第52話 急変
文化祭当日。
『じゃ、シフトだから11:30から集合ね!』
『一緒に三年C組のうどん食べよ!』
『うん』
私はいつものメンバーのグループ……同じクラスの
文化祭はいわゆるいつメン三人で回ろうと約束していたのだが、私のシフトが午後なのに対して二人は午前、それも初っ端になってしまったのだ。
(1人で回るか……どうしよっかな)
多分、言ったら綾香とか駆けつけて来るんだろうけど……クラブでも毎日ベッタリなのに、今日までもなんて……ね?
お姉様お姉様って呼ばれるのも疲れるし……
「滝川さん?」
「……ん?」
その時。
不意にかけられた爽やかな声に、振り返る。
(この人……)
「佐野君?」
「あっ、そう! おはよ、一人……?」
それと……
「そうだけど」
「! よかったら、一緒にまわらない?」
「──!!」
「やば! 佐野君に誘われてる!」
「えぇ〜!? いいなぁ〜」
「うそ! なんであの子が!」
女子の間で、1番人気と言っても差し支えない男子だ。
『そうだ! 佐野くんとかどうなの?』
『佐野君?』
『そうそう! 瑞樹実際綺麗だしさ、佐野くんの隣に居ても違和感無いよ!』
『むしろお似合いじゃない? サッカー部の次期キャプテンと剣道部次期キャプテン!』
『まぁ、問題は消極的な瑞樹に向こうから来てくれるかなんだけど……』
『私達も1回くらい、誘われてみたいよね〜』
果穂と美奈から聞いていた通り、周りの女子たちが一斉に騒がしくなった。
実際はほぼヒソヒソ声だが、廊下中と言っていほどに反応されたため、居心地が悪い。
そんな中、私はふと思った。
(……わざと断れないようにしてる?)
たまたまかもしれないけど……もしそうなら……
(……嫌なタイプ)
「……約束あるから、11時までなら」
私は時計を見て……40分だけ取れると伝える。
40分なら並ぶ時間も入れて、回れて二店だろう。
約束は11:30からだが、正直に言うつもりはない。
それでも断ったりしなかったのは、周りの目があるからというのもあるけど……
『ね! せっかくなんだから、1回くらい話してみれば?』
『すっごい優しくて気遣いも出来るって評判いいんだよ?』
『もし機会があったら、絶対逃しちゃだめ! 刺されるよっ?』
(……まぁ、皆そんなにいいって言うから、試してみてもいいかも)
「ううん! 全然! 滝川さんの時間が貰えて嬉しいよ!」
──だけど何故か。
私は、この人を好きにはなれない気がした。
〜〜〜〜〜
しばらくして。
「ここが、あの型抜きのクラスか……?」
「……そのはず」
私たちはボウリングをした後、紹介ビデオで人気1位を取って行列の出来ていた型抜きに来ていた。
(魔王と勇者? がコンセプトの型抜き……正直謎だけど)
私は看板を見て内容をザッと理解する。
「よく来たな! 勇者達よ! 我が試練に挑戦する……か……?」
私の耳に、綺麗な女性の声が聞こえた。
だけど、その声がしりすぼみになったのを見て顔を上げる。
「……?」
(あれ……)
魔王様と呼ばれているコスプレをした女性を見て、私は何か違和感を感じた。
この学校で見た事のないほどに可愛い女子。
化粧をしているだろうから、それ自体はおかしくもないが……どこかで見た事がある気がする。
それも、割と最近……
「んー……じゃあせっかくだし魔王級にしてみる? や、でもクリア出来ないと嫌だし中級くらいでいっか」
佐野くんのその声に、私は意識を取り戻す。
「……別に、なんでも」
「じゃ、中級二つで!」
型抜きをしてる最中も、魔王の衣装をした女子に目線が集中している。
かくいう佐野くんも、数度チラ見しては何か考えていた。
恐らく、あんな子がA組にいたか考えているのだろう。
(……)
正直私も可愛いと思うけど……分かりやすくチラ見しすぎじゃ……?
「……神楽君なら、よそ見もしなかったはず」
それは、廊下を歩いていたり型抜きをしている最中も……私に対しても、だ。
「よし! 出来た! チェキ撮りに行こっか!」
「うん」
つい呟いてしまった言葉を振り払うかのように頭を降って、私は魔王様を挟んで佐野くんと写真を撮る。
その時。
「あ……今行く!」
「……!」
考え事でもしていたのか……不意にミスしたのだろうか?
魔王様の地声らしき声が聞こえた。
それは距離と喧騒もあって上手く聞き取れなかったが……
(この声……まさか?)
そういえば、神楽くんのクラスって、確か……?
ビデオの最後に聞こえた低音ボイス。
多分登場してなかった神楽くんと、クラスの扉に書かれたAの文字。
(……神楽くん?)
