第55話 守りたいもの
「カッ……ハァッ……!」
「「「……!?」」」
『
『175cm』『58kg』
『力 SSS+(Limit!)(9up!)
俊敏 SS+(9up!)
知力 F(狂暴化)
耐久力 B(1up!)』
その一撃で、鉄パイプを持った男の体が飛んだ。
人間の限界に到達した
鉄パイプを持つ男は、真後ろに居たもう1人を巻き込み、共に背後の人垣の頭上を越えていった。
「……!」
「……!?」
見るまでもなく、即戦闘不能だった。
『サブクエストが開始しました!』
『サブクエスト:彼女を守れ』
『南部の配下を倒す 3/51』
『報酬──
「消えろッ!!」
俺は目の前に現れた画面を、力の限り振り払う。
ブオォン! と、風の音が威圧感を放った。
(クエストなんかじゃない……これは……!)
滝川さんを守らなきゃいけない。
そのために、滝川さんに手を出そうとするやつは、全員殺す……!
50人もの男に、滝川さんが囲まれてるんだ。
そんな状況を、“クエスト”だなんて──
「──ふざけるな!」
「うっ……!?」
その気迫に、南部の配下たちは思わず後ずさった。
「く……う、おォ……ウオオオオ!!」
僅かに残っていた理性が、徐々に侵食されていき……
神楽仁と南部の決戦に、火蓋が切られた。
〜〜〜〜〜
(嘘だろ……? 人が……飛んだ?)
瓶和は人垣の後ろで、飛んできた仲間を見て思考が停止する。
(そんな馬鹿な話が……)
「う、うわぁぁぁぁあ!!」
『三日月蹴りを使用します』
「グェッ……!」
続く仁の蹴り一発で、内蔵が破裂したか、バットを持った男は潰れたカエルのような声を上げ、気絶した。
「ウオオオオ!!」
「ひっ……!」
「な、なんだよ、あいつ……!」
「くっ……!」
しり込みする配下たちを見て、瓶和は悪態を
「お前ら!! 頭かち割れば化け物だって死ぬ! さっさと全員でかかれ!!」
「そ、そうだよな……」
「や、やってやる!!」
「「「うおおおおお!!」」」
『狐拳を使用します』
『正拳突きを使用します』
『狐拳を使用します』
『狐拳を使用します』
『アルマーダを使用します』
『三日月蹴りを使用します』
理性の飛んだ仁は、手当り次第にスキルを乱打する。
しかし、それで十分だった。
否、過剰だった。
「ゲボッ!」
「グェッ!」
「ウオオオ!!」
「ちっ……! 囲めぇ!!」
「「「おぉぉおお!!」」」
瓶和の号令に合わせ、元北部の配下達は一斉に飛び出す。
「ぐぇっ!」
「ハグゥッ!」
当然、数人が一撃で吹き飛ばされるが……
「ウ!?」
「はっ……!」
大勢で襲いかかられては、瓶和の言う通り仁も人間。
その内の1人が振り回した鉄パイプが、仁の頭に直撃した。
「あ、当たった!」
「や、やったぞ!!」
仁の頭が勢いよく引き下げられ、その後頭部から血を流しだす。
「ち、血が出てる!」
「や、やったぞ……これで……!?」
その一撃に、南部の配下たちは勝利したと頬を緩めて──
『三日月蹴りを使用します』
「グハァッ!?」
「な、なんで……ヴウェッ!」
【アドレナリン】
3分間アドレナリンを強制的に放出し、痛みを感じ無くする。
(一日に一度使用可能)
(持続時間終了後、反動をシャットアウトするために気絶します)
「い、一斉にかかれっ! 勝利はすぐそこだ!!」
仁は止まらない。
『狐拳を使用します』
『アルマーダを使用します』
「グハッ!」
「うえっ……!」
ゴンッ!
「よ、よっしゃ──ゲボッ!?」
何度鋼鉄で体を、頭を打たれようとも。
その一切合切を無視して、猛獣のように暴れ狂っている。
「ウオオオオオ!」
「ど、どうなってんだ!?」
「お、おかしいだろ!?」
その異常性に、思わず全員が動きを止める。
何度も何度も打っ叩いた頭からは、顔中を染め上げるほどに血が流れ出している。
その上、ドボドボと全身から血を流し床には染みまで作っているというのに、仁の動きに鈍りが見えない。
(どうなってやがる……!? あれだけ血を流せば、貧血は確実……今頃フラフラで気絶してなければおかしいのに……!)
