第20話 【アドレナリン】


「……!?」


「──捕まえた」


 をした神楽は、ニヤリと笑っていた。


(どうして……!? あれだけ殴られて、まだ動けるの!?)


 神楽は、鉄パイプを顔面で真っ向から受けつつも、左手で鉄パイプを引っ掴んでいたのだ。


 鼻から、耳から、血を流しながら。


 ──まるで、痛みなど感じていないかのように。


「うっぐ……!?」


(なに、この鋭い蹴り……!)


 神楽は私を突き飛ばし、間合いをとって蹴りを放った。


 三日月のように綺麗な弧を描いた蹴りが、肝臓の辺りに直撃する。


(重……っ!?)


「うっ……カッ……!!」


 予想外の重さ。


 まともに防御さえ出来ていなかった、先程までの男が放ったとは思えない鋭さの蹴りだ。


(まさか、本当に攻撃ばかり強い……!?)


「この……っ!!」


(だけど、これは防げないはず……!!)


 私は再度鉄パイプを振るって、神楽の側頭部を全力で叩いた。


「うらァ!!」


「な──!?」


 しかし。


 返ってきたのは、私の攻撃など無視したかのような後ろ回し蹴り。


 変則的な回し蹴りが、靴裏で私の鼻っ面を捉えた。


(こいつ……頭に鉄パイプを受けても、動じないで……!?)


 地に叩きつけられるような角度の蹴りに、私は思わず歯を食いしばった。


(どうして……!? 痛みを感じてない……!)


 どう考えても、何かがおかしい。

 アドレナリンが出ているのか、神楽は一切痛みを感じていないようだ。


 ハナから防御なんて考えてもいない無茶苦茶な攻撃に、私は次第に押されてくる。


 そして──


「っ!?」


 勢いに押され、思わず下を向いた、その時。


 神楽が、空を


「カハッ……!」


(サマー……ソルト……?)


 嘘でしょ?


 飛び上がりながら私の顎を蹴ったのは、バク転の如き跳躍……いわゆるサマーソルトの一撃だった。


(そんな……ただの魅せ技のサマーソルトが……)


 サマーソルトなんて、一種の魅せ技だ。

 真剣な勝負では、まず使うことはない。


 なのに……


(この威力は……っ!?)


「喰らえ──!!」


 そして……


 空中で力を溜めるようにした神楽は、上を向いた私の顔面に踵落としを放った。


「イヤ……っ!!」


(そんな……馬鹿な……)


 こんな……非現実的な動きが……


 私はそこで、意識を失った。



〜〜〜〜〜



『アドレナリンを使用します』


 かつて、スキル合成クエストで手に入れたSSRスキル。


【アドレナリン】

3分間アドレナリンを強制的に放出し、痛みを感じ無くする。

(一日に一度使用可能)

(持続時間終了後、反動をシャットアウトするために気絶します)


(これなら、押し切れる……!!)


 世津円の武術は、なんだか分からない。

 回避や防御することが困難だ。


 だが、このスキルがあればゴリ押しが出来る!


『三日月蹴りを使用します』

『三日月蹴りを使用します』

『三日月蹴りを使用します』

『アルマーダを使用します』

『サマーソルトを使用します』

『踵落としを使用します』


『『クリティカルダメージ!』』


 それから、何回殴られたかは分からない。


 ただ、ひたすらに前へ前へと突っ込んだ結果、遂に。


「く……ハッ……!」


『サブクエストをクリアしました!』

『サブクエスト:世津円凛を倒す 1/1』

『Rスキル【コマ回し】、SRスキル【平衡感覚】を獲得しました!』


【コマ回し】

コマを上手く回すことが出来る。


【平衡感覚】

バランスが良くなる。


 お、久しぶりに補助系SRスキルが出たな。

 ……てか、これ日常スキルじゃないのか。


「まぁ確かに、体幹ないから喧嘩でも助かるな──!?」


 俺がそう呟いた瞬間。


『アドレナリンの持続時間が終了しました』


「カッ……ハッ……!?」


 全身に、激痛が奔った。


「ぐ、ぐおおおおぉ……!?」


 ま、まずい……意識が……飛ぶ……!


