第4話 【決戦の時間】


『メインクエスト:胎動』

『達成条件1:高梨颯太から逃げる 1/1』

『達成条件2:高梨颯太を倒す 1/1』

『達成条件3:鮫島蓮斗を倒す 0/1』

『報酬:』


「そんな……鮫島先輩……!?」


(やっぱりこうなるよなぁ……)


 鮫島蓮斗。

 この春蘭高校の三年にして、学校中の不良を束ねる春蘭高校の王だ。


 教師でさえ、こいつには恐れて何も言えないはしい。


 それも当然……こいつには罪悪感も無い上、キックボクシングの地区大会で優勝した実力があるからな。


(なーんかクエストの履歴上、来そうだな……と感じてたけどまさか、今すぐとは)


 そんなこいつを倒せって……?


『報酬:URスキル』


「ハハ……マジかよ……!」


「おい、起きろ高梨」


「は、はい……っ!?」


「「「!!」」」


 鮫島は倒れ込む高梨の胸ぐらを掴みあげると、その頬にビンタした。


「うぐっ……!」


「金は朝までに持ってこいって言ったよな?」


「は、はいっ……」


「俺が優しさで一日待ってやったのに、このザマか? おい。お前は何のために生きてんだよ」


 自分の取り巻きの一員である高梨にすら、容赦のない暴力に、教室の生徒は揃って顔を逸らし、震え出した。


 この小さな学校において、鮫島は王なのだ。


「せ、先輩のためです!!」


「おぉそうかそうか、そりゃ上々」


 鮫島の言葉に、高梨はパッと視線をあげた。


「じゃあもう要らねぇから死ね」


「え──」


「「「!!」」」


 その瞬間、鮫島は高梨の顔面を叩きつけた。

 高梨は顔面から血を撒き散らし、気を失った。


(高梨が一撃で……)


「おい、そこのお前」


「えっ俺!?」


 鮫島が涼人を指さし、胸ぐらを掴みあげた。


「……!」


「口答えするな。殺すぞ」


「うっ……くっ……!!」


「こいつが俺に持ってくる手筈の2万、お前が払え」


「っ……!?」


 鮫島は涼人の首を絞める腕に力を入れると、ニヤリと笑う。


「高梨の代わりだ。今すぐ──」


『三日月蹴りを使用します』


「──!!」


(避けられた!?)


 背後から俺が攻撃した瞬間、鮫島は咄嗟に体を逸らして三日月蹴りを回避した。

 だが、涼人から手を離させることには成功した。


「ごほっ、ごほ……!」


「涼人……今すぐ逃げろ」


「え……?」


「ほぉ……お前だったか? 高梨を倒した奴は」


 三日月蹴りを避けた相手は初めてだ。


 今までとはレベルが違う。


「で、でも……!」


「もう始業のチャイムは鳴ってる。先生に言っても無駄だぞ」


「!!」


 そう、既にチャイムは鳴っているが、先生は廊下で右往左往しているだけで止める気がない。


 この化け物には、教師さえ逆らえないのだ。


「ハッ……よく分かってんじゃねぇか。丁度いい。だったらお前が──」


『三日月蹴りを使用します』


「──ッ!」


「くそ……!」


 不意打ちも通用しない。

 本当に俺はこいつに、勝てるのか……?


「お前……キックボクサーか?」


「!!」


 鮫島はコンコンとつま先を鳴らすと、拳を構えた。


「二年のくせに生意気だな。潰してやる」


「……っ!!」


『三日月蹴りを使用します』

『三日月蹴りを使用します』

『三日月蹴りを使用します』


 三日月蹴りを連発するも、その全てが避けられる。

 そして……


(クソっ……攻撃が当たらない……!)


「クソッ……!」


「……いい蹴りだ──が」


「カハッ!!」


「「「!!」」」


 一発。


「仁!!」


「お前は細すぎる。体も鍛えろ、三流が」


 たった一発のハイキックで、俺は吹き飛ばされた。


(力が入らない……!)


 一撃……

 それほど俺と鮫島やつの間には実力差があるのか。


「あいつ……何やってんだ?」

「なんで鮫島先輩に喧嘩売ったの?」

「頭おかしいんじゃない?」

「高梨倒して調子に乗ってるんじゃ?」


「グハッ!」


「……変な奴だな。蹴りは鋭いのに、歩き方も構えもめちゃくちゃだ」


 鮫島は俺の背を踏み潰すと、目線を外して涼人の方に向き直った。


「うっ……!」


「……さて、さっさと上納金を寄越して貰おうか、二年」


 鮫島が再び、涼人の胸ぐらを掴んだ──瞬間。


『三日月蹴りを使用します』


「ッ!?」


 俺の三日月蹴りが、鮫島の肝臓付近に直撃した。


「っ……お前、何故……!!」


「どうしてあんなに殴られたのに傷一つ無いのかって? 理由があるんだよ、バーカ」


 鮫島はバカな……と唖然とした表情で呟く。

 そう、起き上がった俺は無傷だったのだ。


 あざになったような頬も既に治っている。


 殴られてなんか無かったかのように、全快状態で放った三日月蹴りは、鮫島に確かなダメージを与えた。


『クエストをクリアしました!』

『不良三人を倒す 3/3』

『SSRスキル、SRスキルを獲得しました!』


「これって……?」


 あの時。

 俺は二つの有用なスキルを手に入れた。

 その内の一つが、これだ。


『SRスキル【リカバリー】を獲得しました!』


【リカバリー】

即座に全ての傷や疲れを取り除く

(一日一度使用可能)



