第59話 新しい朝


「……ん?」


 俺は出来たスキルの詳細を見ようとして、視界の端に気になるメッセージを捉える。


『世津円凛の才能が開花します!』

『おめでとうございます! 仲間の秘められた才能を開花させました!』

『世津円凛に専用スキルが与えられます!』


『専用スキル【狂愛ヤンデレ】を獲得しました!』


狂愛ヤンデレ

好きな相手に他の好きな人がいる場合、戦闘中全能力値3段階上昇。好きな相手への執着心が高まる。


「は、はぁっ!?」


 え、ちょっと待て! 才能開花!?


 才能Sの凛が!?


(確か、才能Dの涼人で全能力値が3段階も上昇してたよな……?)


 一体凛は今……


(どんな化け物になってんだ!?)


 しかも、それ以上の問題はこの専用スキル。


 ……なんとなく、どうして才能開花のきっかけを得たのかわかる気がする。


(これ……まずくないか?)


 多分、俺が滝川さんのために駆けつけに行ったのがバレたのだろう。

 この好きな相手というのは、俺の事を指してると思われる。


(自惚れ……だったらむしろいいのに……)


 楓……しくじりやがったな。


「……んあれ?」


 ってか、才能開花って言えば何か忘れてるような……


『育成クエスト:才能開花への道』

『1.神楽仁が才能開花する 0/1』

『2.水霧涼人が才能開花する 1/1』

『3.三田楓が才能開花する 0/1』

『4.世津円凛が才能開花する 1/1』

『5.白井珀が才能開花する 0/1』

『各報酬:ランダム【〇〇の解放】スキル×2』


(あっ……そうだ、これこれ)


 北部を支配した時……夏休み前に出てたクエストだから忘れかけてた。


『SRスキル【力の解放】【俊敏の解放】を獲得しました!』


(キタ! 能力値上昇スキル!)


 じゃあこれを早速……


 俺は、能力値上昇スキルを使用しようとして……思いとどまった。


 クエストは俺に突然現れた力で、その報酬のスキルを誰に使うかは俺が決める……というか、俺が受け取っても文句は無いだろうと思う。


(でも、このスキルって……凛が頑張って手に入れたスキル、だよな)


 凛が南部の配下たちと頑張って戦って、その結果手に入ったスキル……


(……育成クエストのスキルは、本人に使うか?)


 ただ、育成クエストをクリアした仲間は能力値が大きく上がってる。

 そこに継ぎ足して、個人戦力を大きくしても……


「いや……本人の頑張りだし、本人に使うのが道理だよな」


 涼人や俺がピンチになった時に使えるように取っては置くが……もし使ってしまった場合は、後から手に入れ次第凛に使おう。


 そして、これは他の全員にも同様だ。


 俺は、先程合成で手に入れたスキルの詳細を開きながら唸った。


【ヴァンパイア】

吸血鬼と化し、全能力値が4段階上昇する。

全てのスキルがブラッドスキルに変化する。

(満月の夜のみ使用可能)

(月に雲が被っていない時のみ使用可能)


「なんで、俺の高ランクスキルは謎の制約があるやつだらけなんだ??」


 満月の夜の間、それも雲が出てたらダメって……使える機会なさすぎだろ!


 大体、満月の日なんてどう足掻いたって調節出来ないし……


(あんま使うことないかもなぁ)


 正直吸血鬼になるとか、ブラッドスキルとかめっちゃ気になるワードだらけなんだけど……


「……まぁ、考えてても仕方ないか」


『アドレナリンの持続時間が終了しました』


「あっやべ……ぐぅぅぅう!?」


 俺がさて次はスキル合成でも……と考えた矢先、アドレナリンの持続時間が来た。


(忘れてた……! ってか、気絶する前に場所の把握を……!)


 俺は咄嗟に痛みが和らいだ首を横に向け──


「ふぁっ??」


 夢を見た。


(なんで──)


 そこに居たのは……


(なんで、滝川さんがここに!?!?)


 俺の寝るベッドの端に頭を乗せ、もたれかかるように寝ている滝川さんだった。



〜〜〜〜〜



「──ハッ!!」


 チュンチュン、と朝を告げる鳥の鳴き声が聞こえ、俺は目を覚ます。


「う……」


(くそ、まだ体が痛てぇな……)


 俺はまだ痛む体を気合いで動かして、体を起こす。


「てて……あぁ、そういや病院に──」


「──神楽くん?」


「……!?」


 ふと、すぐ真横から聞こえた声に、俺は振り向いて──思い出す。


(そういや、気絶する前……)


 滝川さんらしき人が、横で寝ていた気が……


「滝川……さん?」


「──神楽くんっ!!」


「……うわっ!?!?」


 俺が現実かどうか確かめるように呟くと同時に、滝川さんが上体だけで抱きついてき──えっ!?


「ちょ、え、え?」


(だ、抱きつ……っ!?)


