第10話 北区統一に向けて


『メインクエストが開始しました!』


「ふぁっ?」


 そのメッセージに、俺は目を覚ました。


(やべ……古文の授業中だったわ)


 周りからの視線を感じる。

 顔を上げると、丁度先生と目が合ってしまった。


 だが、先生は焦ったように目を逸らすと、何事も無かったかのように授業を再開した。


(……そういえば、先生も鮫島にはビビってたもんな)


 あの日、鮫島を止めようともしなかったことから、先生達もビビっていることが分かった。


 そんな鮫島を俺が倒したから、俺にビビってるんだろうか?


(そういや、提出物忘れた時も反応が違ったな)


 俺は今朝の数学の時間を思い出す。


『問題集ノートを忘れてしまいました』

『はい。誰……あっ』


 俺が職員室に行くと、数学の先生が慌てたように両手を振った。


『いやいや、いいのよ。テストまでに持ってきてくれたら、成績つけられるから、ね? また持ってきてね』

『えっ? あ、はい……失礼します』


 だからか?


(つまりこれは……これからは授業中寝放題ってことか!)


 いや、ダメだけどな。

 テストで死ぬ。


 そういえば、鮫島はもう学校に来ていないそうだ。

 下級生や先生の前で俺に倒されたからな。今まで威張ってきた分、来づらいんだろう。


(しかし古文は訳分からん……英語程じゃないけど、つまらん……)


 ただ、最近俺はハマっていることがある。

 それは──!!


(へへ……集まってきたなぁ、スキル)


 持っているスキルを確認することだ!


 何度見返してもニヤニヤしてしまう。


♢所持スキル♢


攻撃スキル

SSR:【狐拳】

SR:【三日月蹴り】【サマーソルト】【踵落とし】


補助スキル

UR:【観察眼】

SSR:【決戦の時間】【クリティカルマスター】

SR:【リカバリー】


日常スキル

SSR:【鷹の目】【見下ろし】【思考加速】

R:【ドライブ】【砲丸投げ】



 数が10になった頃から、種類別に分けられるようになっていた。

 これに加えて、【力の目覚め】とかのスキルがある時は“消費スキル”という項目に分類される。


(あ……こんなの来てたな)


 俺は欠伸を噛み殺し、クエストウィンドウを開いた。


『メインクエスト:北区統一に向けて』

『達成条件1:北区会談に出席する』

『達成条件2:???』

『達成条件3:???』

『達成条件4:???』

『条件1報酬:Rスキル、SRスキル』


(北区会談……?)



〜〜〜〜〜



「北区会談ですか?」


「ああ。いつあるんだ?」


 放課後。

 俺は田村に、北区会談について聞いてみた。


「もう聞いていたんですね、ヘッド。来週火曜に、北区の四勢力の長が集まる会談が開かれます」


 来週火曜……5日後か?


「他の四校って?」


「説明しましょう」


 田村は咳払いして、ホワイトボードに特徴を書き出した。


「まずは北区の北部を支配している松陽高校です。最も支配地が多く北区を統一するのに最大の障壁となるでしょう」


『そこのNo.1は白井しらいはく。まぁ、ボスの次に俺たちを苦しめた奴だ』


 伊達が言うには、その時も曽我を雇って戦ったが、相当に苦労したそうだ。


「次に、西部を支配している竹青高校。我々北区の中では中程の勢力に位置します」


『No.1は珍しくも女で、三田みたかえでという名前だ。だが、単体戦力は北部の白井よりもやや高く感じた』


 ただし、配下がかなり少ないようで、何とか撃退出来たらしい。


「そして、南部を支配しているのは梅陰高校、うちを除けば最も勢力が小さく、中央区に面していることから苦労が耐えないようです」


『No.1は清水しみず武尊たける。まぁ、三地区で最も弱いが……奴の領地は中央区に面してる。万が一を考えるなら、最後に狙った方がいい』


「最後が、俺たちの東部です。客観的に見れば最も領地が少なく人も少ないですが……ヘッドがいます!」


「……てか、三地区とも伊達に負けて撤退したんだろ? じゃあうちの方が強いんじゃ……」


 最後の妄言は放っておいても、三地区は伊達を引き入れようとして失敗してるんだよな?


