第58話 精算
「これで……良かったのかな……」
私は、ベッドで未だ目を覚まさない神楽くんを見て、呟いた。
結局、あの後──
『私は両親が医者なんです! 絶対に病院に連れて行かせないと言うなら……うちに連れて帰って、治療します!』
半分、勢いで言った言葉だった。
だけど、そうでもしないと……
あの人達は、神楽くんを殺してしまうのではないかと思ったから。
(特異体質とか、そうじゃなくても、こんな重症の人を病院に連れていかないとか、おかしい……!)
喧嘩してここまで大怪我したことがバレると、確かに大問題になるだろうし、正当防衛とはいっても人をあそこまで殴ったら問題になるだろう。
(でも……でも……!)
だけど、それが神楽くんを放置する口実になるとは思えない。
まともな人間なら……
──実際。仁によって不良以外への横暴を止めさせられたとは言っても、不良は不良だ。
「目……覚まして……」
時刻は2:05。
1時間ほど前に、親が帰ってきたところだった。
『『ただいまー』』
『お父さん! お母さん!!』
『えっ、瑞樹?』
『まだ起きてたのか!?』
『いいから、早く来て!! 友達が死んじゃう!』
『『!!』』
神楽くんの友達らしい男の人の力を借りて、マンションまで運んできてもらった。
ベッドに寝かせた神楽くんを見て、お父さんは顔を顰める。
『な、なんだこいつは!? 彼氏か!?』
『ち、違う! 友達! 交通事故にあって……うちが近いから、連れてきたの!!』
『交通事故!? じゃ、じゃあ救急車を呼んで……』
『だ、だめ!』
『!?』
『そ、その……じ、実は……』
お父さんとお母さんを納得させるのは大変だった。
神楽くんが喧嘩して怪我したことは隠さなきゃいけないし……
なんとか金持ちの息子で、叔父に資産を狙われてるから一般病院に行かせたくない……といって納得してもらったけど。
お父さんもお母さんも医者として大金持ちと関わることがあったらしく、自分でも苦しいとは思ったけど割とすんなりごまかせた。
でも、すぐにバレると思う。
それに……
『お前……これは、まずいぞ……』
『まずいですか? あなた』
『お父さん、お母さん? ど、どうしたの……?』
『ああ……残念なんだが……恐らく、左目の視力は戻らないと思う』
『──!!』
『3ヶ月もあれば全身の骨折は治るだろうが……それ以外にも、後頭部の怪我が深く後遺症が残るだろうし、そもそもこれじゃ植物人間になるなんて可能性も……』
私は、それ以上聞いていられなくて、神楽くんのいる部屋へ駆け込んだ。
『あなた……』
『全く……こんな大怪我のやつ、どこで拾ってきたんだ……運が無いな……』
両親は私の友達だって言ったのに、やはり冷酷だ。
仕事人間で、淡々と人の生死を語って。
(私のせいだ……っ!)
私が、夜中まで1人で出歩いていたから……
──そして、現在に至る。
「目……覚ましてよ……神楽、くん……」
私は、眠気に抗えずに、ベッドの縁に頭を預け、夢に落ちた。
〜〜〜〜〜
「……ハッ!」
目を覚ますと、辺りが真っ暗だった。
(今何時なんだ……?)
【アドレナリン】の気絶効果なら、3時間ほど経って0:00くらいだと思うが……
「──ィ゛ッ!?!?」
アァァァァァァァアア!?!?
な、なんだこの痛みッッ!?!?
頭を起こそうとしただけで、凄まじい痛みが襲いかかる。
直感的に感じた。
(次動いたら、確実に死ぬ……ッ!)
尋常でない痛みに転げそうになるが、根性で動かないように我慢する。
(りっ、【リカバリー】ッ!!)
『リカバリーを使用します』
一瞬にして、傷と体力が治る。
しかし──
「これなら──ギャァァァァァァア!?!?」
多少は指が動いたが、それだけだ。
我慢できない程の強烈な痛みが襲いかかる。
(まっまずい、し、死ぬって……!!)
【リカバリー】使ったのになんでだ!?
重症すぎて回復しなかったとか!?
(そうだ……【リカバリー】はあくまで傷と体力わ治すだけで、痛みが引くわけじゃない!!)
新たな痛みは感じなくなるだろうが、元々あった痛みはしのげないってか!?
(だったら──)
「あ、【アドレナリン】!」
『アドレナリンを使用します』
瞬間、痛みも引いた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ふぅ」
スキルが使えたってことは、やっぱ0:00は回ってんな。
しかし、ここはどこ──
辺りは真っ暗で、何も見えない。
しかし、俺がベッドの上にいることは分かった。
(あんだけ病院はやめろって言ったのに……結局こうなるか)
病院に行けば、おそらく喧嘩していたことがバレるだろうし、親にも連絡がいく。
正当防衛だなんて言っても、相手の主観で過剰防衛だとか言われて少年院なんて可能性まであるのだ。
(それだけはない……と信じたい……)
……とにかく、どんな状況だろうと、俺の使える手段はやはりスキルだけだ。
「戦闘中に起きてたメッセージでも見てみるか……」
俺がメッセージを開いた瞬間……
「うおっ!?」
『サブクエストをクリアしました!』
『メインクエストをクリアしました!』
『水霧涼人が戦闘を開始しました!』
『世津円凛が戦闘を開始しました!』
『三田楓が……』
『…………』
『…………』
(す、すげぇ……いろいろ起きてんな……)
色々と見たいところだけど……まずは滝川さんのことが気になるから……
(虫の知らせ……っ!)