(リカバリーを使ったら、三人との喧嘩の疲れはおろか古傷さえも完全に治った)


 正直、これはSSRなんじゃないか? と思うような、とんでもないスキルだ。

 一日に一度しか使えないのがたまにキズだが。


 そしてもう一つのスキルは──


「だが何度立ち上がろうが変わらん! お前のひよわな攻撃なんぞ──」


『三日月蹴りを使用します』


「──グハッ!?」


「「「!?」」」


 俺の蹴りが、鮫島のガードを突破してダメージを与えた。

 鮫島が、予想外の衝撃に片膝をつく。


「そうか?」


「お、お前……っ、何を……した……!?」


 あの時手に入れたもう一つの、SSRスキル──


【決戦の時間】

5秒間力と俊敏の能力値を4段階上昇させる。

(一日に一度使用可能)


『決戦の時間を使用します』


神楽かぐら じん

『175cm』『58kg』

『力   D  →C+

 俊敏  D+ →B−

 知力  D−

 耐久力 D   』


「5秒で終わらせてやる」


「きっさ……まぁ!!」


 鮫島が俺の頭目掛けてハイキックを放ってくるが、今の俺の目にはそれがしっかりと目に見えた。


『三日月蹴りを使用します』

『三日月蹴りを使用します』


「カッ……!?」


 突然増大した俺の力に、鮫島はたたらを踏んだ。


(まさか……力を隠していたのか!?)


「ぐっ……!! だが! 三日月蹴りしか出来んお前の相手など、肝臓さえ守れば──」


「誰が三日月蹴りしか出来ないって?」


「な──」


(飛んだ……!?)


 下段にガードを固めた鮫島に対し、俺は走り込み……飛び上がった。


(さっき高梨を倒して手に入れたSRスキル……!)


『クエストをクリアしました!』

『メインクエスト:胎動』

『達成条件1:高梨颯太から逃げる 1/1』

『達成条件2:高梨颯太を倒す 1/1』

『SSRスキル、SRスキルを獲得しました!』


『SSRスキル【思考加速】を獲得しました!』

『SRスキル【サマーソルト】を獲得しました!』


【サマーソルト】

サマーソルトを使うことが出来る。


『サマーソルトを使用します』


 力C+。

 俊敏B。


 瞬間的に増大したステータスが乗ったサマーソルトが、度重なる三日月蹴りの下段攻めによってガードを下に固めていた鮫島の顎に直撃した。


「「「……!!」」」


「……!?」


「ぐはっ……!!」


「終わりだ!!」


『鮫島蓮斗を倒す 1/1』


『クエストをクリアしました!』


『メインクエスト:胎動』

『達成条件1:高梨颯太から逃げる 1/1』

『達成条件2:高梨颯太を倒す 1/1』

『達成条件3:鮫島蓮斗を倒す 1/1』


『メインクエスト:胎動をクリアしました!』


『URスキル【観察眼】を獲得しました!』


「な……な……!」


「神楽が……」


「「「神楽が鮫島先輩を倒した!?」」」



〜〜〜〜〜



「隣のクラスが騒がしいわね! 何が起きてるのかしら!?」


 授業が始まるという時間なのに、隣のクラスが騒がしい。

 先生が廊下に出るのに続いて、クラスメイト達も続々と後をつけて廊下に出た。


「ちょ、ちょっと瑞樹!! あんたも来てよ!」


「……? 何よ……?」


「すごいんだって! ほら……!」


 直ぐに、廊下のざわつきが増す。

 興奮している親友の様子から、何かが起きていることが分かった。


 私は親友の果穂かほに掴まれ、渋々廊下に様子を伺いに行く。


 そして……思わぬものを目にすることになった。


(あれは……昨日の……?)


 三年、鮫島蓮斗。

 学校全体を取り仕切ってるとか言われてる有名な先輩で、うちの学校の番長らしい。


 先生ですら、そんな鮫島先輩を恐れ何も言えないこの校内で。


 昨日のあの人が、鮫島先輩の顎にバク転のような蹴り……? サマーソルトというやつ? を決めて彼を気絶させるところだった。


『滝川さん……早く逃げて』


 あの時は、頼りない……本当に大丈夫? と思ったけれど、面倒事は避けたかったしさっさと帰ってしまった……そんな彼が。


「……」


「瑞樹?」


 私はしばらく、傍らの男子生徒に手を貸す彼の背中を、見つめていた。






──────────


番長である鮫島先輩を倒した仁。

SSRを越えるスキル、URスキルの能力は……!?


次回『【観察眼】と失恋』


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