第14話 初めての敗北
英語の授業は退屈だ。
何も理解できない。
英検準2級?
受かるわけないだろ。
「はぁ……」
『メインクエスト:北区統一に向けて』
『達成条件1:北区会談に出席する 1/1』
『達成条件2:交流戦で勝利する 1/1』
『達成条件3:北部・西部・南部のいずれかを攻撃する 1/1』
『達成条件4:太牧幹夫と戦う 0/1』
『報酬:URスキル』
「太牧幹夫か……」
今朝。
伊達に太牧幹夫について聞いてみた。
『
『ああ。どんなやつなんだ?』
『北部のNo.11……一言で言うとデブだ』
『デブ……?』
『ああ。体重は100kgを超えると言われていて、とにかく忍耐力が高い奴だ。恐らく、北部の中でも一二を争う防御力だろう』
『そうか。ありがとう』
『それより、どこでその名前を聞いたんだ? どこかで会ったのか?』
『ああいや……なんでもないよ』
(URスキル……どんなスキルがくるんだ?)
昼休み。
いつものように弁当を持って会議室に行こうとしていた俺は、廊下でばったり彼女に出会った。
「……あ」
「……?」
思わずそんな声が出てしまう。
滝川さんだ。
(気まずい……)
「……」
「あ……」
目が合った滝川さんは、軽く頭を下げて挨拶してくれた。
「…………」
滝川さんとは別クラスで、普段あまり会うことは無い。
フラれた時は顔を合わせ辛くて助かったとも思ったけど、こんなんじゃいつ仲良くなれるのか……
(……冷静沈着とかいうスキル無いかな)
今は無理でも……いずれ……!
俺は一層のやる気を胸に、拳を握りしめた。
〜〜〜〜〜
「なんで俺、こんな毎日喧嘩しに行ってんだろうな……」
北区北部領地。
俺は一人で、北部のクラブに来ていた。
涼人は一緒に戦ってくれるつもりらしいけど、北部No.11のところに乗り込むのはまだ危険だし……
田村は連れてきたらうるさいからな。
「大丈夫……No.11だろ? いける……俺ならやれる……」
それに、これをクリアすればURスキルが貰えるんだ。
楽しみで仕方ないぜ!
「よし……行くぞ!!」
俺は、勢いよく扉を押し開け──
「へぶっ!?」
顔面に思いっきり拳を喰らった。
(なっ!?)
「おーおー、やっぱりここに来たか、
扉の向こうに立っていたのは、100kgは超えるであろう巨体……
「な、なぜ……」
「なぜ? お前、ホントに言ってんのか」
「?」
太牧はそう言うと、スマホの画面を見せつけた。
「北区会談にも行って顔知られてんのに、変装もせず歩いてくる奴がいるか? 筒抜けだぞ」
「っ!!」
スマホには、俺がここに向かって来ている時の写真が映し出されていた。
(いつの間にか撮られていたのか……!)
「少しはトップの自覚を持ったらどう……だ!」
「ぐはっ!!」
凄い力だ……!!
『
『178cm』『112kg』
『力 C+
俊敏 E
知力 D+
耐久力 C+ 』
(ステータスが高い……っ!?)
体重があるからか!?
俊敏は相当遅いが力と耐久力が尋常じゃない!
「いや、逆に自意識過剰だからここに来たのか? ハハハハハ!」
(くっ……だったら【決戦の時間】を……!)
「──えっ?」
俺が決戦の時間を発動しようとした──その時。
太牧は俺を押し倒し、その上に跨った。
「さて……じゃあお仕置といこうか?」
「グハッ!!」
(まずい……! 上に乗られるといくら決戦の時間でステータスを上げたって抜け出せない……!)
太巻は俺の顔面に向かい、何度も重い拳を振り下ろす。
「グハッ! ゲホッ!」
「ほらほらぁ! どうした!? 東部のトップ如きが、自分が強いとでも思ったか!?」
「出た! 幹夫さんのデンプレス・ロール!」
「白井さんも捕まりたくはないと言うあの!」
「掴まれたら最後! 地獄行きだぜ!! 」
デンプレス・ロール!?
まさかデンプシー・ロールと掛けてやがんのか!?
……このダサい技を!?
(それどころじゃない……! だったらあの新しいスキルを──!!)
先日、南部を攻めた時に手に入れたSSRスキル。
『メインクエストをクリアしました!』
『SSRスキル【アドレナリン】を獲得しました!』
【アドレナリン】
3分間アドレナリンを強制的に放出し、痛みを感じ無くする。
(一日に一度使用可能)
(持続時間終了後、反動をシャットアウトするために気絶します)
これを使って……!