【血液循環】
血液が循環し続け、血をいくら流しても貧血にならない。
「いや、それどころかあれなら死……」
「なっ……死……っ!?」
ふと、瓶和がこぼした言葉に配下たちが反応する。
「そ、そうだ……あ、あんなに血が……」
「俺……何やってるんだ……?」
「や、やばい……し、死……死ぬんじゃないか?」
「なっ……!」
その言葉に、落ち着いて仁を見た配下たちが後ずさる。
──人を殺してしまったのかもしれない。
それは、まだ高校生の彼らの心を揺るがすのには十分以上だった。
「ウオオオ!!」
「グゲッ──!!」
しかし。狂暴化で理性を飛ばした仁は止まらない。
「ゴフッ!」
「ガハッ……!」
「お……おいっ! そんなこと言ってる場合か!」
瓶和は生まれて初めて癇癪を起こす勢いで絶叫する。
「あいつはまだピンピンしてるじゃねぇか! 遠慮してたら死ぬのはこっちだぞ!!」
「くっ……もうなるようになりやがれ!!」
「う、うわぁぁぁぁあ!!」
『バックスピンキックを使用します』
「ぇ──っ!」
「う、うわっ!?」
「ひ、人が10mくらい吹っ飛んでるぞ!」
「あいつバケモンか!?」
実際には精々3メートルがいいとこだが……それを正しく理解出来る者はいなかった。
もはや空気は既に、仁に握られていた。
『狐拳を使用します』
「ゴハッ!」
例え50人に囲まれようとも。
その怒りは、止められない。
「ウオオオオオ!!」
「ひ、ひいっ……!」
「う、うわあああ……!」
──それから。
無為に肉を撃つような音が夜に鳴り響き……
「ひ──ひぃっ!」
やがて、夜の街に静寂が取り戻された。
「グルル……」
「か、神楽……! ま、待て! 話をしよう!」
一人残された瓶和は、まるで殺人事件でも起きたかの如き惨状に腰を抜かす。
しかし、着いた手はアスファルトの地面ではなく……深い、血溜まりだった。
「ひ、ひいいいい!!」
瓶和は話し合う気が無さそうな仁の目を見て、必死に後ずさる。
しかし、倒れた南部の仲間たちが大地に散らばっており、腰が抜けた今、上手く身動きがとれない。
「ま、待て、神楽ッ!!」
仁の狂眸が、瓶和を射抜く。
「取引しよう! そ、そうだ、俺の話を──」
「──ウオオ!!」
『正拳突きを使用します』
「ふがっ……!」
北部を裏切った卑劣な参謀であり、今回の事件を企てた黒幕。
例え、今の仁に理性が無くとも、狂暴化する前から既に分かりきっていた。
喧嘩に関係ない、滝川さんに手を出した存在──
そんな存在を、仁が許すわけなかった。
今の仁なら、余計に。
「カッ……グハッ……!」
「……」
「ヒッ……もうやめ──」
グシャッ!
『サブクエストをクリアしました!』
『メインクエストをクリアしました!』
『メインクエストをクリアしました!』
『メインクエストをクリアしました!』
「……」
少しの間を置いて、メッセージが流れ出す。
しかし、【狂暴化】を使った仁の目にそれは映らず……
「……!」
その瞳が、
「ウォォ!」
理性なき拳が、彼女にも振り上げられて──
「……神楽、くん?」
「──!!」
俺は、意識を取り戻した。
『──狂暴化が解除されました!』
「……はぁっ、はぁっ、はぁっ」
呼吸が荒い。
瞳孔が勝手に開いて、視界も半分ない。
「はっ、はっ、はっ、はっ……」
【アドレナリン】
…………
(持続時間終了後、反動をシャットアウトするために気絶します)
「ぐ……!」
アドレナリンの時間切れで、そうでなくとも気絶しそうなのだが、強制的に気絶へと誘われる。
「滝、川……さん」
「……っ」
俺はぼやける視界に、目の前で不安げな表情を浮かべる滝川さんを捉えて──
「無事で……良かっ、た──」
視界が暗転する。
「……神楽くん? 神楽くんっ!!」
その光景を最後に、俺は意識を失った。
〜〜〜〜〜
「仁……っ!」
私はしばし呆然としてしまったが、慌てて仁を追いかける。
『楓! ついてくるな!!』
(仁がどういう意図でそう言ったのかは分からない……)
一人で助けに行くという意味だけかもしれないし、もしかしたら私がこっちに必要な理由があるかもしれない。
だけど、そのどっちであろうと、私に今できるのはうちのNo.1である仁を信じて戦うことだけだ。
(だけど……)
ここから10km以上離れたところに、どうやって行くつもりなのだろう?
(本当に別の策を考えるべきなのに……やっぱり、感情的になっていたわけ?)
仁があそこまで怒っているところは、見たことがない。
恐らく、今まで名前はぼかされていたけど……滝川さんという子が、仁の好きな人なのだろう。
「はぁ〜……ったく、そりゃ我慢しろなんて言えないよねぇ〜……」
(だけど……それでも、言わなきゃ)
東部のNo.3として……“東部のNo.1である仁”には、戻ってきてもらって現実的に策を練らなきゃならない。
(私の足なら、追いつける……!)
私は、全力で仁が曲がった角を曲がって──
「……え?」
路地を曲がった先は、かなり長い直線通路だ。
500メートル程は曲がり角がなく、視界を遮るものがない。
(え……? いくらうちでも、500メートルを僅か数秒で走ることなんて出来るわけない……)
それに、仁が角を曲がる前、仁と楓の距離は10メートルも無かった。
後ろ姿が見えないというのは、ありえない。
「一体……」
しかし、仁の姿は、既にどこにもなかった。
──────────
【狂暴化】のパワーで50人を一掃した仁。
一方、その頃南部の涼人達は……!?
次回、『才能開花・凛』
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