第19話 世津円凛


「龍さん!?」


『【クラヴマガ-頬蹴り】を使用します』


「カハッ……!?」


(おい……嘘だろ!?)


 俺は涼人のステータスを見て、我を忘れて固まった。


水霧みなぎり 涼人りょうと

『才能開花!』

『167cm』『63kg』

『力   C+

 俊敏  D

 知力  D

 耐久力 B−』

『専用スキル:【クラヴマガ】』


「強くなりすぎだろ……!?」


 力、俊敏、耐久力の3つが3段階も上がってる。


 俺で言うところの、ほとんど決戦の時間を常時発動出来るようになったようなものだ。


 決戦の時間では耐久力は上がらないから、それよりも上か。


 クラヴマガ。

 イスラエルで考案されたストリート格闘術で、格闘技のように完成された華麗な『型』ではなく、効率を重視する最強の路上格闘技。


『【クラヴマガ-股間蹴り】を使用します』


「ッ〜!?!?」


「「「……!!」」」


 涼人の一撃が、龍の股間をつま先で捉えた。


 それを見たお互いの配下たちが、自分の股間を押さえて内股になる。


『水霧涼人が白山田龍を倒しました!』

『育成クエストをクリアしました!』


『育成クエスト:東部の戦力の強化』

『1.北部の幹部と戦って勝つ 神楽仁 0/1』

『2.西部の幹部と戦って勝つ 水霧涼人 1/1』

『SRスキル【力の解放】ⅹ2、【耐久力の解放】ⅹ2を獲得しました!』


【力の解放】

仲間一人の力を2段階上げる。


【耐久力の解放】

仲間一人の耐久力を2段階上げる。


「りゅ、龍さんが……!」


「ひ、檜山さんも気絶してるぞ!?」


「て、撤退だ!!」

「降参します!!」


『メインクエスト:西部の没落』

『達成条件1:西部の領地を奪う 1/3』


「涼人……」


 逃げていく西部の雑兵達を尻目に、俺は涼人に話しかけた。


「仁。俺……」


 涼人はゆっくりと残心を解くと、ギギギギギ、とこちらにニヤニヤとした顔を向けてきた。


「……もしかして、強い?」


「…………」


 俺はため息を吐くと、額を覆って首を振る。


「……まぁ、無事で何よりだな」


「おう!」


(これなら、西部との戦いも楽になるかもしれない)


 俺たちは占領の旗を立て、本拠地春蘭高校へと戻った。



〜〜〜〜〜



「……それで、逃げられたって?」


「はい。私が到着した頃には既に、檜山及び白山田は敗北し、東部の者は一人残らず退却していました」


「……チッ! 使えない……!」


 その報告に、三田は苛立ちにロッカーを蹴り飛ばした。


 大きな音と共に、ロッカーの扉が破壊される。


「……私が行きましょうか?」


「……いや……多分これ以上は手出ししないはず。東部には戦力の余裕なんかないし」


 三田は青筋を浮かべながら、拳を震わせた。


「……次来た時には、潰してやる」



〜〜〜〜〜



「……で、次は俺たちってか?」


「あいつらを倒した程度で、調子乗ってんのか?」


 次に、俺たちは倉山高校に目をつけた。


 西部のNo.4とNo.6の守る領地で、龍と檜山の領地の次に戦力が弱い領地だ。


「仁……!」


「……分かってる」


 だからといって、油断できる相手ではない。


大槻おおつき 大和やまと

『179cm』『77kg』

『力   C+

 俊敏  D+

 知力  C

 耐久力 C 』


高砂たかさご 蓮司れんじ

『166cm』『67kg』

『力   D+

 俊敏  C−

 知力  E+

 耐久力 C+ 』


『西部No.4、大槻大和。大柄な体を活かし、正面からの殴り合いを得意とする奴だ』

『それに対してNo.6の高砂蓮司は、優れた反射神経を活かして攻撃を回避しつつ、反撃するスタイルだ』


 俺は伊達の言葉を思い出す。


 ……確かに、油断はいけない。


 俺は北部No.11の太牧幹夫との戦いで、俺は学んだ。


(だが──!)


 既に、準備は整ってんだよ!