(……どうするんだ?)
痛みが無くなれば逃げ出せるか?
いや。
不可能だ。
「トドメだ!!」
そう言うと太牧は飛び上がって──思いっきり俺の腹を押し潰した。
「ぐぇっ!!」
(クソ……ダメだ……意識が……)
「ハハ、まぁこのくらいやれば二度と攻めようとは思わないだろう。ハハハハ!」
「幹夫さん! 白井さんに報告しましょうか?」
「いや。いい。こんな雑魚を倒したことで自慢していては逆効果だろう。それにこういうのは、後々自主的に知られる方が効果が高いんだよ」
「なるほど! 流石です! 幹夫さん!」
太牧はそう言いつつも、俺の上に座ったまま動かない。
クソ……ここで……負けたら……
クエストが……
俺の……
(まだ……俺は……!)
そこで俺は、意識を失った。
『メインクエストをクリアしました!』
〜〜〜〜〜
「──ハッ!」
俺は目を覚ました。
気を失っていたようだ。
「ヘッド! 目が覚めましたか!!」
「田村……? ここは……学校か?」
どうやら俺は机の上に寝かされていたらしい。
横を向くと、田村が目に涙を浮かべて……
涙を浮かべて!?
「クソ……確か俺……」
「はい。ヘッドに要らないと言われましても、どうしても心配になって……恐れ多くながら後をつけさせていただきました! この罰は何でも!」
あぁ……そうだった。
「俺は……負けたんだな」
何とかなると思ってた。
俺に与えられた特殊な力──スキルがあれば、なんでも出来ると思ってた。
(でも……)
【決戦の時間】や【リカバリー】さえ、使う暇がなかった。
俺はいつからか、報酬にしか目がいかなくなっていたんだ。
「……ヘッド。どうしても相性が悪い相手はいます。太牧なんて腹がデカイせいで、蹴りが通用しなかったのではないでしょうか?」
「……」
田村の言葉に、俺はなんて返せばいいか分からなかった。
俺は、攻撃をする間もなく、負けたのだ。
「うっ……!」
立ち上がろうとして、俺は腹部に激痛を感じた。
「ヘッド! とにかく連れて帰っては来ましたが、しばらく安静にしていてください! 恐らく何ヶ所か骨が折れてるかと──」
『リカバリーを使用します』
「……いや、大丈夫だ。もう治った」
「えぇ!? もうですか!?」
鏡を見に行けば、折れて飛んだはずの歯もキチンと生え揃っていた。
(これ……折れた歯はどうなったんだろ?)
いつ見てもリカバリーは不思議だ。
折れた歯は消滅したのだろうか? それとも残っているのか?
「はぁ……」
「流石はヘッド! 人間離れした回復能力をお持ちで!! 尊敬します!!」
俺が負けたあと、田村がつけてきてくれていたから無事に帰ってこれたのか。
「……ありがとな、田村」
「そ、そんな! ヘッドが俺なんかに感謝を!? 俺は当然のことをしたまでです!」
田村が言うには、田村が到着した時、太牧は気絶した俺を「さっさと連れて行け」と言って返してくれたらしい。
……まぁ、ヤクザでもあるまいし当然か。
俺はため息を吐き、視線を宙に
クエストは、もう……
『メインクエストをクリアしました!』
「……えっ?」
「どうしました、ヘッド?」
『メインクエスト:北区統一に向けて』
『達成条件1:北区会談に出席する 1/1』
『達成条件2:交流戦で勝利する 1/1』
『達成条件3:北部・西部・南部のいずれかを攻撃する 1/1』
『達成条件4:太牧幹夫と戦う 1/1』
『URスキル【スキルファクトリー】を獲得しました!』
クリア……!?
「どうなってるんだ……!?」
「ヘッド? 聞こえてますか?」
俺は条件をよく見て、気づいた。
『達成条件4:太牧幹夫と戦う 1/1』
(そうか……戦うだけで良かったのか)
当然勝たなきゃいけないものだと思っていて焦った。
(でも、よかった。これでまだクエストは──)
「……」
──本当に、これでいいのか?
【スキルファクトリー】
下位スキルを合成して上位スキルを製造する。
上位スキルを分解して下位スキルを複数製造する。
──────────
初めて敗北を喫した仁に与えられたスキル、【スキルファクトリー】。
この敗北を糧に、仁の成長は加速していく……!
次回『【スキルファクトリー】と体育無双!』
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