第51話 文化祭


 文化祭前日。


「はぁ……」


「楽しみだね〜、神楽くん! シシシ〜」


「ああ。あれは凄かったよな、仁」


 俺はHRホームルームの時間、いじってくる飯塚さんと涼人に向かって、ため息を吐いた。


「いやでも、楽しみだよな」

「あれなら絶対1位取れるだろ!」

「とったらまじで面白いけどな!」


「お前ら俺で遊んでんだろ!?」


 俺の反論に、クラスの皆は笑いだした。


(これ、俺が番長ってこと忘れてんだろ!?)


 俺が鮫島とかだったら、こんな雰囲気にはならなかったはずだ。


 ……や、こっちの方が俺の望んでた環境だけどな?


「くそっ……他人事だと思って……」


『サブクエスト:私が主人公!』

『宣伝ビデオで最も長く映る 0/1』

『報酬:SSRスキル』


 これのおかげで、自分からやるとは言ったものの……まさかするとは予想外だっての!


「はぁ……」


 つかこれ、いつ貰えんだ? ビデオが終わったらか?


『えーただいま、マイクのテスト中。ただいま、マイクのテスト中。ただいま……』


「おっ! そろそろか?」


「ほら、始まるよ!」


「二年A組だから……二年の部最初じゃん!」


 校内放送が始まり、ついに出し物の紹介ビデオが流れようとしていた。


「…………」


(これから始まるのを、俺はどんな気持ちで見ればいいんだ?)


 俺は、ニヤニヤとしながらこちらをチラチラ見てくるクラスメイトを見て、ため息を吐いた。



〜〜〜〜〜



『ついに、ここまでたどり着いたぞ』


『うん……ここに魔王が……』


 暗い廊下で、一組の男女が拳を握りしめた。


『──よく来たな!!』


『なっ……この声は、魔王!?』


『勇者達よ! 最後の試練を乗り越えて我を倒す勇気があるのならば、その門を潜るといい!』


 威厳に溢れた女性の声に、男女は顔を見合せ、頷いた。


『行こう!』


『うん!』


 ここで、画面がブラックアウトし“型抜きの試練”の文字が浮かび上がる。


『くっ……また失敗した!』


『出来る……私達なら、出来るはずなのに……!』


『あと少し……あと少しで……!』


『ああっ!!』


 二人の手元の型抜きクッキーが砕け散る。


『フハハハハ! 残念だったな!』


 そこでカメラの視点が切り替わり……足元から次第に、“魔王”の姿が映し出された。


 淵に金のラインが入った漆黒のロングコートを羽織り、赤のレースが付いた黒のスキニーパンツ。

 白のフリルブラウスには深紅のネクタイが取り付けられている。


 そして、頭の上には、2本の大きなカチューシャがあった。


『どうやら我が試練を突破出来なかったようだな!』


『くっ! 次こそは……!』


 勇者のその言葉を最後に、画面がクラス全員の映る集合に切り替わった。


 勇者のような服装や、僧侶や魔法使いのようなローブを着ている皆が、声を揃えて締めの挨拶をする。


『皆はクリアできるかな!?』


『『『二年A組、型抜き魔王!』』』


 刹那、画面が教卓の上で足を組む“魔王”のアップに切り替わった。


『さあ、我を楽しませて見よ!』


 ふと、魔王が目を瞑ったかと思うと……ガッ! と歯を剥いて、その目を開ける。


『──出来るものならな』


 魔王女性の声は、低く、男性の声へと変わっていた。



〜〜〜〜〜


「「「わああああああああ!!」」」


「あぁぁぁぁぁ」


 教室が拍手に包まれる。


 学生の作ったビデオだからスムーズに進行、とはいかないが、他の学年やクラスと比べても遜色ない出来のビデオだった。


 で、多分もう分かってるとは思うが、俺が恥ずかしさに顔を伏せてる理由は……魔王だったからだ。俺の役。


「凄い、良かったじゃん! 神楽君!」


「そうかよ!?」


『サブクエスト:私が主人公!』

『宣伝ビデオで最も長く映る 1/1』

『SSRスキル【ティアドロップ】を獲得しました!』


【ティアドロップ】

バスケのティアドロップを使用出来る。


 ああそう! いいスキルだな!


「ぬあああああああ……」


 恥ずかしすぎる……


 これが校内にばらまかれているだと……?


(思ってた数倍は恥ずかしいんだが!?)


