第9話 伊達裕也
『メインクエスト:参謀の獲得』
『伊達祐也を仲間にする 1/1』
『SSRスキル【狐拳】を獲得しました!』
「降参します」
「はっ?」
『三日月蹴りがキャンセルされました』
降参……?
俺は一瞬意味が分からず、立ち尽くした。
「や……やりましたね! ヘッド!」
田村のその言葉に、俺はハッとする。
「やった……のか?」
「はい!! まさかヤクザまで倒すとは……流石ヘッド!」
「仁、大丈夫か!?」
「うおっ! 泣くな! 気持ち悪い!!」
「……」
そこに、一年と伊達の配下たちがやって来た。
「伊達さん! 侵入者を排除しました──え?」
「「「ヘッド!!」」」
「お前たち……もういい。終わったんだ」
伊達の言葉は、この場に集まった皆の疑問の答えだった。
「う、うおおおおおお!!」
「そんな……!!」
反応は正反対。
伊達の配下たちは皆、歯を食いしばって拳を震わせていた。
(……忠誠心が高いな。これが田村の言う金の力なのか?)
あ、そうだ。今獲得したスキル……
【狐拳】
空手の狐拳を使うことが出来る。
(俊敏の値によって威力上昇)
「やった……!」
やったぞ……SSRの戦闘スキルだ!!
「よっ……しゃぁぁ!!」
「「「うおおおおお!!」」」
「あっ……」
思わず叫んだ俺に一年生達が勘違いし、勝利の雄叫びをあげた。
(ま、まぁいいや……それより……)
「それで……俺をどうするんだ?」
俺は再度、伊達の能力値を確認した。
『
『167cm』『55kg』
『力 E
俊敏 F
知力 S+
耐久力 F』
(改めて見てもとんでもないステータスだ)
知力以外はほとんど最下級だが、知力がずば抜けている。
下手したらMAXなんじゃないか?
SSとかSSSがあるなら別だけど……
「伊達。お前には、俺の仲間になって欲しい」
「……仲間だと?」
俺の言葉に、伊達は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「俺は誰にもこの事業を奪わせない。お前の下につくと思えば大違いだ」
「な……お前……!!」
激高する田村を手で制し、俺は冷静に口を開いた。
「……で?」
「俺はお前の配下になんかならないってことだ」
なるほど。
そう来たか?
(だが──)
「何か勘違いしてないか? 俺たちの目的は金じゃない」
「だから、俺はお前らに──え?」
これには伊達も予想外だったのか、間の抜けた声をあげた。
「なんだと?」
「俺が欲しいのは──伊達。お前だ」
「「「!!」」」
「なっ──」
「いけません! ヘッド! 勝者が金を取る事は当然の権利です! このチャンスを逃しては──」
「何言ってんだ。俺は参謀を探しに来たんだ。俺たちを支えてくれる……俺の目標を共に歩んでくれる、仲間を探しに来たんだ」
俺の言葉に、田村は困惑した様子で叫んだ。
「で、では、上納金の代案はどうするのですか!? 上納金を取らないと決めたのはヘッドですよ!?」
知ってるさ。
そして、会議ではその変わりの資金調達法を決めようとし、参謀不足と併せて一石二鳥という形で伊達を狙ったのだから。
(でも、俺には見えてるんだよ)
そう──既にクエストはクリアになってんだ。
「なに……?」
(上納金が無いだと……? そんな派閥聞いたことないぞ!? 何を考えてる!?)
