第24話 新たな仲間達
「じゃ、ちょっとうちも行ってくるわ。まじ感覚がないんだけど……」
「いや、ごめん……やりすぎたかも」
元西部の病院にて。
俺は両腕をへし折られたせいでここに来ることになった三田と別れ、教えられた病室に向かった。
(
西部のNo.2で、三田を除けば唯一の女子。
謎の武術を使う、かなりの才能をもった人材だ。
『才能:A』
三田に【観察眼】を使った時に、表示されたステータスだ。
才能A。
今までで二番目の高さだ。
春蘭高校こと東部には、Dランク以下しかいなかったからな。
『
『才能:E』
やかましいわ。
とにかく、才能Dの涼人でさえ、才能開花したらあんなに強くなったんだ。
三田には、まだまだ潜在能力があるということ。
そして……
「……神楽?」
「世津円……久しぶりだな」
『
『155cm』『52kg』
『力 B
俊敏 B−
知力 A
耐久力 C−』
『才能──S』
こいつが、一番高い才能を持つ……Sランクの人材だ。
(こいつだけは、絶対に仲間にしなきゃいけない……!)
「久しぶりって程じゃないけど……何?」
「あー、その……仲間になってくれないか?」
「いや」
世津円は即答した。
「え、いや……頼む! お願いだ!」
「……変な人」
頭を下げる俺に、世津円はポツリと返した。
「西部があなたの傘下になったのは聞いた。でも、この傷はあなたのせいなんだけど? それで私を誘うなんて……」
「うっ……」
世津円の言うことも一理ある。
ごめんカッコつけた、百理くらいあるわ。
全然当たり前の話だよな……うん。
俺が病院送りにしたわけだし……
「……」
しかし、世津円はそこで言葉を切った。
(……迷ってるか?)
自分のトップであり、仲の良い(三田から聞いた)三田を俺が倒したからついていくか決め兼ねているのか?
「……どうして、私を?」
世津円は目を閉じると、静かに問う。
「……俺には見えるんだ、お前の才能が」
「才能……?」
「ああ。類まれな才能だ。だから俺は、お前が欲しい」
「ッ……!?」
世津円がビクッとするが、俺は関係なしに続ける。
「俺たち東部は、皆が家族みたいなところだ。世津円凛……お前の才能、お前の努力を、貸してくれないか?」
「私は……」
もう一押しか?
「俺は勿論、部下たちにも三田や凛、友達の女子とかに手は出させない。当然……他校の奴らにも」
「……!」
「例え中央区が相手でも、お前たちが要求されたら……俺は戦う」
俺は世津円のたこだらけの手を取って、その目を見つめて言った。
「絶対に、守ってみせる」
「……!!」
──それまでに、力をつけて。
『メインクエストを達成しました!』
「私……私……!」
世津円は、突然涙を零す。
「えっ……!? ちょ、なんで泣いて……」
「……約束だよ?」
「あ、ああ! 任せろ!」
西部No.2、世津円凛。
鉄仮面とも言われた彼女が、落ちた瞬間だった。
『報酬:LRスキル』
〜〜〜〜〜
私は、最悪な家庭に生まれた。
「クソ女が! 酒切らしてんじゃねぇか!」
「ご、ごめんなさい……!」
「謝りゃいいってもんじゃねぇぞ!!」
父親は毎日母に暴力を振るった。
酒がないと暴力を振るい、ツマミがないと暴力を振るった。
時には、何も無くても暴力を振るった。
結局、母親は過労で死んでしまった。
恐らく、家庭での心労もあったのだろう。
「凛……男の人はね、皆最初は優しいの……でも、騙されちゃだめよ。本当に、愛してくれる人を見つけるの、いい?」
それが、母親の遺言だった。
(……何がだ)
母が死ぬと、父は私に暴力を振るった。
(男は全員、同じだ)
そんな家庭で育ったからか、口数が自分でも多くないと思う私は、同級生の男子にもバカにされることがよくあった。
「母さんがいねぇんだからてめぇが酒買ってこい!」
「私……買えない……!」
「あぁ!? 盗むでもなんでもして来いや!」
それが嫌で、私は格闘技を習うことにした。
でも……
「うーん……親御さんの同意がないと……」
月謝を払うお金も、親の同意も必要で、独学でやるしかなかった。
その時。
「カリ・アーニス……?」
たまたま、つきっぱなしだったテレビで、そんな武術を聞いた。
「フィリピンの伝統武芸……武器術……」