俺は最初に、虫の知らせのメッセージを見る。
そこに書かれていたのは──
「……ふぅ。大丈夫っぽいな」
最後に『三田楓が戦闘を開始しました!』となって終わっているから、南部の校門前での戦闘後は誰も知り合いは戦ったりしてないようだ。
「じゃ、お待ちかねの〜……」
(メインクエスト!)
『メインクエストをクリアしました!』
『メインクエスト:南部の狂踊・窮鼠猫を噛む』
『1.水霧涼人と南部の領土を奪う 11/11』
『2.清水武尊を倒す 1/1』
『3.瓶和貴斗率いる元北部勢力を倒す 49/49』
『4.東部の仲間を増やす ?/102』
『条件1報酬:SSRスキル』
『条件2報酬:SRスキル、Rスキル』
『条件3報酬:URスキル』
『条件4報酬:???』
(……そういや、清水も倒してたんだわな)
最初に、【狂暴化】を使う前に一撃で沈めたけど……
あいつほんとにNo.1か?
……や、俺が強くなったってことだな! うん!
『SSRスキル【廻天之力】を獲得しました!』
『SRスキル【コンパス】、Rスキル【レイアップ】を獲得しました!』
『URスキル【起死回生】を獲得しました!』
「う、うおおお!?」
俺はスキルの詳細を見て、興奮に声を漏らす。
【廻天之力】
相手の人数が20人以上の場合、全能力値2段階上昇。
【コンパス】
ボウリングのコンパスを使用出来る。
【レイアップ】
バスケのレイアップを使用出来る。
【起死回生】
全ての傷と体力を回復し、全てのスキルのクールタイムをリセットする。
(三十日に一度使用可能)
特に、凄いのはこの【起死回生】。
(1ヶ月に1回とはいえ……クールタイム全リセット!?)
このスキル自体にも回復効果がついているため、1ヶ月に1度【リカバリー】が3回使える様なものだ。
スキルによる瞬間能力増強に頼っている部分が大きい俺としては、ライフ+1程の価値がある。
「流石URスキル……太っ腹だな」
そして、俺は次に──
『サブクエストをクリアしました!』
『サブクエスト:彼女を守れ』
『南部の配下を倒す 51/51』
『報酬:URスキル×2』
「えっ!?」
あのクエスト……報酬がUR2個だったのかよ!?
まぁ、確かに50人を1人で相手取るのは厳しいだろうけど……
複雑な気分だ。
滝川さんを男50人で囲むようなあの出来事が、クエストとして登録されているのだから。
(まぁ──クリアしたわけだし、報酬に罪はないよな!)
『URスキル【催眠】、【赤い糸】を獲得しました!』
「──はっ?」
【催眠】
対象1人の好感度を100にし、存在しない思い出を植え付けることが出来る。解除されることはない(使い切り)
【赤い糸】
対象1人と運命の赤い糸を結ぶことが出来る。対象とは最終的に結ばれることとなる(使い切り)
【催眠】……それに、【赤い糸】だと?
(このサブクエストでこれが出てきたってのは……本当にたまたまなのか?)
でも、もしこのスキルを使えば……
俺は、滝川さんと一緒に笑い合っている未来を想像する。
(──だったら、俺の答えは決まってる)
『URスキル【催眠】と【赤い糸】を合成してLRスキルを製造します!』
『はい いいえ』
「当然──“はい”だ!!」
【催眠】と【赤い糸】を使えば、きっと滝川さんとも付き合えるだろう。
だけど──
(そしたら、滝川さんの気持ちはどうなるんだ!)
好感度システムは指標だ。
クエストでスキルを手に入れて自分を磨くのも、ちょっとズルだが努力と一緒だ。
──だけど、これは違うだろ。
(自分を磨いて滝川さんに釣り合う男になる……それはいい。だけど、滝川さんの気持ちを無視して付き合うなんてのは違うだろ!!)
『LRスキル【ヴァンパイア】を獲得しました!』
「ハッ……見てるのか? クエスト」
俺は【アドレナリン】の気絶の予兆である頭痛を感じながら、宙に向かって笑って見せた。
「俺の気持ちを、舐めるな」
幻覚か、クエスト画面が一瞬、揺れた気がした。
──────────
遂に目を覚ました仁は、状況が分からない中、報酬を確認する。
なんの躊躇いもなく【催眠】【赤い糸】を捨てた仁は、気絶していた時のことを更に調べて……
次回、『新しい朝』
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