第53話 激昂
『制限時間が近づいています!』
『メインクエスト:南部の狂踊・窮鼠猫を噛む』
『1.水霧涼人と南部の領土を奪う 8/11』
『2.???』
『3.???』
『4.???』
『条件1報酬:SSRスキル』
『制限時間:10時間』
俺の視界にクエスト画面が現れ、激しく明滅を始めた。
「やっべ……忘れてた!」
文化祭準備とか今日の文化祭で制限時間のこと忘れてた!
『メインクエストに失敗又は辞退すると全ての能力値とスキルは永久に失われます』
時間が迫ると警告が鳴るんだな。初めて知ったが助かった。
「じゃあ、さっさと攻めないとな……」
10時間後って言ったら……明日の朝3時までか?
クエスト出現時に制限時間100時間だったからか微妙だな……
「とりあえず、連絡だな」
今は5時だが、相手が実質支配しているクラブだったり溜まり場にいるならともかく、大勢で、それも往来や学校へ喧嘩しに行くのをみられたら通報されかねない。
だからいつも、動くのは7時以降なのだ。
しかし今はクエストの制限時間もあるし、悠長なことは言ってられない。
『今日6時から南部を落とすぞ』既読92
少しでも早く、決着をつけないと──!
〜〜〜〜〜
「仁! 本当に今日いきなり決着つけるの!?」
「おう、とりあえずなんで楓がいる?」
楓は南部に鉄パイプで腕骨折させられたはずなんだが……?
「何それ、うちのこと仲間はずれにする気?」
「いや、普通に療養だろ。何当たり前のように来てんだ!」
「大丈夫! ギプスはまだ外せないけど」
「帰れ!?」
なんでそこまでして喧嘩に参加したがるんだ!?
喧嘩なんてなければないほどいいだろ!?
「……うちがやられた分は、うちがやり返すべきっしょ」
そんな俺の言葉に、楓は真剣な顔で呟いた。
「……!」
「せめてうちにこんなことしてきた奴くらい、頭かち割ってやらなきゃ気が済まないっての!」
「や、んなこと言ったってお前……!」
「仁先輩」
楓の後ろから、一緒に来ていた凛が一歩、進みでる。
「楓ちゃんの復讐……手伝ってあげてくれませんか?」
「凛……あんた……!」
「……分かった」
「!!」
突然の凛の言葉に頬を朱に染めた楓を見て、俺は渋々頷いた。
「仁……ありがと!」
「ああ、でもそいつを見つけるまでは絶対戦ったりするなよ? ただでさえ大怪我してんだから、制圧戦の参加は無しだ」
「ええ〜」
そりゃそうだ。
右腕折れてんのに喧嘩に行けなんて言うわけないだろ。
(楓なら足技メインだし、確かに不意打ちさえされなきゃ復讐は簡単だろう)
だから、復讐戦だけは許可するけど……
南部制圧戦の戦力が足りないのは確かだ。
(リカバリーを使ったとしても体力が足りないだろう……くそっ、基礎体力の低さがこんな時に……っ!)
なんならステータス増加スキルを涼人に使うか?
凛は楓のボディーガードも兼ねているから、制圧戦には参加してくれるけど進行スピードは著しく落ちるだろう。
「うーん……」
「あっヘッド!」
俺が唸ったその時、配下の1人が手を挙げた。
「ん?」
「白井さん、いつも6時に風呂入ってるっす!」
「風呂かよ!!」
そういや、珀の姿が見えなかったな。
既読も1人だけつけてなかったし……
(ま、まぁ、いつもより早い時間だもんな)
ちょっとそれは考えてなかったけど!
「まぁいいや……行くぞ!」
「「「おぉぉぉぉ!!!!」」」
紆余曲折あったけど……出発だ。
北区制覇最後のクエストに……!
『メインクエスト:南部の狂踊・窮鼠猫を噛む』
『1.水霧涼人と南部の領土を奪う 8/11』
『2.???』
『3.???』
『4.???』
『条件1報酬:SSRスキル』
〜〜〜〜〜
「妙だな……」
「ああ……」
「グハッ!」
俺は涼人と、顔を見合わせた。
『メインクエスト:南部の狂踊・窮鼠猫を噛む』
『1.水霧涼人と南部の領土を奪う 10/11』
あと領地は1つ。
これだけ見ればいつも通りなのだが……
「なんで、本拠地に清水が居なかったんだ?」
俺たちが今占領したのは梅陰高校……本来、清水が本拠地としてきた場所だ。
「となると残ったのは最南西の端っこの高校……」
「
(これは面倒なことになったぞ……)
面倒というのは、単純に距離の問題だ。
俺たちの通う東部……まぁ本当は北東の角である春蘭高校からは直線距離で10kmほどある。
伊達の計らいで100人分……4人1台で25台もタクシーを出してもらっているが、それでもかなり時間がかかる。
『制限時間:6時間』
もう9時だ。
倒した相手も楓、凛チーム合わせて報告だと40人程なので、半分以上が立てこもっていることになる。
『楓、凛! 本拠地の占拠に成功したが人数が少なすぎる! おそらく1番距離が遠い尾竺高校に立て篭りやがった!』
『本当!? まじめんどいことばっかりしやがって……!』
『一応、珀にも知らせといてくれ! 現地集合にするぞ! 急げ!』
『はーい(スタンプ)』
俺は凛のスマホに連絡して、タクシーを停めといてもらった場所へ駆け出した。
(間に合うか……?)
