第50話 嫉妬刈剣


「──あなた、私と勝負しなさい!!」


「……は?」


 唐突に、綾香と呼ばれた女子が俺を指さして宣言した。


「私達は残り少ない大会に向けて真・剣・に! 練習を重ねています! あなたがそんな今の時期から入部するとなれば……その実力を証明する義務があるのでは!」


「いやちょっと待って、そんなの聞いてないんだけど?」


 ……まぁ、大体言いたいことは分かるよ?


 多分、お姉様とか呼んじゃってるとこから、滝川さんに近づく俺が気に食わないのだろう。


『サブクエストが開始しました!』


「私と打ち合いをして、1本取ることが出来たら! 入部を認めてあげます!」


「えぇ……」


「あー……ごめん……いつもはこんな子じゃないんだけど……」


 俺の躊躇いの声に、滝川さんがコソッと呟いた。


「ああうん、いいけど……」


「〜!!?? くっ……覚悟してくださいね!!」


 それを見た綾香が、歯ぎしりして勢いよく竹刀を抜く。


(まぁ、俺がため息を漏らしたのは挑戦状を突きつけられたからじゃないからな)


 俺は睨みつける綾香を他所よそに、目の前のウィンドウを確認する。


『サブクエスト:嫉妬刈剣』

『剣道で綾香から1本取る 0/1』

『報酬:SRスキル』


「何してるんですか!? 早く構えてください!」


「あーいや、防具とか着たことないからどうしたらいいのか分かんねぇ」


「「!?」」


 俺の言葉に、滝川さんと綾香が目を見開いた。


「あ、あー! いや、前に習ってた時は子供教室だったから、防具頭しか付けなかったんだよ!」


「「……」」


 俺の言い訳に、滝川さんは半目になる。


 可愛い……じゃなくて!


「ふっ……防具の付け方すら分からない癖に、今から本気で入部するつもりなんですか? どうせお姉様目当てでしょう! 舐めないでください!」


「はぁ……まぁ、舐めてるわけじゃねぇよ」


 ヅケヅケと言う綾香に、俺は薄く口角を釣り上げて宣言した。


「ただ──お前くらいには、勝てるってね」


「なっ……!!」


なし 綾香あやか

『151cm』『47kg』

『力   C

 俊敏  C+

 知力  B−

 耐久力 D』


 俺の言葉に、綾香はワナワナと拳を震わせると、フンッ! と息を吐いてラインテープがある場所まで移動した。


「……後悔させてあげますよ、先輩」


「神楽くん……あの子、あれでも一応副部長だから、油断したらやられるかも」


「えっ!? 副部長なの!?」


 そんなの今初めて聞いたんだが!?


(だ、大丈夫……【出鼻】×【返し胴】さえあれば、何とかなるはず……!)


「……じゃあ、私が審判するから。綾香もいい?」


「はい! しっかりと見ててくださいね! お姉様!」


(この男を叩き潰して、お姉様から離れさせてやる! そしたらお姉様は私だけのもの……!)


 綾香はニヤニヤと笑いを抑えられず、口をもによもにょと動かす。


「じゃあ……試合開始!」


「やぁっ!!」


(構えもズレてる! 持ち方も違う! 明らかに初心者……った!)


 試合開始の号令と共に、綾香は鋭く面に竹刀を振り下ろす。


 その一撃で、勝敗は決した──


『出鼻を使用します』


「……!?」


 かに思えた。


 強烈な綾香の振り下ろしを、俺が軽く──まるでホコリでも払うかのように動かした竹刀の先が、カツンという音を鳴らして弾いたのだ。


(なっ……出鼻技!?)


 軽く、それも初心者だと思っていた相手が最難関技の出鼻技を合わせてきたのを見て、綾香は驚愕に目を見開く。


 しかし、そんな悠長な暇は無かった。


『返し胴を使用します』


「ウッ……!?」


 流れるように、まるで達人の如くがれた竹刀が、綾香に返し胴を打ち込んだのだ。


「……!」


「そこまで! 神楽くんの勝ち!」


『サブクエストをクリアしました!』


『サブクエスト:嫉妬刈剣』

『剣道で綾香から1本取る 1/1』

『SRスキル【力の解放】を獲得しました!』


 お……いいな! ステータス強化スキルだ!