【アドレナリン】

…………

…………

(持続時間終了後、反動をシャットアウトするために気絶します)


 ダメだ……耐えられ……な……


 視界が暗転し、耳鳴りがする。


 俺はそこで、意識を失った。



〜〜〜〜〜



「ハッ!」


「……ヘッド! お目覚めに!?」


 見たことある天井だ。


 チラリと横目で見れば、田村が涙を浮かべて俺が寝る机にしがみついていた。


『リカバリーを使用します』


「っしょっと……あれから、どうなった?」


「ヘッド! あのNo.2である世津円凛を倒すとは……!! 感服致しましたぁぁぁぁ!!」


「「「お疲れ様です!!」」」


「あ……涼人。大丈夫か?」


 俺は騒ぎ出した田村達一年を無視して、涼人に声をかけた。


「あ、おう。……やっぱり、凄いんだな、仁は」


「?」


「不意打ち一発で気絶しちまって……自分が情けないよ。お前は気絶するまで戦って、世津円を倒したのに……」


 涼人は拳を震わせ、歯噛みする。


「涼人……」


 俺はため息を吐くと、涼人に歩み寄って肩を叩いた。


「不意打ちを受けてたのが俺だったら、逆だったよ。それに、今から強くなればいいだろ?」


「……ああ! その通りだな!」


『メインクエストをクリアしました!』


「うおっ!?」


「仁??」


 その時、俺の目の前にウィンドウが現れた。


『メインクエスト:西部の没落』

『達成条件1:西部の領地を奪う 3/3』

『Rスキル【ヨーヨー】【竹馬】、SRスキル【レシーブ】を獲得しました!』


「あ……」


 そうか。

 その腕を買われて1人で津々高校を守っていた世津円を倒したから……


 本拠地以外、全部手に入れたことになるのか。


【ヨーヨー】

ヨーヨーが上手くなる。


【竹馬】

竹馬を操れるようになる。


【レシーブ】

バレーボールのレシーブを使用することが出来る。


(いらねぇ……)


 バレーボールも1年生で終わっちまったしな……


 あ、待てよ? ビーチバレー?


(……俺は絶対、リア充になるんだ)


 よし、置いておこう。


「ちょ、仁……もう動いて大丈夫なのか?」


「え? ああ。もう大丈夫だから安心しろ」


『メインクエストが開始しました!』

『メインクエスト:西部の没落』

『達成条件1:西部の領地を奪う 3/3』

『達成条件2:三田楓を倒す 0/1』

『達成条件3:???』

『達成条件4:???』

『条件2報酬:SSRスキル』


 SSRスキル……


(いやいや! そうじゃなくて!)


 次の条件が、三田を倒すだって?

 それはおかしい。


(じゃあ、残りの二つの達成条件はなんなんだ?)


 西部のトップは三田……次に強い世津円も倒したはずだ。


「……まぁいいや」


 何にせよ、残すは三田のいる本拠地、青竹高校のみ。


(西部を、終わらせてやる)


 そして……


 メインクエストのための、仲間を集めるんだ。


 この先、もっと現れるだろう、メインクエストを見据えて──



〜〜〜〜〜



「あ、姐御! 凛さんが対峙するも、神楽に負けてしまい……! 領地を奪われてしまいまし──」


「黙れ!!」


「うっ……くっ……!!」


「あいつ……よくも……!」


 三田は苛立ちに、報告の首を絞めあげる。


「大人しそうに、可愛い顔してたからほっといてやったけど……もう許せない!」


「姐御……神楽は恐らく、ここにも攻めてきます。下の者達を準備しましょう」


「チッ……分かった、行くよ!」


「「「はい!!」」」


(神楽仁……!!)


 私の子分とも言えるアイツらをぶちのめして、凛まで……


(あんな小さな領地が、今更何を……!)


「あんた達! 戦争が始まるよ!」


 普段と違って、のんびりとした雰囲気を消した三田は、配下たちに言う。


「東部の奴らが、調子に乗って攻撃を始めた! でも、北区を纏めるのはうち達だ!」


「「「うおおおおおお!!」」」


「いいか? 東部の奴らに、目にもの見せてやる!」


「「「うおおおおおおお!!」」」


(神楽……かかって来な。ぶっ潰してやる)


 三田は拳を握りしめると、に備えて動き始めた。






──────────


痛みを感じぬ兵士となった仁は、相手の攻撃をものともせず、真っ向から凛をねじ伏せた。

次回、遂に西部No.1 三田楓との戦いが幕を開ける……!


次回『三田楓との決戦』


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