もし散り散りに逃げ続けられたりしたら、時間が足りないかもしれない。
(まぁ、全部の学校を奪えばとりあえず時間はリセットされるから……)
「涼人! とりあえず、急ぐぞ!」
「おう!」
それと、消費スキル……いつ使おうか?
消費スキル
SR:【耐久力の解放】【俊敏の解放】【力の解放】
〜〜〜〜〜
「……! 来たか、楓!」
「おっ、仁! 間に合った感じ?」
「おう! 早速攻めるぞ!」
俺達が尾竺高校についてすぐ、楓と凛が合流し、続々と配下たちも集まってきている。
「恐らく、中には50人以上が集まってるはず……」
「何か罠とかあるかもしれませんし、油断出来ませんね」
「いや罠って……」
戦国時代でもあるまいし……
まぁでも、確かに何か仕掛けているかもしれないのはそうだな。
……まぁせいぜい武器を揃えてたり、角に隠れてたりしてたりとか?
「よし! 敵がどこに隠れているか分からない。注意して中を探すぞ!」
俺の言葉に、皆が頷いた……その時。
「──その必要はない」
「……!?」
その言葉と共に、尾竺高校の門が開いて、中から20人程の南部の配下たちが現れた。
(おい、あれって……)
俺はそのうちの1人に【観察眼】を使って、混乱する。
『
『179cm』『72kg』
『力 B−
俊敏 C
知力 D
耐久力 C+』
南部のNo.2だ。
他にも、No.5とNo.7……楓を骨折させたNo.8の3人がいる。
「おい、仁……あいつら、どうして出てきたんだ?」
「さぁ……」
「くく……やはりここまでたどり着いたか、神楽」
No.2、久永はそう言って、ニヤリと笑った。
「随分余裕そうだな? その程度の能力値で俺に勝てるとでも?」
「能力値……? あぁ、まぁ神楽。お前に勝てるとは思ってないさ」
俺の言葉を受けても、久永は薄い笑みを消さない。
「は? だったらなに笑って──」
「まさか丁度、間に合うなんてな」
その言葉に、俺はゾワリと背筋が凍る感覚を覚えた。
「間に合う……? 何言ってんのあんた、逃げるのにはもう遅いよ!」
「そうです。ここであなた達はもう終わり……仁先輩が北区を制覇します!」
「は、はは……そうかもなぁ。少なくとも、俺たちは終わりだ」
楓と凛が構えをとっても、武器を持った20人はニヤニヤしたまま余裕を崩さない。
「は? だったら何笑って──」
「でも、彼女はどうかな?」
そう言って久永は、ポケットからスマホを取り出した。
「なに……?」
(彼女……?)
唐突に、嫌な予感がした。
「今、ボスと50人の武器を持った仲間たちが、彼女のことを取り囲んでる。そう──ここから10km離れた、東部の端でな」
「……なに?」
「どういうこと? 彼女……って、うちらじゃないよね?」
「仁先輩?」
凛の言葉が別の圧を放っているような気がしたが、今はそれどころじゃない。
(彼女なんていないが……デートの時とかに見られていた可能性はある……!)
それで勘違いした……ってことか?
デートクエストの時はそんなこと気にしてなかったから……!
でも問題は……
(……その彼女、誰だ?)
凛? 今いるよな。
ってことは詩織?
詩織はお嬢様だし、こんな夜遅くに出歩いてないだろ。
それに、あいつらと遭遇しても普段はもっといるとかいうリオン達ボディーガードが絶対に守れる。
手を出そうとも思えないだろう。
──なら?
今や異常なまでに、違和感は膨れ上がっていた。
(いや、でも……まさか……)
こんな時間に……そんなわけ……!
「隠したって無駄だぜ。たまたま駅に居合わせたやつが写真を撮ってたからな」
駅。
駅まで一緒だったデートは、一つしかない。
(──滝川さんだッ!!)
『滝川瑞樹が戦闘を開始しました!×50』
俺の中の、何かが切れた気がした。
『──神楽仁が興奮状態に突入しました!』
──────────
予想外の南部の卑劣な策に激昂した仁は、【アジテーション】を使用していないのに極度の興奮状態に突入する……!
仁は今までのステータスとスキルを駆使して、滝川さんを救えるのか──!?
次回、『【狂暴化】』
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