第16話 旅行


「ヘッド! お荷物お持ちします!」


「え? ああ、ありがとう……大丈夫か?」


「ヘッドのためなら当然です……っ!!」


「えっと……ではこちらがルームキーになります……」


「あ、はい」


 ゴールデンウィーク。

 俺たちは、西区の旅館に旅行に来ていた。


「しかし友達だけで旅行なんて初めてだな〜」


「俺もだぞ?」


 涼人の言葉に、俺は同意する。

 実際に、母に言った時は……


『お母さーん、ゴールデンウィーク、友達と旅行行ってくるから』


『えっ!?!?』


『え? ちょっとなんか割れた音したけど!?』


『仁が友達と旅行に……!? 誰と!? どこに!? 嘘じゃないわね!?』


『うわっちょ、落ち着いて!!』


 まぁ、随分と失礼なことを言われたな。


「……ってか、なんでこんな大勢で急に? 高梨もいるし……」


「ああいや……仲間はずれは良くないだろ。安心しろ、部屋は別だから」


(すまんな、涼人……俺も嫌だけど……)


『メインクエスト:敗北は糧にスキルで以て喰らえ』

『達成条件1:仲間達と旅行に行く 1/1』

『Rスキルⅹ10を獲得しました!』


 クエストに仲間たちって書いてるからには連れてかないとダメだろ……


 だって前のクエストで高梨も「仲間たち」扱いされてたし……


 高梨は以前、カツアゲとかしてた奴だし、確かに俺も敬遠したいとこだけどな?


「いや、いいけどさ……」


「まぁ、とりあえずコンビニ行こうぜ。お菓子と飲み物買おうぜ!」


「おう!」


 俺は手に入れたスキルを眺め、口角を上げた。


『Rスキル【カットブロック】【リフティング】【一気飲み】【死んだフリ】【ターン】【ペン回し】【痰吐き】【オペラボイス】【俊敏の目覚め】【力の目覚め】を獲得しました!』


【カットブロック】

卓球のカットブロックを使用出来る。


【リフティング】

サッカーのリフティングが使用出来る。


【一気飲み】

飲み物を一気飲み出来る。


【死んだフリ】

死んだフリが上手くなる。


【ターン】

バスケのターンを使用出来る。


【ペン回し】

ペン回しが使用出来る。


【痰吐き】

無限に痰が吐ける。


【オペラボイス】

オペラボイスが出せる。


【俊敏の目覚め】

仲間一人の俊敏を1段階上げる。


【力の目覚め】

仲間一人の力を1段階上げる。



〜〜〜〜〜



「よーし! 帰って人狼にウ〇、遊び尽くすぞ!」


「おー!!」


 涼人は両腕に大量のお菓子と飲み物を抱え、雄叫びをあげた。


 20人くらいもいるんだ。

 パーティゲームはかなり楽しいだろう。


「だが……それにはちょっと早そうだぞ?」


「え? 何でだよ?」


 俺は知ってるんだよ。


 チェックインした時に条件1を達成して、あらわになった条件2──


『メインクエスト:敗北は糧にスキルで以て喰らえ』

『達成条件1:仲間達と旅行に行く 1/1』

『達成条件2:少女を西区の不良達から救う 0/1』

『達成条件3:???』

『報酬:SRスキルⅹ3』


「だ、誰か助けてくださいっ!!」


「えっ!?」


 タイミング良く、近くで少女の悲鳴が聞こえた。


「! 行くぞ、涼人!」


「え? お、おう!?」


 俺は涼人に声をかけると、声のした方向に駆け出した。



〜〜〜〜〜



「だ、誰か……!」


「おいおい、1人でこんなとこに来ておいてそりゃないだろ?」

「期待しちゃって〜」


「あれって……!?」


 俺たちが声のした方に向かうと、路地道で4人の男が1人の少女を囲んでいた。


「い、いや……友達とはぐれちゃっただけで……!」


「あぁ〜」

「じゃあその友達も呼んじゃってよ! 皆で楽しもう?」


「なぁ、仁……ここ、現実だよな?」


「あ、あぁ……多分?」


 あまりにお決まりな不良達の文句に、涼人が思わずと言った様子で呟いた。


(クエストなんてのを受けてるから、断定はできねぇ……)


 俺たちがヒソヒソと話していると、4人組のうちの1人がこちらに気づき、恫喝の声を上げる。


「あぁ? 何見てんだよテメェら!」


「引っ込んでろ!」


「見世物じゃねぇんだよ!!」


「あっ……た、助けてください!!」


 その声で俺たちに気づいた少女は、弾き出されるようにして俺たちの元に走って来た。


「おっ……わ、分かった!」


(こいつ……)