「なっ……なっ……!!」


「どう? 神楽くん……チームの助けになりそうでしょ?」


 滝川さんがそう言うが、それは余計に綾香を煽る形になってしまった。


「く、くぅ……!! で、でも!! 先輩、声出しも残心もしてませんでしたよね!!」


「え?」


 なんだそれ……?


「えっと、『胴!』とか言わないと点数にならないって、ルールあるんだけど……知らない?」


「えっ!?」


 滝川さんが説明してくれるが、当然昔習ってたなんて嘘な俺は全く知らなかった。


「それと、残心ないと加算されない……最初に習わなかった?」


「う……ちょ、ちょっと覚えてなかったな……」


「無効です無効!! こんなの無効です!!」


 綾香は目尻に涙を浮かばせると、子供のように駄々をこね出した。


 その身長と相まって、本当に小学生みたいに見えてくる。


「もう1回です!! 次は負けません!!」


「えぇ〜……」


「この卑怯者! 鬼畜! 変態!」


「や、ちょ、言い過ぎだろ……」


 他の部員が何事かとこっち見てるって!


「え、あれ神楽……!?」

「なんでここに……ってまさか、うちの部活にはいるの!?」

「もしかして……滝川さんを追って?」

「あいつ梨ちゃんに何したんだ……?」


「あ、あぁ〜もう、分かったって!」


 入部初日から印象悪くなるわけにはいかない。

 俺は慌てて綾香の要求を受け入れた。


「……でも、変わらないと思うぞ?」


「な──〜!?」


 俺の呟きに、綾香はワナワナと拳を震わせ……ダンッ! と無言で催促するように足を踏み鳴らした。


「あ〜……」


「えっと、じゃあもう1回……試合開始!!」


 俺が遠慮がちにコートに上がると、次は部活の皆が見ている中試合が始まった。


「てやぁぁぁぁ!!」


(次は絶対に油断しない!!)


 試合開始と同時に、綾香は凄まじい勢いで踏みこんできた。


(うおっ!? 不意打ちかよ!)


 しかし……


『出鼻を使用します』


「くうっ!?」


 綾香の力強い一撃は、軽く弾かれてしまう。


「……」


「っ……まだっ!!」


『出鼻を使用します』

『出鼻を使用します』

…………

…………


 その後、幾度も綾香は竹刀を振り下ろすも、その全てが片手で弾かれる。


(この男ッ……あえて攻撃してこない……!?)


「あなた……なんのつもりっ!!」


「ん?」


 我慢ならないと言った様子で叫んだ綾香に、俺はそろそろ潮時かと竹刀を持つ手に力を入れた。


「ふざけてないで……真面目にやりなさい!!」


「はいよ」


『出鼻を使用します』

『返し胴を使用します』


「──胴!」


「うっ……!!」


「「「!!」」」


 綾香の言葉に、俺はトドメの一撃を刺す。


「……!」


「……ッ」


「そこまで! 神楽くんの勝ち!」


 滝川さんの宣言に、周囲が静まり返った。


「な……あ……っ」


「ふぅ……割と何とかなったな」


(やっぱりスキルは凄いな……!)


 まさか副部長を一方的に倒せるなんて……!


「やば……梨ちゃんに勝ったのか?」

「神楽ってなんでも出来るんだな……」

「俺達も梨ちゃんには勝てないのに……」


「まぁ……これで文句ないよな?」


「くっ……!」


 周りからの目もあって、今度こそ認める他ない綾香は、ギリギリと聞こえるほど大きく歯軋りをしてそっぽを向いた。


「……ふんっ!」


「あはは……」


「まぁ、これならもう文句言う人は居ないと思うから……」


 たじろぐ俺に、滝川さんが居心地悪そうに言う。


「や、いいけど……」


(まぁ、意味はあったってことかな……?)


 俺は苦笑いしながら、滝川さんに向き直った。


「じゃあ、改めて……よろしく、滝川さん」


「うん……よろしく」


 そうして俺は、初めて部活に入ることになった。







──────────


剣道部副部長である梨綾香を打ちのめした仁。

剣道部に入部が正式に決まり、滝川さんとも少し距離が近づいた……かに思えるが!?


次回、『文化祭』


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