 あんまり強くないんじゃ……


『いや、それは違う。確かにボスはかなり強いが……奴らも同等以上に強い可能性がある。と言っても、奴らは互いに牽制する仲。大軍を動かすと余計な面倒を引きおこすから少数で来たんだ』


 なるほどな……うちは鮫島が地区制覇を目指す気が無かったから、大きな争いは起きなかった。

 でも、地区制覇を狙う他の三地区は互いに牽制し合う仲だと。


『他の奴らは幹部一、二人と配下十数人だったからなんとかなったんだ。唯一、三田みただけが1人で乗り込んできたが……あいつ一人に相当消耗させられた』


 三田みたかえで……西部を支配してる、この県全体で見ても唯一の女番長だっけか?


「とにかく、北区のNo.1四人が全員一堂に会するのが北区会談です。前任の鮫島も北区会談では縮こまっていたとか」


 ふむ……


 俺は目の前のクエストウィンドウを見つめ、考え込む。


『メインクエスト:北区統一に向けて』

『達成条件1:北区会談に出席する』

『達成条件2:???』

『達成条件3:???』

『達成条件4:???』

『条件1報酬:Rスキル、SRスキル』


(報酬がRとSR1つずつだけとは言え、行くだけのクエストなのにどうして今出てきたんだ?)


 今までのクエストは全て直前、もしくは直近の制限時間付きだった。


 なのに、どうしてここで五日もくれたんだ?


(それに、内容不明の残る三つのクエスト……)


 これは恐らく、準備をしろってことだな?


「……よく分かった」


「ヘッド! ですがヘッドは違います! 奴らに一発かましてやりましょう!」


 ああ……一発かましてやるとも。


(待ってろ、サブクエスト!!)


 五日後。


 それまでに、俺はもっと沢山のスキルを手に入れてやる!!



〜〜〜〜〜



「ヘッド。どうやら東部のNo.1が変わったようです」


「ん? 確かあそこは……鮫島とか言うやつが仕切ってなかったか?」


「はい。二年生の神楽かぐらじんという男に負けたようです」


 報告を受けた北部のNo.1、白井しらいはくはそれを鼻で笑う。


「ハッ……弱いとは思っていたがまさか二年に負けるほどとはな。それに聞いたことの無い名前だ。ぽっと出のやつだろう」


「いずれにせよ、五日後の会談で出会うでしょう。その時に分からせてやりますか?」


 その問いに、白井は首を振った。


「いや、会談ではお互い手出しは無し、話し合いで終わらせようという決まりがあるだろう。西部も南部も来るのに、先にルールを破る訳にはいかない」


「では、こうするのはどうでしょう」


 囁かれたその言葉に、白井はニヤリと笑い頷いた。


「なるほど……やってみるか」



〜〜〜〜〜



姐御あねご!!」


「……ん? どーした、賢吾けんご


「大変でさ! 東部の鮫島が二年の奴に負けて、トップが交代しやした!」


「鮫島といえば……確か、東部のNo.1か。いっつも縮こまってなーんも喋らん奴! じゃあ二年って、下級生っしょ? ださ〜」


 西部の駄菓子屋にて。

 西部のNo.1である三田みたかえでのことを姐御と呼ぶ男子生徒が、そう告げた。


「あれ? っことは──」


「はい。その神楽かぐらじんっつーやつが五日後の会談には来やす!」


 男子生徒のその言葉に、三田は数度、軽く頷いた。


「ふーん……どうせならイケメンだったらいいな〜……それなら引き抜くのに」


「姐御!?」


(東部に新トップね……一体どこからそんな奴が出てきたんだろ?)



〜〜〜〜〜



「リーダー! 東部のトップが変わりました!」


「ひっ! と、東部……?」


 暗い暗い部屋の隅。

 深いくまにボサボサの髪を携えた男……南区No.1、清水武尊しみずたけるは髪を掻き毟った。


「なんでだよ……めんどくさいな……中央区かと思っただろ……」


「リーダー、どうします?」


「どうするもなにも……所詮東部だろ……? ほっとけ……そんな程度のことで大きな声を出すな!」


 報告の言葉に、清水は癇癪を起こし叫んだ。


「はい。失礼します」


(またかよ……)


 いつもリーダーは、挙動不審で癇癪ばかり起こしている。

 中央区の圧に晒され続けて来たからだろうか……


 そのくせ俺たちの中で1番強いからタチが悪い。


(全く……いつになったら立派なリーダーになられるのか……)


 清水に報告を上げた南部の参謀は、今日も気苦労にため息を吐いた。






──────────


それぞれ勢力を展開する3人の番長と仁。

その会合はすぐそこ──!


次回『北区会談』


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