第5話 【観察眼】と失恋
「整列!! 敬礼ー!!」
「「「
廊下の両端に、10人以上の後輩たちが整列して、一斉に頭を下げた。
「ああ、うん……ありがとう……」
(どうしてこうなった……)
何故こうなったかと言えば、昨日の鮫島を倒した所から語らないといけない──
〜〜〜〜〜
「「「神楽が鮫島先輩を倒した!!」」」
『URスキル【観察眼】を獲得しました!』
「仁……!?」
「嘘だろ……あの神楽が!?」
「あいつそんなに強かったのか!?」
「陰キャだと思ってたのに……」
手に入れたぞ……
SSRより上のスキル!
【観察眼】
自分以外のステータスが見える
(これが……SSRより上のスキル?)
俺は試しに、呆然と俺を見上げる涼人のステータスを見てみた。
『
『167cm』『63kg』
『力 D+
俊敏 E
知力 D
耐久力 D+』
ほんとだ……!
(これは確かにすごい……!)
これからは相手のステータスを見て強さを推測できるってことだろ?
じゃあ無理な戦いを避けられるかもしれない!
……というか正直、もう戦いとか嫌だけど。
【リカバリー】で回復出来るとはいえ痛いのは変わりないからな……
(だが、どうしても物申したいことがある!)
涼人……
こいつの知力が俺より高いって、どういうことだ!!
(嘘だろ……テストはほとんど同じ点数のはずなのに……)
「……ほら」
俺は涼人に手を貸して起き上がらせる。
「サンキュ……ってか、どうなってるんだ!? 鮫島先輩を倒すなんて!」
「ああいや……たまたま?」
「んなわけないだろ! どうなってるんだ!?」
俺は鮫島の能力を確認してみた。
『
『180cm』『75kg』
『力 C+
俊敏 C
知力 D−
耐久力 C−』
……この能力値の相手に勝てたのも、【決戦の時間】と【リカバリー】のおかげだ。
ランク以上に強いだろうこの二つがあったおかげで、油断した鮫島を畳み掛けることが出来た。
……運が良かったとしか言えないな。
(でもこれで、最高の学校生活が送れるはずだ……!)
その時、俺はそう楽観的に考えていた。
昼休み。
「先輩、お疲れ様です!」
「えっ……?」
トイレに行こうと教室を出た瞬間、廊下で待っていた一人の男子に捕まった。
「えっと……誰?」
俺の質問に、その男子は腰を90度に曲げてお辞儀をした。
「一年B組、
「「おめでとうございます!!」」
その後輩の言葉に、残る二人の後輩もお辞儀する。
「お、おい! やめろよ! 皆見てるだろ!?」
「あの鮫島先輩をぶちのめした話は聞きました!」
「あなたこそがこの学校を率いるに相応しい人です!」
「共にこの地区を束ねてやりましょう!」
やめさせようとするが、後輩達は聞く耳を持たない。
そうしている間にも、通りがかった同級生達がなんだなんだと話しているのが聞こえる。
「お、おい、あいつって……」
「しっ! 指さすなよ……鮫島先輩をも叩きのめした達人だぞ! 目付けられたら何されるか……!」
「元々陰キャだったとかいう噂だけど本当?」
「力ずくでうちらの体狙ってくるとかないよね……」
「目つけられない方がいいよ……」
……全部聞こえてる。
「……先輩。あのアマ共を分からせて来ましょうか?」
「頼むから何もするな! 今どっからその棒だした!?」
木の棍棒を手に持って凄む田村を止めさせ、俺はため息をついた。
「とにかく! 俺は喧嘩とかもうしねぇから!」
「そんな……北区統一の野望は!?」
「そんな野望を抱いた覚えはねぇ!」
そんな時だった。
あの画面が再び現れたのは。
『メインクエストが開始しました!』
『メインクエスト:春蘭高校の掌握』
『達成条件1:一年生を掌握する 0/15』
『達成条件2:???』
『達成条件3:???』
『条件1報酬:Rスキルⅹ2』
「……」
『メインクエストに失敗又は辞退すると全ての能力値とスキル効果は永久に失われます』
スキルが失われたら……
(リア充ライフなんて、夢のまた夢だ)
くそ……俺はスキルを集めて、文武両道、モテモテの学校生活を送りたいんだ……!
