第6話 集まるスキル


「俺、不良、やめる……」


「おい、仁、落ち着け……」


 翌日。

 俺は会議室の机に突っ伏して、脱力していた。


「ヘッド、どうしたんだ?」

「なんか、フラれたって聞いたけど……」

「ここは俺たちが励ますべきなのか?」


 後輩たちがヒソヒソ話してるけど、全部聞こえてる。


 ……というか、その噂校内に出回ったりしてないよな?


(いや……ほんと、なんで昨日いけると思ったんだ?)


 高梨を、鮫島を倒して……調子に乗ってたというか、多分アドレナリン的な何かが出てたんだと思う。


 喧嘩なんて人生でほぼしたこと無かったわけだし……そうに違いない。


 だいたい、滝川さんとはまだ全然話したことなかっただろ……!


(あぁぁぁぁ……穴があったら入りたい)


「ヘッド……俺がなんとしてもその女性を……」


「頼むから何もするな。殺すぞ」


「はい!!」


(だいたい、何するつもりだよ……絶対に名前、教えねぇからな)


「はぁぁぁぁ……」


「な、仁? 元気だせって……ほらほら……」


「そんなこと言ったって……」


『メインクエストが開始しました!』


 その時。

 机に伏せていた俺の目先に、クエストウィンドウが出現した。


「!!」


『メインクエスト:春蘭高校の掌握』

『達成条件1:一年生を掌握する 15/15』

『達成条件2:二年生を掌握する 0/1』

『達成条件3:???』

『条件2報酬:Rスキル、SRスキル』


(これ……!)


「仁? どうしたんだ、机を見つめて」


「ヘッド……あぁ……ご傷心になられて……」


 どういうことだ?

 二年が一人ってことか?


 それはおかしい。


 高梨が二年では目立ちすぎてただけで、二年にも一年ほどじゃなくとも不良勢力がいたはず。


(これは一人仲間にすればいいってことか? それとも……一人しか残ってないってことか?)


 俺と同級生なら今までの俺も知ってるだろうし、陰キャの下になんかつきたくない! とかいうことか?


 ……それならそれで悲しいな。まぁいいけど。


 俺が頭を悩ませていると、勢いよく会議室のドアが開き、一人の男が現れた。


「はぁ、はぁ……ちわっす!」


「?」


「……!?」


 そこにいたのは、予想外の人物だった。


「……! 高梨先輩! ちわっす!」


「高梨……!?」


 現れたのは、高梨颯太、その人だった。


 高梨は俺を見るとずかずかと近づいてきて──


「ヘッド! お疲れ様です!」


 腰を90度に曲げた。


「はっ……えっ?」


「……どういうことだ?」


 隣にいる涼人も困惑している。


「鮫島先輩を倒すなんて凄いな!? そんなに強いとは思ってなかったぜ!」


「ちょ、仁……こいつ……」


 俺は涼人の前に腕を伸ばし、高梨を睨んだ。


「……で?」


「鮫島先輩は正直、北区を制覇するとは言いつつもずっと言い訳して先延ばしにしててさ……なのにお前って、度胸もあるんだな! びっくりしたぜ!」


(こいつ……こんな図太い奴だったのか?)


 というか、つまり鮫島はビビって北区制覇に乗り出さなかったけど、高梨はやりたくて、やると乗り出した俺についてくる……ってことか?


「お前……調子が良すぎだろ!」


「最低だな……」


「分かってる! だけど……俺も地区制覇は成し遂げたいと思ってたんだ!」


 涼人の言葉に、高梨は両手を合わせて懇願した。


「俺たちの世界じゃ上下関係は絶対……好きに俺を使ってくれて構わない! 頼む! 俺もお前の野望の仲間に入れてくれ!」


「お前……!」


「分かった」


「!!」


「仁……!?」


 俺の言葉に、涼人は驚き高梨は顔を輝かせた。


(すまん……涼人)


 どういうことかは分からないが、0/1な以上こいつを仲間にするしかないんだ。


「……ただ、涼人には謝れよ」


「ああ! 勿論だ! 済まなかった!! 涼人の兄貴!!」


「あ、兄貴……?」


『メインクエストをクリアしました!』

『メインクエスト:春蘭高校の掌握』

『達成条件1:一年生を掌握する 15/15』

『達成条件2:二年生を掌握する 1/1』

『達成条件3:???』

『Rスキル【力の目覚め】SRスキル【踵落とし】を獲得しました!』


 満更でもなさげな涼人を尻目に、俺は報酬を確認する。


【踵落とし】

踵落としを使用することが出来る。


【力の目覚め】

仲間一人の力を1段階上げる。(使い切り)


(これは……!)