(そうだ、女の私が父を倒すには、武器が必要……丁度いい)
それから、本を買い、ネットと併せて独学を始めた。
中学1年生の冬のことだった。
晴れの日も、雨の日も、台風の日も。
たった一日も欠かさず、朝早くから夜遅くまで訓練をした。
「ハッ! ハッ……!」
武器なんてないから、工事現場付近から鉄パイプを持ってきた。
それでも、カリ・アーニスを訓練することが出来たのだから、私にとってピッタリな武術だったと言えるだろう。
「テメェ、夜遅くまでどこほっつき歩いてやがる!」
「……」
早く帰ろうが、遅く帰ろうが、父に殴られた。
だから、毎日夜中まで特訓し、時には外で寝ることもあった。
──そして、高校1年生になった日の夜。
「グハッ……も、もう、やめてくれ……!」
「……」
私は、父を倒した。
やってみれば、呆気なかった。
その時感じたのは、数発殴っただけで音を上げた父親を見て、「もっと早くやるべきだった」という感情のみ。
「ウグッ! 済まなかった! なんでも……何でもするから……! 許してくれ!」
「許す価値があるとでも?」
「う、う……うわぁぁぁぁぁ!!」
今まで鬱憤を晴らすように、私は死ぬ寸前まで父を殴ってやった。
(お前のせいで……私は、武術なんてやらなきゃいけなかったし、友達も出来なかった!)
女の子でここまで鍛えてる人なんて、ほとんど居ない。
同じ話題を持たない私が友達を作るのは難しいと、分かっていた。
(分かっていたけど……どうして私が!)
それから、父は暴力を振るわなくなった。
母の保険金で遊び暮らしていた父は働き出し、事ある毎に何かいるものはないか、と下手に出るようになった。
(結局……力が全てなんだ)
より大きな力には屈する存在……それが人間だと、理解させられた。
(……めんどくさい)
高校になって、顔立ちは整っていたらしい私には男子たちが寄ってくるようになった。
「ねね、放課後遊びにいかない?」
「凛ちゃんと仲良くなりたいな〜」
「……気安く呼ぶな」
だけど、幼い頃から触れてきた私は、目を見るだけで分かった。
こいつらも、あの父親と同類だと。
「私に触れるな」
そんなある日の放課後。
男子の一人が、帰ろうとした私に話しかけた。
「世津円さん、今からカラオケいかない?」
「俺たちと遊ぼうよ、ね?」
それに、便乗する男子達。
『世津円ってさ、可愛いけどなんか愛想悪くね?』
『陰キャって感じだよな〜』
『押したらヤれんじゃね?』
そう言われているのは知っている。
(はぁ……めんどくさい)
「悪いけど、他を当たって」
「まぁまぁ、そう言わずに……」
その時、男子の一人が私の肩に触れた。
刹那、そいつに父の影が重なって見えた。
「ちょっとだけだから──がっ!?」
「「!?」」
「このアマ……ヴッ!?」
私は即座に、近寄ってきた男子たちを制圧した。
(もう二度と、私は支配されない……!)
「ふぅ……」
「あれ、うちの制服?」
「……!!」
その時だった。
不意に、背後から私に、声がかけられる。
「あなたは……?」
「あ、うち? 三田楓だよ! 三年の!」
(三田楓……!)
それは、うちの学校で男女を束ねている女子番長……三田楓だった。
「女の子なのに、凄い強いじゃん! 良かったらさ、うちと友達にならない?」
初めて知りあった、女子の武術家。
「うん……!」
仲良くなるのに、時間はかからなかった。
そして、私は西部を束ねる楓ちゃんの右腕……No.2になった。
『凛さん! よろしくお願いします!』
『……馴れ馴れしい。世津円って呼んで』
『世津円さん! 俺たちと共に西部を守りましょう!』
『世津円さん! いつも俺たちを守ってくれてありがとうございます!』
『世津円さんは西部の守り神です!』
……だけど、私はいつも守る側だった。
『凛、いつもありがとう』
『……うん』
だから、初めてだった。
「──絶対に、守ってみせる」
「──!!」
純粋な目で、そんな事を言われたのは。
──────────
知らずのうちに凛の琴線に触れた仁。
彼女を仲間にした仁は、遂にURを越えるスキル──LRスキルを手に入れる!
次回『体育祭と【テレポート】』
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