私は、想像以上に女装が似合っている神楽くんを見て驚き、笑った。
『好感度43⤴︎︎︎』
〜〜〜〜〜
「ここが、あの型抜きのクラスか……?」
「……そのはず」
教室に入ってきたのは、滝川さんと一人の男子生徒だった。
(誰だ……こいつ?)
と俺は一瞬考えて、思い出す。
(あ……こいつ、佐野か!)
俺や涼人、滝川さんは中学からの内部進学だが、当然、高校から入学してきた生徒もたくさんいる。
こいつはそのうちの一人で、この学年では唯一のスポーツ推薦で入ってきた奴だ。
成績優秀、容姿端麗であり、一年の頃からサッカー部のレギュラとして活躍し、三年生が夏休みで引退した今堂々キャプテンの座を掴み取った、どこかのラノベの主人公みたいな奴だ。
また、女子たちの憧れであり、学校一のたらし野郎だ。
実際、嫉妬で佐野を刺そうとした女子が出て、退学させられたのは記憶に新しい。
「もしかして……?」
横で僧侶服の女子が二人に説明しているのを聞きながら、俺は思わず呟いた。
「んー……じゃあせっかくだし魔王級にしてみる? や、でもクリア出来ないと嫌だし中級くらいでいっか」
「別に、なんでも」
「はい! それでは、好きな席へどうぞ! いってらっしゃい!」
だが、俺の不安とは裏腹に、二人は特段仲が良いわけではなさそうだ。
佐野が何度も話しかけているが、滝川さんは通常通り淡々と型抜きをしながら返している。
どちらかといえば、佐野がアピール中と言ったところか。
(でも、これは……)
──うかうかしていられない。
俺がクエストの力を使ってまで、あれほど頑張って上げた好感度。
一緒に文化祭を回るという、その効果に準ずる成果を佐野は出しているんだ。
むしろ、現時点じゃ俺の方が負けているとも言える。
(……最悪だな、俺)
滝川さんは俺のものじゃない……どころか、誰のものでもない。
なのに、どうしてもイラッと、嫉妬してしまう。
(……もしかしたら俺、独占欲が高いのか?)
もしそうなら、恋愛にはかなり不向きな性格なんだろうが……
いや、これくらい普通だよな……?
違うか……?
(……とにかく! 想定よりも急いで好感度をあげなきゃな)
って言っても、ガンガン会いに行ったって逆効果だから、もどかしいところだ……
「かぐ……魔王様ー! チェキのご依頼でーす!」
「あ……今行く!!」
(まぁ……とりあえず、今は忘れよう……うん)
結局、滝川さん達とチェキを撮って、午前の俺のシフトは終わった。
〜〜〜〜〜
「みんな、お疲れー!」
「「「おぉ〜!!」」」
夕方。
客も全員帰って、俺たちのクラスでは歓声が巻き起こっていた。
「はぁ〜! 疲れた〜!」
「でも、頑張った甲斐あったね! まさか1位取れるなんて!」
そう、俺たちのクラスは最優秀出し物賞を貰っていた。
まぁよくある、来店者数で競うアレだ。
賞状も貰った。
「ほら、1位が取れたのも神楽くんのおかげでしょ! ずっとシフト入ってくれてたし!」
「や、それはお前が勝手に変えたんだろ!?」
「はいはい、カメラ見て、にっこり笑って〜!」
飯塚さんの言葉にツッコミながら、上機嫌な先生に言われて集合写真の真ん中に陣取る。
因みに、化粧落とす時間とかないし、衣装も全然着たままだ。
(まさか俺が集合写真で賞状とか持つ立ち位置になるなんて……夢にも思わなかったな)
いつかはここに立ちたいなんて、中学生の頃は思ってたな……
まぁ、その初めてが女装でいいのかって話なんだが……
「はい、チーズ!」
「「「いぇーい!!」」」
『サブクエストをクリアしました!』
『サブクエスト:ささやかな過去の夢』
『賞状を持って集合写真を撮る 1/1』
『SRスキル【アイソレーション】を獲得しました!』
【アイソレーション】
体の四肢、頭、各指といった部位を独立させることが出来る。
なんだこれ?
「なんだこれ?」
「ん?」
あまりにも分かりづらくてつい声に出た。
隣のクラスメイトになんでもないと言って、俺はゆっくり文字を見返してみた。
(うーん……なんか分からんけどかっこいい名前だからいいや!)
多分、SRだし結構使えるだろ!
──その時。
『警告!!』
「……!?」
『制限時間が近づいています!』
『メインクエスト:南部の狂踊・窮鼠猫を噛む』
『1.水霧涼人と南部の領土を奪う 8/11』
『2.???』
『3.???』
『4.???』
『条件1報酬:SSRスキル』
『制限時間:10時間』
俺の前で、クエストウィンドウが明滅を始めた。
──────────
文化祭の1件を経て、より一層決意を固めた仁。
そんな仁の前に現れたクエスト画面には、制限時間間際のメッセージが……!?
次回、『激昂』
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