 力を1段階上げる……!?

 使い切りの強化スキル……


(まるでアイテムみたいだな)


 やっぱりレベルアップして能力値を上げるというより、クエストをやれってことか?


 俺は顕になった最後の条件を睨む。


『達成条件3:幹部を作る 0/5』

『報酬:SSRスキル』


「……ヘッド。俺たちにとって序列というのは大事です。支給される金も変わってきますし……」


「……そうだな。今から序列を決める!」


「「「うおおおおおお!!」」」


 俺の言葉に、全員が雄叫びをあげた。


「だが! 今は参謀を迎えなければならない上に仲間同士で争っている余裕が無い! 故に、暫定的にだが俺が決めさせてもらう!」


 春蘭高校No1:神楽かぐらじん(俺)

 No2:水霧みなぎり涼人りょうと

 No3:高梨たかなし颯太そうた

 No4:田村たむら正典まさのり

 No5:岡村おかむらつづき


「ヘッド! 何故No5までなのですか!?」


「何故岡村がNo5に!?」


(なんでって、クエストが5番まで決めろって言ってるからだよ)


 岡村とは、最初に田村の後ろにいて挨拶してきた一年のことだ。

 能力値も平凡なレベルだったが、誰でもよかったので入れておいた。


「さっきも言った通り、参謀を引き入れる必要があるからだ! 今は序列を気にする必要はない! 参謀を引き入れた後で改めて決めようじゃないか!」


『メインクエストをクリアしました!』


 そのメッセージに、俺はニヤリと笑う。


『メインクエスト:春蘭高校の掌握』

『達成条件1:一年生を掌握する 15/15』

『達成条件2:二年生を掌握する 1/1』

『達成条件3:幹部を作る 5/5』

『メインクエスト:春蘭高校の掌握をクリアしました!』

『SSRスキル【クリティカルマスター】を獲得しました!』


【クリティカルマスター】

攻撃が無防備及び実力差のある相手に命中した際、クリティカルダメージが発生してさらに大きなダメージを与える。


 まじか……!


 これからは上手く攻撃すればクリティカルヒットになるってわけか?


(更に三日月蹴りとサマーソルトが強くなりそうだな)


『あなたの元に仲間が集まりました!』

『メインクエスト、サブクエストに続きこれからは育成クエストが出現します!』

『今後はより多くのスキルを獲得できます!』


「……って今、金って言ったか?」


「はいヘッド。ヘッドには毎日約2万円の上納金をお渡ししています」


「そしてこれは、ヘッドの就任祝いです」


 渡された封筒を開けてみれば、そこには5万が入っていた。


(まじかよっ……!?)


「へへ……張り切って集めさせて来ましたよ」


「なるほど……」


 毎日二万も貰えるってことか……!?

 すげぇな、No.1……!


『私……不良は嫌いなの』


「……」


「ヘッド?」


 不意に、昨日の滝川さんの言葉が浮かんだ。


 あれはただの断り文句に過ぎなかったんだろうけど……でも……


俺らみたいな奴ら陰キャ達から金を集めて、奪って……彼女に堂々と出来るか?)


「も、もしかして足りませんでしたか!」


「流石はヘッドの器です! 今すぐに集め直して来ます!!」


「……返してこい」


「「……え?」」


「返してこい。うちは上納金を集めることを禁止する」


「「ええ!?」」


 俺の言葉に、田村達一年と高梨は驚きの声をあげる。


「仁……」


「俺は誰かから金を奪う様なことはしない。絶対に」


 そうだ……このメインクエストさえ終わらせれば、喧嘩とはおさらばできる。


 そして、改めて彼女に告白するんだ。


(いつか、付き合える日を夢見て……!)



〜〜〜〜〜



「で……春蘭のNo.1が変わったって?」


「はい。前No.1は叩きのめしてやりましたが、新No.1はまだ我々の力を知りません。資金調達のために我々を襲うでしょう」


「そうか……偵察ご苦労」


 男はそう言って、報告者に封筒を差し出した。


「……! ありがとうございます……!」


 報告者はそれを胸元にしまうと、ウキウキで部屋を退室ていく。


「春蘭に新No.1か……」


(鮫島はそこそこ強かった……が、所詮はそこそこ。あいつがトップの高校なんてたかが知れてると思ったが……)


 突然あいつが負けたとは、一体何があったんだ?


「まぁ、誰であろうと……俺の事業は奪わせない」


 男はメガネを押し上げると、パソコンに向かい直したのだった。






──────────


参謀の居ない仁達は、かつて鮫島や他校の番長が仲間にしようとするも手に入れられなかった天才を迎え入れようと画策する!


次回『参謀の獲得』


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