 動画の“魔王”は化粧もカツラもしてたし、パッと見で俺っては全然分からなそうだけど、消去法的に俺しかいねぇんだよなぁ……


 滝川さんにも見られてると思うと、恥ずかしくて堪らない。


「はぁぁ…………」


 俺は憂鬱な気分で、明日の文化祭を迎えるのだった。



〜〜〜〜〜



──文化祭当日。


「よく来たな! 新たな勇者達よ! 我が試練に挑戦するか!?」


「うん! 魔王のお姉ちゃん!」

「絶対倒してやるぞ! まおう!」


 俺たちのクラスは、主に小さな子供達に人気だった。


(姉ちゃん……)


 うちの学校は中高一貫校であり私学であることから、近隣の住人や生徒の家族に招待状を配っており、外部来訪者もそこそこいる。


 恐らく、この子達は近くの小学生だろう。


 化粧までさせられて、女子にしか見えないようだ。


(ローブとか全然男物なんだけど……まぁコスプレ衣装だし違いなんか分からないか)


「はーい、ではこちらをご覧ください! 難易度は初級、中級、上級、魔王級の4つがありまして〜」


「型抜きに成功した方にはチェキチケットを渡しておりまーす!」


「失敗しちゃった人も2回目はチェキ撮れるから、また来てね!」


「「はい!」」


 そばに居るゲームの僧侶みたいな格好をしたクラスの女子が、看板を持って説明しているのを腕組みして眺める。


「やーやー、魔王さん、人気者だね〜」


「はあ……まあ……?」


 俺の仕事は入口でこうして演技するのと、型抜きが終わった人たちとお願いされた時一緒にチェキを撮ることだ。


 それ以外はこうして手持ち無沙汰にしているところ、事の発端である飯塚さんが話しかけてきた。


「ほら見て、明らかに神楽君目当ての人もチラホラ……あっ目逸らされた!」


「いや……俺男なんだけどな?」


 確かに、飯塚さんが小さく指さした先にいる数人の男子は、俺が視線を向けるとサッと目を逸らした。


(ここまで男だって気づかれないことあるかよ?)


 声は【女声】スキルと【高音】スキル、【演技】スキルまで混ぜて喋ってるからまぁ分かるが……


(例えば紹介ムービーの最後に放った地声とかもあって誰かしら男だって分かりそうなもんだけどな……)


 男子の地声と、女子の低い声は結構違う。


 ……の割には、チラチラ見てくる男子が多い。


(男にモテても嬉しくないっつーの……)


「じゃ、私シフト終わったからまたね! あ、仁君メインみたいなもんだから、シフト長めに入れといたから!」


「はっ!? えぇ!? ちょ……!」


「魔王様ー! チェキのご依頼でーす!」


 そう言って鼻歌交じりに教室を出ていった飯塚さんに問う暇もなく、教室後ろから呼ばれてそちらへ向かう。


「じゃあかぐ……魔王様、そこに立ってもらって!」


「はぁ……」


「「イェーイ!!」」


 うちの制服を着た男女組が、俺の両サイドに並んでピースする。


「はい、チーズ!!」


 カシャッ!!


「「ありがとうございましたー!」」


「う、うぬ! 我は何時でもそなたらの挑戦を待っておるぞ!」


(リア充め……ぐぬぬ……)


 俺は視界の端で、好感度ウィンドウを展開する。


『滝川瑞樹 42/100 極難

 三田楓  38/100 難

 世津円凛 100/100 易

 兵藤詩織 100/100 易』


「42……」


(滝川さんに一緒に回ろうって言うのは……まだ無理か?)


 滝川さんの難易度は『極難』と書かれているだけあって、中々上がらない。


 『難』の楓が何もしなくても2上がってるのに対し、滝川さんは何かイベントでもないと上がらないようなレベルだ。


(……まぁ、焦ることもないか)


 好感度なんてシステムが現れて……

 クエストの力を借りれば、俺にだって可能性が出てきたんだ。


(この調子でコツコツ進んで、いつかは──!)


 俺は新たに教室の扉から入ってきた二人組に向かって、定型文テンプレートで語りかける。


「よく来たな! 勇者達よ! 我が試練に挑戦する……か……?」


 その途中で、俺は目を見開いた。


「ここが、あの型抜きクラスか……?」


「……そのはず」


 そこに居たのは、滝川さんと、制服を着た一人の男子だった。






──────────


文化祭が始まった仁。

コスプレをして接客していた所に現れた滝川さんと、その隣の男の正体は……!?


次回、『急変』


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