「……!」


 滝川さんは俺の困惑に気づいたかのように、パッと離れてしまった。


 心臓が高鳴る。


 今……一体、何が起きたんだ……?


「え、えっと……おはよう?」


「……うん……おはよう!」


 滝川さんは、涙目で笑いかけてくれる。


「え……!? ちょ、ちょっと待って! な、なんで泣いてるの……!?」


「ううん……無事で……良かった」


 ちょっと待て。


 もしかして俺、【リカバリー】使うのミスって死んだか?


『リカバリーは使用できません』

『使用回数1/1』


 ああ……生きてるっぽいな。


 じゃあ夢?


(まさか俺……【催眠】とか【赤い糸】、無意識に使ってないよな?)


 俺は慌ててスキルを確認するが、【ヴァンパイア】がしっかりとあるし、違うっぽい。


(じゃあ、どうしてこんな──)


「神楽くん」


「!!」


 そして俺は、を見て驚愕に言葉を失った。


『滝川瑞樹 好感度:75』


「な……」


(75!?!?)


「大丈夫……なの? 体は……」


「えっ……あ、あぁ、大丈夫。ちょ、ちょっと特殊体質っていうか……怪我の治りは早くって……」


 一体……いつの間に、そんなに上がったんだ!?


(滝川さんは極難だぞ!? そんな一気に上がるわけ……)


『滝川瑞樹 75/100 極難

 三田楓  40/100 難

 世津円凛 100/100 易

 兵藤詩織 100/100 易』


 ま、まじかよ!?


(ゆ、夢じゃない……俺が……滝川さんの好感度を……ここまで上げれたんだ!)


「ほんとに……そうだったんだ……良かった……」


「な、泣かないで!? た、滝川さん!?」


「うん……ごめんね」


 滝川さんは目尻に貯めた涙を拭うと、頬を上気させ、はにかんだ。


 そのかつてないほどに近い場所で放たれた、心臓が吹き飛ばされそうな程の笑顔に、思わず見入ってしまう。


「……? か、神楽くん?」


「……あっ! ご、ごめんっ!」


「あ……う、うん」


 俺と滝川さんはお互いに目を逸らす。


 気まずい空気が流れた。


「そ、それより! も、もう起きて大丈夫なの……?」


「え……う、うん。まだ痛いけど、怪我は治ったから……」


 俺は改めて部屋を見てみる。


 真っ白な壁に、角付近に掘られた高級そうなレース模様。

 勉強机と椅子が枕元にあり、滝川さんの後ろには本棚がずらりと……


(ん……?)


 ドアの横を見れば、クローゼットが……


 おいちょっと待てよ?


「え、えっと、滝川さん……ここは?」


「あっ……え、えっと……私の、家?」


 俺の質問に、滝川さんは微妙に視線を逸らして、遠慮がちに答えた。


「あぁ、滝川さんの……じゃあ、ここが部屋?」


「そう……」


 あ〜だからか。


 全然カーテンとかないし医者もいねぇなぁと思ったんだよなぁ……


「──はぁぁぁぁぁあ!?」


「ひゃっ」


 ……じゃねぇよ!!

 意味わからんだろ!?!?


(やべぇ、あまりの非現実感で逆にキレそうになったぞ)※手遅れ


「……」


「……」


「……」


「……」


「え、えと、学校は……?」


「……学校?」


(やばい……!)


 どうしても話題が見つからなくて、こんなことしか聞けなかった……!


(……カッコ悪すぎるな……俺……)


「……休んだ」


「え? だめでしょ、休んじゃ!? 今何時!?」


「……11時半」


 11時半……って3時間目終わってんじゃねぇか!


「え、やばくね? 今すぐ行かなきゃ!」


 俺は慌てて立ち上がる。


「えっ……まだ動いちゃ……!」


「俺のことはいいから! そんなことで滝川さんに休ませたら悪いよ!」


「……!」


 正直言って、これ以上こんな神聖な場所にいたら心が持たない……と思ったのもある。


 それに、ご両親にも迷惑かけてるだろうし……


 優等生の滝川さんにサボらせる訳にはいかない。


「じゃ、じゃあ……その……」


 しかし、俺の言葉に滝川さんは何か言いたげに視線を彷徨わせる。


「?」


 そして──あろうことか、こんなことを提案した。


「よかったら、朝ごはん、食べてかない?」


「──!! ぜ、是非! お願いします!」


 俺は、登校するのを諦めた。


『サブクエストが開始しました!』


『サブクエスト:新しい朝』

『滝川瑞樹と学校に行く 0/1』

『報酬:Rスキル』







──────────


本当の報酬とも言うべきものを手に入れた仁。

ようやく北区での喧嘩に終止符が打たれ、しばし休息の時……!


次回、『罰』


少しでも面白い、続きが気になる、と思った人はフォロー、及び最新話か目次の下部より★★★をポチッとしてくださると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る