『決戦の時間を使用します』


神楽かぐら じん

『175cm』『58kg』

『力   C− →B

 俊敏  C− →B

 知力  D−

 耐久力 D    』


水霧みなぎり 涼人りょうと

『才能開花!』

『167cm』『63kg』

『力   C+

 俊敏  D

 知力  D

 耐久力 B−』

『専用スキル:【クラヴマガ】』


『アルマーダを使用します』

『サマーソルトを使用します』

『踵落としを使用します』


『クラヴマガを使用します』


『クリティカルダメージ!』


「「カ……ッ!?!?」」


『メインクエスト:西部の没落』

『達成条件1:西部の領地を奪う 2/3』


 俺と涼人の攻撃が、容赦なく大槻達を叩き潰した。


 涼人の使うクラヴマガは、実践的武術だ。

 喉潰しに股間蹴り、何でもあり。


 その技術スキルが、勝敗を分けた。


(やっぱり、スキル1つで戦いが左右されるもんだな……)


 というか、専用スキル1つで何個もスキル使えるのずるくね!?


 俺も【ジャブ】とかじゃなくて【ボクシング】みたいなスキルが欲しいよ……


(それかもしかして、俺の専用スキルってクエストだったり……?)


「仁……俺たち、強いんだな!?」


「いや……それでもまだまだ北部トップの白井とかには及ばないぞ……」


「え!?」


 俺は知ってるからな。

 あいつらのステータスを。


(決戦の時間を使っても、5秒で倒せるかと言われれば多分無理だし……)


 その時だった。


(──!?)


 不意に、背筋が粟立つ感覚。


「グハッ!?」


「──涼人!?」


 突如、涼人の頭があった場所に鉄パイプが現れ、涼人は勢いよく地を転がった。


「う……くっ……!!」


「──やっぱりここね」


「……!!」


 俺はを見て、目を見開いた。


世津円凛よつまどりん……!」


「そう。三田ちゃんの指示で、あなたを潰しにきた」


 【観察眼】……っ!


(おい……嘘だろ?)


世津円よつまど りん

『155cm』『52kg』

『力   B

 俊敏  B−

 知力  A

 耐久力 C−』


 世津円凛。

 “鉄仮面”とも言われていて、西部の津々しんしん高校を領地に持つ三田の右腕……No.2だ。


『サブクエストが開始しました!』

『サブクエスト:世津円凛を倒す 0/1』

『報酬:Rスキル、SRスキル』


 他の拠点はどこも幹部が二人で守っているが、世津円のところだけは、世津円一人しかいない。


 なぜなら……


「……グハッ!?」


「何してる? 構えろ」


 彼女は、断トツで強いからだ。


 彼女が鉄パイプを振るうごとに、回避不能な衝撃が全身にはしる。


(避けれない……っ! 俊敏が高いからか……!?)


 だが、もっと俊敏差のある相手でも、動きくらいは見えたはずだ。


 何故こんなに動きが読めない……!?


(世津円の使う武術と関係があるのか……!?)


「──カッ、ハッ!?」


「弱い」


 感情のない瞳をした世津円の突きが、俺の鳩尾を捉えた。


「ゲホッ!!」


 俺は口から血を吐き、自分が血を吐いたことに驚く。


(まじかよ……!? どんなダメージ受けたんだ!?)


「ぐあああああああ!!」


「うるさい」


「ガッ……!!」


 ダメだ……!


 さっさと片付けて逃げ帰る作戦だったから、決戦の時間も使ってしまって使えない……!


(くそ……! スキルに、というより【決戦の時間】に頼りすぎてた!)


 今のステータスじゃ、まともにやっては勝てない相手だ。


(それなら──!!)


「トドメ。さよなら」


 世津円はそう言って、鉄パイプを振り下ろし──


 俺の脳天に、直撃した。


(終わった……)


 世津円がそう、確信した──その時。


「……!?」


「──捕まえた」


 俺は、



〜〜〜〜〜



(うそ……なんで……!?)


 私は、三田に言われて東部の新トップ、神楽仁かぐらじんを倒しに来た。


 戦ってみれば、三田先輩の言った通り大したことない奴で、私の攻撃に防御すらままならない様子だった。


(……あいつらはまた特訓させないと)


 そう考えていた程に、目の前の男は弱かった。


 むしろ、何故負けたんだ? という疑念が拭えないレベル。


 攻撃だけが激しく強い? そんな歪な人間は現実に居ないだろう。


 格闘技を習っていたなら、最初に受け身や回避の練習をするはずだ。


「トドメ。さよなら」


 私は鉄パイプを神楽の顔面に振りおりし、確かな手応えを得た。


(終わった……)


 そう確信した、瞬間だった。


「……!?」


「──捕まえた」


 双眸そうぼうが、私を睨んだ。






──────────


西部のNo.2、世津円凛の乱入によりピンチに陥った仁達!

しかし、鉄パイプが仁の頭を捉えたと思われたその時、仁の瞳が紅く輝き出して──!?


次回『【アドレナリン】』


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