「遅れたのは俺なんで。事故ですから」


「あっ……そ、そう。分かったわ。じゃあ、後で届けだけ出しといてね……?」


 蜂木先生はそれだけ言って、女子の方へと逃げていった。


「……ありがとう」


「いや……気にしないで。元々、俺のせいだしね」


『滝川瑞樹 好感度:77⤴︎(1up!)』


 そう、俺は既に過剰な報酬を貰ってるんだから。


「じゃあ、また」


「! うん、またな!」


 そうして、俺たちは自らのクラスへと向かっていった。



〜〜〜〜〜



 放課後。


「……来たか」


「っ!」


 俺は伊達のクラブ『Aqua』にて、に語りかける。


「仁! ほんとに良かった……無事だったんだな!」


「お前それ今日5回目だぞ?」


「や……ほんと、どこ行ってたわけ?」


 涼人と楓にそう言われるが、俺は「まぁ……」と言って誤魔化した。


 ……凛がやけに静かなのが怖い。


「てか、あの人無事だったのか? まさか間に合ったのかよ?」


「あぁ……まぁな。やっぱり相手がハッタリかましてただけらしくて……」


「……おいっ! いい加減に説明しろ! 何のつもりだ、ほ、ほどけ!」


 俺たちが話し込んでいると、縛られたが我慢ならんと叫んだ。


 ──清水だ。


「……」


「な、なんだよ! 俺をな、仲間にするんだろ? こ、こんな扱いありかよ!」


「はぁ? あんた……!!」


「楓」


「……ん?」


 その言葉に激昂する楓を手で制して、俺は清水の前に進み出た。


 そして──


「……ど、どうした! な、何か言え──」


『三日月蹴りを使用します』


「──ぐべっ!?」


「「「!!」」」


 俺は清水の顔面を蹴りあげた。


 清水は血を吐いて、地面に倒れる。


「ひっ……ひっ!!」


「……」


『三日月蹴りを使用します』

『踵落としを使用します』


「ぐはっ! げぼっ!」


「ガハッ!!」


 無言で、俺は足を振り上げた。


「ま、待て……!! お、俺は──」


「死ね」


『踵落としを使用します』


『クリティカルダメージ!』


「……カ、ハッ!!!!」


 清水はその一撃に気絶する。


「お前は、唯一病院送りになってなかったよな」


 ほかの南部の配下たちは全員、【狂暴化】した俺と才能開花した凛の鉄パイプで病院送りとなった。

 今病院は大忙しっぽい。


 だけど、あんな作戦を実行した清水がまだここにいる……?


「誰一人として、受け入れるか。クズ野郎が」


『メインクエストをクリアしました!』


『メインクエスト:南部の狂踊・窮鼠猫を噛む』

『1.水霧涼人と南部の領土を奪う 11/11』

『2.清水武尊を倒す 1/1』

『3.瓶和貴斗率いる元北部勢力を倒す 49/49』

『4.東部の仲間を増やす 0/102』

『条件4報酬:Rスキル×1』


 報酬なんか関係ない。これは、関係ない滝川さんに手を出した……


「──罰だ」


 誰も、反論する者は居なかった。


『──異常エラーが発生しました!』







──────────


仲間増加クエストの報酬よりも、罰を優先した仁。

そこに現れた、異常エラーとは……!?

1章終了間近!


次回、『邂逅』


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