 腕を掴まれ照れている涼人を尻目に、俺は4人組の能力値を【観察眼】で見た。


(……見た感じ、こいつで1番強いレベルだな)


船曳ふなびき 海斗かいと

『172cm』『67kg』

『力   D+

 俊敏  D

 知力  E

 耐久力 D−』


 まぁ、正直いって雑魚だ。


 ……いや、俺もスキルがなければあんまり変わんねぇけど。


「涼人、いけるか?」


「あ、ああ! 当然だ! 絶対に守って見せるぜ!」


 単純なことに張り切ってる涼人は、荷物を少女に預けて腕を回し出した。


(……にしてもこいつ、4人のヤンキー相手に、どう見てもヒョロヒョロ陰キャな2人に助けを求めるって)


 ……まぁ、世の中いい者ばかりじゃねぇか。


「あぁん? 陰キャが見栄張ってんじゃ──」


『サマーソルトを使用します』

『クリティカルダメージ!』


「「「……ッ!?」」」


「グハッ……!!」


 無防備に舐めてかかって歩み寄った不良の1人は、顎に思いっきり俺のサマーソルトを受けて地に倒れた。


「……!?」


「そっちこそ見栄張ってないで、全員でかかってこいよ」


 それを見て、残りの3人が尻込みした。


「くっ……舐めんじゃねぇぞ!!」


「そっちがな?」


『アルマーダを使用します』


 その場で360度、後ろ回し蹴り。


「くぁっ!?」


『クリティカルダメージ!』


 鼻っ面に靴裏を受けた不良は、その一撃で伸びて倒れた。


「は、はぁ、はぁ……い、意外と俺、強いか?」


 どうやら涼人が戦っていた1人も今、倒したようだ。


(ステータスはちょっとあげたけど……正直それには頷けないぞ……)


「う……」


「ほら、どうした?」


「う、うおおおおお!」


 残された1人が、叫びながら拳を振り上げる。


 それを見て、俺は拳を構え──


『狐拳を使用します』


「ボガッ!」


 弾かれたように拳を突き出した。


「……!!」


 丸めた拳の手首の部分で、顎をつ。


『メインクエストをクリアしました!』

『メインクエスト:敗北は糧にスキルで以て喰らえ』

『達成条件1:仲間達と旅行に行く 1/1』

『達成条件2:少女を西区の不良達から救う 1/1』

『達成条件3:???』

『SRスキル【ヒールリフト】【ジャブ】【フック】を獲得しました!』


【ヒールリフト】

サッカーのヒールリフトが使用出来る。


【ジャブ】

ボクシングのジャブが使用出来る。


【フック】

ボクシングのフックが使用出来る。


『メインクエストが開始しました!』


「あ、あのっ……!」


「……ん?」


 俺が手に入れたスキルに気を奪われていると、少女がこちらを向いてお辞儀をした。


「た、助けてくれてありがとうございました!」


「お、おう! 当然のことよ!」


 涼人は胸を張るが、少女はそれを無視して俺の方にスマホを突き出した。


「そ、その……良かったら連絡先教えてください!」


「えっ!?」


(女子と連絡先交換だと……!?)


 女子の連絡先なんて、事務用途以外で交換したことなんかない。

 それに、向こうから言われるなんて始めてだ!


「あ、ああ……分かった」


「あ、俺も!」


「はい! ありがとうございました!!」


 少女は俺たちと連絡先を交換すると、再度お辞儀して、走り去って行った。


(正直今はこれがクエスト報酬よりも嬉しい!)


「こんなこともあるんだな」


「ああ……らしいな」


 上機嫌な涼人の言葉を、俺は上の空で返した。


 ……目の前の、クエストウィンドウを見つめて。


 やけに上機嫌で帰ってきた俺たちを見て、何があったと高梨や田村達に問い詰められたのは言うまでもない。




『メインクエスト:敗北は糧にスキルで以て喰らえ』

『達成条件1:仲間達と旅行に行く 1/1』

『達成条件2:少女を西区の不良達から救う 1/1』

『達成条件3:SSR以上のスキルを獲得する 0/1』

『報酬:SSRスキル』






──────────


敗北を知った仁に与えられたクエストは、まさかの旅行することだった。

更にスキルが集まっていく仁。

そんな仁に、“新たなクエスト”が出現する……!


次回『育成クエスト』


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