第25話 体育祭と【テレポート】


『メインクエストをクリアしました!』

『達成条件4:東部の仲間を増やす 64/64』


『現在の報酬:LRスキル』


(ついに来た……!)


 報酬最大、URスキルを越えるスキル……


(LRスキル!!)


『LRスキル【テレポート】を獲得しました!』


「テレポート……!?」


 な、なんだこのスキルは!?


 俺は、興奮に震える手で詳細を確認した。


【テレポート】

名前と容姿を思い浮かべた相手の近くに瞬間移動する。

(相手から見えない場所で最も近い所に移動する)

(誰かに見られていると使用不可)

(一日一度使用可能)


「瞬、間、移動……!?」


 嘘だろ!?


 ほんとに瞬間移動出来るっていうのか!?


(確かに、今までクエストは現実とは思えないスキルをくれたけど……これは……!!)


 今まで得た【三日月蹴り】や【サマーソルト】といったスキル達は、人間の出来る範囲の動きだった。

 バフスキルも、他の奴らのステータスを見る限り、人間の限界を越えていないはず。


 でも、このスキルは違う!


 俺は世津円にお見舞いのフルーツを渡し、急いで物陰に隠れた。


「テレポート……!!」


 俺は母さんの名前と顔を思い浮かべ、【テレポート】を発動した。


「……!?」


 その瞬間、目の前の景色が歪む。


 そして……


時雨しぐれ冷めやらぬ夜に〜♪」


「……っ!?」


 俺が目を開けると、そこは家のリビングだった。


「ああ〜♪ この夜終わらぬま〜えに〜♪」


「母さん、ただいま──」


「ギャァァァァァァァァア!?」


 母さんは叫び声をあげ、持っていたオタマを投げ捨てた。


「えっ仁!? いつの間に帰ってきてたの!?」


「あ……いや、さっき……」


「えぇ!? びっくりした! ただいまくらい言ってよ〜、もう!」


「あ、うん……」


「……どうしたの? 体調悪い?」


 額を押さえて声を絞り出す俺に、母さんが心配そうに言った。


「い、いや、疲れただけ」


「そう? あ、晩御飯はハンバーグよ!」


「う、うん……やったぁ……」


(これ……めちゃくちゃ酔う!!)


 吐き気がする……


 でも、本当に瞬間移動出来た……!


「本当に……こんなスキルが、俺に……!」


 夢にまで見た、瞬間移動!


「あぁ……クエスト最高!」


 西部との戦いも一段落したし、次は──


「──体育祭だな!」


 俺は日課になったお祈りをすると、手に持つスキルを眺めて床に就いた。


『現在メインクエストは開始していません』



〜〜〜〜〜



『第45回、春蘭高校体育祭を始めます!』


「「「わあああああああ!!」」」


「仁、大丈夫なのか?」


「ああ……緊張で死にそう」


 体育祭。


 5月に行われる、綱引き、玉入れ、徒競走……様々な種目で競い合う行事だ。


『プログラム1番、開会式を始めます』


「まぁ、クラス対抗リレーなんて、花形だしな」


「おう……しかも、先発だぜ?」


 そう、俺は各クラスで点数を競い合う我が校の体育祭において、最も高い点数を誇る競技……クラス対抗リレーに出場することが決まっていた。


「ま、まぁ……体力テストの点数も良かったし……陸上部にアンカーやってもらったんだからいいじゃねぇか」


「やー……まぁ、そうだけどよ……」


 確かに、クラスに一人いた陸上部長距離専門の奴がアンカーはやると言っていた。


 一走目は他の走者より足の速さの差が分かりやすいし、理想の走順ではあるんだが……


(今まで玉入れとか綱引きとかばっかやってきた陰キャがクラス対抗リレーとか……夢にも思わなかったしな!!)