「あぁ……しかし、俺たちは諦めませんよ! 何度でも先輩を説得してみせ──」
「……やろう」
「──はい!?」
バッ! と顔を上げた田村に背を向け、俺は乾いた声で呟いた。
「今からこの高校は、俺のものだ」
「おぉ……! ヘッド!!」
ちくしょう。
『クエストをクリアしました!』
『Rスキル【ドライブ】【砲丸投げ】を獲得しました!』
【ドライブ】
卓球のドライブを使用出来る
【砲丸投げ】
砲丸投げの飛距離が最大になる
あぁ……こうなる運命だったのか……
俺は天を仰いで、ため息を吐いた。
〜〜〜〜〜
「先輩! こちらに!」
「ヘッドとお呼びするんだ!」
「ヘッド! お荷物お持ちいたします!」
「要らねぇよ! てか弁当しか持ってねぇだろ!?」
「仁……本当に大丈夫なのか……?」
そうして昼休み。
何やら一年を束ねてるらしい田村に案内され、俺たちは昼飯を持って会議室に来ていた。
不良に占拠されてんのか、この高校の会議室。
「それでは! 新ヘッド第一回、北区制覇のための会議を始めます!」
「……なぁ、毎日こんな感じだったのか?」
「はい。まぁ前ヘッドは面倒くさがっていましたが……」
近くの一年に聞くと、キビキビと背筋を正して答えてくれた。
「そこ! ヘッドはただ一人! 神楽先輩だけだ! 鮫島先輩のことをヘッドと呼ぶな!」
「す、すみません!」
「……なぁ、こいつら同学年だよな?」
「……不良社会は上下関係がって言うからな……俺もマジかよって感じだけど」
「まず、やらねばいけないことがあります!!」
涼人とコソコソ言っていると、田村はバシンッ! とどこからか取り出した指し棒で、備え付けのホワイトボードを叩いた。
「何をするんだ?」
「我々には参謀がいません! これは言わば領地争奪戦……戦争なのです! つまり参謀がいないのは由々しき事態……」
「今までは比較的賢い田村が作戦を立てていましたが、前ヘッド……いや、鮫島先輩はいつもビビって他校には攻め入りませんでした」
「ヘッドがやる気でいてくれて感激です! ですが、だからこそ本格的に動くためには参謀が必要です!」
はぁ? 参謀?
高校生の喧嘩で何言ってんだか……
てか、田村って賢いのか?
俺は【観察眼】で田村のステータスを見てみた。
『
『169cm』『68kg』
『力 D+
俊敏 D
知力 B−
耐久力 E』
「うわっ……賢い」
「はい? そうです、賢い参謀が必要なのです! なので狙い所があるのですが──」
しかし、俺は話の内容が入らなくなってきていた。
今日の放課後、決めていたからだ。
(滝川さんに告白する……!)
【再誕】
全身の皮膚や歯、臭い等を清潔にする(使い切り)
これを使用する……!
鮫島を倒して、学校内では少なくとも平穏な日常がおくれるはず。
自信がついた俺は、放課後に滝川さんに告白することを決めたのだ。
「先輩? 聞いてますか??」
俺は早鐘打ち出した心臓に手を当て、深呼吸した。
〜〜〜〜〜
(今なら……!)
放課後、俺は即座に【再誕】を使って、滝川さんを呼び出した。
ちょっと来て欲しいって言って呼んだんだけど、緊張する。
「それで……? 何の話?」
「その……つ、付き合ってください!!」
俺の言葉に、滝川さんは少しだけ目を丸くして、端的に答えた。
「……ごめんなさい」
「……!」
あまり驚いてはいないようだ。
まぁ、予想していたのかもしれない。
「……り、理由だけ聞いてもいいかな?」
「?」
俺が食い下がったのが予想外だったのか、滝川さんは今度こそ大きく目を見開いた。
そして……フっと笑って、呟いた。
「私……不良は嫌いなの」
──────────
メインクエストによって不良達の番長となってしまった仁。
そんな仁の言葉は、彼女に届かず……!?
次回『集まるスキル』
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