「お前……」
「伊達に教えてもらえばいいだろ」
俺は伊達を指さし、そう言った。
「「「えっ??」」」
「経営の天才がここにいるじゃないか。教えて貰って俺達も始めればいい。いいだろ?」
「……」
伊達は口を開け、目を瞬かせた。
伊達は賢いし、理解しているだろう。
ちょっと教えたところで経営の方法なんか身につけられるはずがない。
俺が、皆を納得させるために言っていることに。
「な、なるほど!」
「俺たちで事業を始めるってことですね!?」
「それはいい! その方がいいぞ!」
予想通り、知力の能力値がD+以下の一年達と高梨は、ものの見事に納得している。
田村だけは知力が高いが、田村は俺の決定だと念を押せば納得するはずだ。
……多分。
「伊達。俺達にはお前が必要だ。クラブやお前が貯めてきた金には手を出さない。クラブの所有権なんか貰ってもすぐ潰すだけだし、今まで通り自由にやっていてくれ」
俺の言葉に、伊達の配下たちもヒソヒソと話し始めた。
「おい……どうなってるんだ?」
「伊達さんが負けて俺たちは終わったのかと……」
「伊達さんの金と俺たちの店を奪いに来たんじゃ無かったのか……?」
「だから──」
俺は、膝を着いたまま呆然としている伊達に向かって、手を伸ばす。
「俺の仲間になってくれないか?」
「……チッ」
伊達は舌打ちすると、軽くため息を吐く。
「……ガッカリさせるなよ?」
伊達は俺の手をとると、立ち上がってそのまま握手した。
「手伝ってやりますよ、その目標……ボス」
〜〜〜〜〜
「ヘッド!! かの難攻不落と言われた伊達祐也の引き抜き成功、おめでとうございます!!」
「「「おめでとうございます!!」」」
「お疲れ様です!!」
「「「お疲れ様です!!」」」
「お前ら、次廊下で礼したらまじで捨てるからな」
最近はずっとこうだ。
『私……不良は嫌いなの』
滝川さんはあの時、そう言っていた。
まぁ、ただのそれらしい断り文句だったかもしれないけど……
確かに、不良は嫌だよなって俺も思う。
でも、このクエストとやらは俺に夢を見せてくれる変わりに、どうにかして平穏な日常を危険に晒そうとしてくるから……
(メインクエストを辞める訳にはいかない。クエストの力が無ければ、望みは一欠片もないんだから)
クエストがなけりゃ俺はただの陰キャだ。
不良になりたくなくても、今はクエストが示すまま喧嘩をするしかない。
「ヘッド。昨晩はお疲れ様でした」
「お、ヘッド! 早速伊達から連絡来てるぜ!」
会議室に入ると、田村と高梨が既に中に居た。
高梨に敬語を使われるとなんというか気持ち悪かったので、既に敬語は使うなと言ってある。
『リーダー。聞こえるか?』
「聞こえてる聞こえてる。じゃ、とりあえず今日の会議始めようか」
伊達は普段クラブにおり、俺たちが学校にいる間はパソコンで連絡を取り合うようにしている。
「はい。ではまず資金の工面ですが……」
『それは考えてある』
田村の言葉に、伊達が返す。
『とりあえず、ボス。上納金はやはり必須だ』
「だが……」
『だから、取る場所を工夫しよう』
伊達は興奮すると敬語が無くなる。
既に仲間だから敬語は無しと言っているが、最初は堅苦しくて困った。
敬語もめちゃくちゃ上手いからな。伊達。
『具体的には、仲間の中で下級構成員の奴らから少量ずつ取るんだ。不良以外から取ればカツアゲだが、仲間内なら問題ないだろう』
「なるほど……会員料のようなもんか」
確かに……その発想は無かったな。
だが、それは結局……
『今は人数も少ないし派閥が小さい。だが、ボスが言う通り本当に北区を制覇したなら……更に勢力を広げることがあれば、必然と下級構成員は増えるし、派閥に入ることに価値が生じてくるだろう』
「……俺が価値を、上げればいいのか」
成程。
人数や規模が増えてくれば、戦闘に出ないような奴も所属したいと言い出すかもしれない。
巨大な勢力にいれば、それだけで身を守ることが出来るからな。
そんな奴から、入会料をとって他の戦闘員に回す……ってことか。
『……成長するまでの支給金は俺が出そう。投資だと思うことにするよ』
「……! 本当ですか!?」
伊達の思わぬ言葉に、田村は立ち上がった。
田村だけはこの資金難な状況を理解していたからな。
「伊達……ありがとう」
『……ボスもしっかり成果だせよ。まぁ、ボス程強ければ大丈夫だろう。じゃあ、またな』
そう言って、伊達は通話を切った。
(まぁ、今はクエストも出てないししばらくは平和に過ごせるだろう)
だがクエストは、こんな時突然現れるのだ──
〜〜〜〜〜
春蘭高校No.3:
『167cm』『55kg』
『力 E
俊敏 F
知力 S+
耐久力 F』
〜〜〜〜〜
──────────
参謀を手に入れた仁。
SSRスキル【狐拳】も手に入れ、遂にメインクエストが始動する……!
次回『北区統一に向けて』
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