「はぁ……」


 まぁ、どうにかする……しかないか。


 俺はスキル詳細を見つめて、作戦を立てるのだった。



〜〜〜〜〜



『プログラム2番、全校生徒による徒競走を始めます』


「キャー!」


「瑞樹、もう始まるよ!」


「……分かってる」


「結城ー!! 頑張ってーー!!」


 果穂かほ美奈みなが、私の肩を叩いて、興奮した声を上げる。


「いやー!! 負けちゃったぁー!!」


「ねっ!! 勝った!! うちの祐介勝ったよ!」


「はぁ……」


 私は両サイドのミーハー二人から、ゆさゆさと揺さぶられる。


「ねぇ〜! 彼氏負けちゃったんだけど!?」


「はいはい、でも惜しかったね」


「でしょー!? もー、あとでストゥバ奢って貰わなきゃ!」


「瑞樹ももっと楽しみなよ! ほら、誰か応援したい人いないの?」


 果穂の言葉に、私は考えた。


「……私は彼氏とか居ないから」


「えー? でも、よく告白されてるじゃん? ほら、この前は番長からもさ」


「そうそう、あの人は無いにしてもイケメンから告白されてるでしょ? 誰かいい人いなかったの?」


(うーん……)


 中高合わせて、5回程告白されたことはあるけど……あまり、自分の心に響く人はいなかった。


 果穂や美奈はサッカー部の有望株だのバスケ部の次期エースだの騒いでいたが、私はあまりで考えたりしない方だ。


 ……それは只の肩書きで、一生続く人生にとって一瞬の価値でしかないから。


 後の二人は、私も思わずウッとなってしまうような陰湿な臭いのする人だったりだったが、そうでなくともが、足りてない気がする。


 最後の一人……神楽くんは……


(まぁ、清潔感は一番高かったな)


 そこは、好感度が高かった。


「あ、そういえばその番長……神楽君? 対抗リレー出るんだって」


「へー! 最後の大トリじゃん! 大丈夫なの?」


「まぁ、喧嘩も強いしそこまで足遅くはないと思うけど……」


(へぇ……クラス対抗リレー……)


「瑞樹、どう思う?」


「……期待あり」


「えっ!?」


 私の呟きに、果穂と美奈が驚愕の声をあげた。


「あのクールな瑞樹が……!?」

「恋愛に興味無い無いガールな瑞樹が……!?」


「ねぇ、ちょっと流石に言い過ぎじゃない?」


「「いや、ほんとにそうなんだよ!?」」


「……」


 私はただ、この人とならと思える人がいないだけで……


「はぁ……結婚でもあるまいし、恋愛くらいフランクにすればいいのに」


 果穂はため息を吐くと、やれやれと首を振った。



〜〜〜〜〜



【リカバリー】

即座に全ての傷や疲れを取り除く

(一日一度使用可能)


【決戦の時間】

5秒間力と俊敏の能力値を4段階上昇させる。

(一日に一度使用可能)


【アジテーション】

10分間耐久力を3段階下げ、力と俊敏を2段階上げる。

(一日に一度使用可能)


「使えそうなのはこの辺りか……?」


 俺の俊敏の能力値は下がってD+だが、だからといってS−……10段階も違う三田と何倍も走る速度が違うかと言えば、そうじゃない。


 恐らく、『俊敏』という能力値には反射神経や攻撃の初速、平均速度、最大到達速度……まぁ、色々総合して反映されてるんだろう。


 それでも、俊敏が高ければ足が速いことには変わりない。


小沼おぬま 康太こうた

『166cm』『63kg』

『力   D+

 俊敏  B+

 知力  C

 耐久力 D 』


 クラス対抗リレーのアンカーを務める、うちのクラスの陸上部のステータスだ。


 だが、俺は一時的に、最大6段階の能力値上昇が出来る……


 つまり、俊敏B+だ。


(これを【リカバリー】を使いつつ短距離の勢いで込めれば……!)


 恐らく、トップでバトンを繋げること間違いないだろう。


(数少ない、絶好の見せ場だ……)


 全校生徒が集うこの体育祭で、最終種目のリレーなら滝川さんも見ているはずだ。


(……今はまだ、届かない高嶺の花だけど)


 アピールにアピールを積み重ねて……


(いつか、彼女に好かれる男になる……!)


 俺は大きく深呼吸すると、真剣に思考を固めた。






──────────


二年次の体育祭。

滝川さんにいい所を見せるため、仁の対抗リレー戦が幕を開ける!


次回『エースランナー』


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