第13話 【狐拳】


「うおおおおお!!」


「なんだこいつ?」


(涼人……!?)


 視界の端に、涼人が殴りかかっていくのが映った。


(構えろって……防御しろって意味だったのに……!)


「うおおお!!」


「うっ……」


 構成員の一人と接戦を繰り広げているが……そんなに突っ込んだら……!!


「スキあり!」


「ぐぁっ!?」


 拳をガードしながら下がっていく構成員を追いかけていた涼人は、集まってきた他の構成員から攻撃を受ける。


「ぐっ……!!」


「涼人!!」


「どうした? 頭は頭同士の戦いと行こうじゃないか」


 リンチのような目に遭っている涼人を見て、俺は目を伏せた。


「……」


「どうした? ここへ来た時の自信は! いざ戦うとなればだんまりか!?」


 ああ……

 そうだ。


 涼人をNo.2にした理由。


 涼人の学校生活も楽になるようにって、楽しくなるようにって誘ってOKされた訳だけど。


 いつかこうなるんじゃないかって、分かってたんじゃないか?


 No.2なら、お飾りだとしてもいつかは戦う時が来る。


 でも、ずっと先だと思って、何も考えてなかった。


 俺が、親友涼人をこんな目に遭わせてたんだ。


(……悪い、涼人)


 ああ……そうだ。


 後で残すとか何かあったらとか……


 親友がやられてるのを見ながら、言う言葉かよ!


『水霧涼人に耐久力の目覚めを使用します』


水霧みなぎり 涼人りょうと

『167cm』『63kg』

『力   D+

 俊敏  E

 知力  D

 耐久力 C−(1up!)』


 これで、少しでも痛みが和らげば──


「死ね!!」


 棒立ちする俺に、熊野が拳を掲げ飛びかかった。


熊野くまの 壮五そうご

『175cm』『69kg』

『力   C+

 俊敏  D+

 知力  E

 耐久力 D+ 』


「ははは! 東部の1位なんざこの俺が──」


『決戦の時間を使用します』


神楽かぐら じん

『175cm』『58kg』

『力   C− →B

 俊敏  C− →B

 知力  D−

 耐久力 D   』


「──なっ!?」


 俺は熊野の拳を片手で受け止めると、反対の腕を引き絞った。


『狐拳を使用します』

『クリティカルダメージ!』


「ガハッ!?」


【狐拳】

空手の狐拳を使うことが出来る。

(俊敏の値によって威力上昇)


 俺が持つ最強SSRの戦闘スキル。


 狐のように丸められた俺の右手が、その手首で熊野の顎をった。


「……熊野さん!?」


(この威力……!?)


 弾丸の如く、弾かれたように放たれた俺の手首は、熊野の脳を揺らす。

 そして、押されて距離が空いた熊の頭部目掛けて、サマーソルトを使用した。


『サマーソルトを使用します』


(リーダー……東部のトップはゴミだって言ってなかったか……!?)


 こいつのどこがゴミだって……!?


(空をんでやがるぞ!?)


 熊野は仁を見て、背筋を凍らせた。

 本能的に理解したのだ。


(──勝てない)


『踵落としを使用します』

『クリティカルダメージ!』


「カッ──!」


「「……!!」」

「「……!?」」


 地に倒れた熊野を見て、下っ端達は動きを止める。


『決戦の時間の持続時間が終了しました』


「涼人から……離れろッ!!」


『三日月蹴りを使用します』

『三日月蹴りを使用します』

『『クリティカルダメージ!』』


「グハッ!」


「ゴホッ!!」


「だ、だめだ! 熊野さんが負けた!」


「お、俺たちに勝てるわけない……!!」


 適わないと分かるや、雑兵達は逃げ出した。


『メインクエストをクリアしました!』


「涼人……」


 俺はうずくまる涼人に手を伸ばし、立ち上がらせた。


「仁……悪い、No.2なのに」


「どうして……突っ込んだんだ?」


 俺の言葉に、涼人は俯く。


「……」


「涼人をNo.2にしたのは……」


「仁」


 俺は涼人の目を見て、言葉を詰まらせた。

 涼人が、決意に満ちた目をしていたからだ。


「お前が戦ってるのに、俺が見てるだけって訳にはいかないだろ──友達なのに」


「……!」


「まぁ、仁は学校でもトップになって……俺とは釣り合わないような奴になっちまったかもしれないけどよ」


「そんなことは……!」


「だけど、そうはいかないぜ」


「!!」


 涼人は拳を握りしめると、それを俺に向かって突き出した。


「お前に置いていかれたくない……俺にも教えてくれよ、格闘技」


「……!」


 ああ……


 俺たち……


「……俺たち今日、おかしいな」


「ああ。きっとアドレナリンビュービューだわ」


「「──ははははは!!」」


 ……アドレナリンのせいで、シリアスなことを言ってしまったのかもしれない。


「よし……帰るか!」


「ああ!」


 あんまり深く考えて生きるのは好きじゃないんだ。


 俺は考えるのをやめ、涼人と共に家に帰った。



〜〜〜〜〜



「それで……逃げられたと?」


「はい。どうやら最初から熊野だけが狙いだったようです」


「……クソがァ!!」


 その報告に、清水は癇癪を発動して参謀の首を掴みあげた。


「っ……!」


「ふざけやがって……ご、ゴミのくせに……! 今すぐ東部をつ、潰してやる!」


「いけません、リーダー」


 清水の言葉に、参謀は首を絞められつつも進言する。


「あぁ!?」


「最近中央区から時々遊びに来てた奴らの勢いが増してるのはご存知でしょう? 中央区の奴らからすれば雑兵とはいえ、俺たちをお遊び感覚で相手できるとタカをくくっています……!」


「ぐっ……! 東部も中央区も三田のやつも……全部思う通りにならない!!」


 清水は机を思い切り叩くと、参謀の首を掴む手を離して突き飛ばす。


「もういい! 出ていけ!」


「ごほっ……はい、リーダー」


「クソが……」


(東部の奴ら……真っ先に潰してやるからな……!)



〜〜〜〜〜



「はぁ〜」


(終わった……)


 俺は家に帰り、即座に【リカバリー】で一日の疲れを癒してベッドに寝転んだ。


(さっき明らかになった最後のクエスト……)


『メインクエスト:北区統一に向けて』

『達成条件1:北区会談に出席する 1/1』

『達成条件2:交流戦で勝利する 1/1』

『達成条件3:北部・西部・南部のいずれかを攻撃する 1/1』

『達成条件4:太牧幹夫と戦う 0/1』

『報酬:URスキル』


(どういうことだ? 太牧幹夫って誰だよ)


 にしても、URスキルか……


(前回のURスキルは【観察眼】だった。戦闘スキルじゃなくてガッカリしたけどかなり有用なスキルだったし、次は何が出るのか楽しみだ)


 俺は次のURスキルを想像し、口がニヤける。


(どうせなら戦闘スキルがいいな)


 日常スキルが1番欲しいが、今はメインクエスト的に喧嘩ばかりする羽目になっている。


 なら、戦闘に使える強力なスキルがあれば、これからのスキル集めに役立つだろう。


(【狐拳】……思ってたほどの威力は無かったな)


 SSRのスキルだから期待していたんだが、【三日月蹴り】の方が威力が高そうだぞ?


「なんというか、スキルにしても動きづらいんだよな」


 三日月蹴りやサマーソルトは『スキル』として体が動くけど、狐拳はなんと言うか、しっくり来ないんだよな。


 俺と相性が悪いとか?


 ……そんなことないよな?


(素早さが高いと威力が上がるって書いてるけど……素早さも力も同じだもんな、俺)


神楽かぐら じん

『175cm』『58kg』

『力   C−

 俊敏  C−

 知力  D−

 耐久力 D 』


 ……あれ?

 待てよ?


 俺はハッとして【狐拳】のスキル詳細を開いた。


【狐拳】

空手の狐拳を使うことが出来る。

(俊敏の値によって威力上昇)


「これもしかして……“素早さ参照”じゃなくて素早さ分威力が増すのか!」


 じゃあ威力2倍ってことか……!?


(……いや、そんなに強くなかったような)


 俺は何度もスキルを眺める。



 ある日突然授かった、この力。クエスト。


 いつの日か、ある日突然この力が消失してしまったら?


 それが怖くて、毎晩不安になってしまう。


(俺の人生がこんなに変わるなんて、思いもしなかったもんな──)


 だから、メインクエストを失敗する訳にはいかない。


 憧れの青春を、手に入れるために────






──────────


北部の幹部、太牧幹夫。

仁は報酬のURスキルに目を輝かせるが……!?


次回『初めての敗北』


少しでも面白い、続きが気になる、と思った人はフォロー、及び最新話か目次の下部より★★★をポチッとお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る