第3話 初喧嘩


『報酬:SSRスキル、SRスキル』


「かかってこいよ」


「お前……!」


 リーダーっぽい男が殴りかかってくる。


『三日月蹴りを使用します』


「ぐあっ!」


「ほら、どうした?」


 だが、俺はそれを大きく避けると三日月蹴りを使用してダメージを与える。


 使用して見た感じ、三日月蹴りだけでもかなり強い感じだけど……


(一撃では倒せないんだよな。やっぱ俺のステータスが低いからか?)


 というか、ステータスってどうやったら上がるんだ?


「喰らえ!」


「ぃっ!?」


 男の拳を顔面に受け、俺は後ずさる。


「う……痛てぇな!」


『三日月蹴りを使用します』


「ぐあぁ!!」


 中々簡単には倒れてくれない。

 右足左足と使用しても、ギリギリのところで直撃を避けられている感じというか……


「はぁ、はぁ、どうした? 終わりか?」


「はぁ、はぁ、そっちこそ、もう息切れしてやがるじゃねぇかよ!」


 く……体力のなさが恨めしい。

 体力がつくスキルとかないのか?


 いや、ダメだ。

 既にスキル中毒になってきてる。


(……運動しないとな)


『三日月蹴りを使用します』


「くそ……! ただ同じ蹴りしてるじゃねぇか! そんなもの……ガードすればいいだけ──」


『三日月蹴りを使用します』


「──ッ!!」


【三日月蹴り】

三日月蹴りを使うことが出来る。

(相手のガードを崩す)


 三日月蹴りとは、元来変則的な蹴り技でガードが難しいことで知られている。


 単純に腹部付近を腕で守ろうと、ガードを潜り抜けるように蹴りが突き刺さるのだ。


「終わりだ!」


『三日月蹴りを使用します』

『三日月蹴りを使用します』

『三日月蹴りを使用します』


「ぐぁ……っ!!」


『不良三人を倒す 3/3』

『サブクエストをクリアしました!』

『SSRスキル、SRスキルを獲得しました!』


「はぁ、はぁ……やった!」


 やってやったぞ!

 喧嘩なんてしたことも無かった俺が……!

 やってやった!!


「そうだ、スキルは!?」


 俺は獲得したスキルを見て、思わず息を呑んだ。


「これは──!!」


(これなら、もしかすると高梨にも……!)


『メインクエスト:胎動』

『達成条件1:高梨颯太から逃げる 1/1』

『達成条件2:高梨颯太を倒す 0/1』

『報酬:SSRスキル、SRスキル』


 先程こそ不意打ちを食らわせて逃げることが出来たが、明日怒り狂っているあいつと会うなんて考えたくもない……


 昨日までの俺なら、迷いなく学校を休んでいただろう。

 というか、クエストがなければあんなことしなかった。


「よし……待ってろよ高梨……!」


 そして待ってろよ、俺の逆転人生!!


 このクエストの力で、俺はリア充に成り上がる!


「明日が待ち遠しいぜ!」


 深夜の町中で、俺はそう叫んだ。



 因みにこの後、親にめちゃくちゃ怒られた。



〜〜〜〜〜



 次の日。


 俺が登校すると、教室がザワついていた。


「あ、あいつ……」


「まじ? 高梨を怒らせたのって……」


 ふむ……予想以上に広まってるのか。


「お、おい、仁! お前、どうしちまったんだよ……!」


「涼人、おはよう」


「ああ、おはよう……じゃねぇって!」


「オイ!」


 涼人がヒソヒソ声で話しかけて来たのを軽く流して、俺は声の主に振り返った。


 教室に入った瞬間から、立ち上がりこちらへ向かってくる人影は視界に捉えていたからな。


「……おはよう、高梨」


「ああ!? テメエ、舐めてんのか!」


 高梨は俺の頬を手のひらで叩き、胸ぐらを掴みあげた。


「よく学校に来れたもんだなぁ……テメェ、俺の事舐めてんだろ!」


「……ああ。それが?」


「テメ……ッ!」


 高梨は再び、手を振り上げる。


(我慢だ我慢……今教室で暴れる訳にはいかない。後で呼び出された時を狙って、あまり人目のつかないところで……)


 その時。

 叩かれると思って目を瞑った俺は、衝撃が来ないことに目を開き、固まった。


「やめろ!」


「あぁ?」


 涼人が、高梨の振り上げた手を掴んで止めていたのだ。


「やりすぎだろ……っ!」


「失せろ!!」


「グハッ!」


 高梨は、その手を振り払うと涼人に向かって殴りかかった。


「おい……調子乗ってんじゃねぇぞコラ! あぁ!?」


「ぐっ……うっ……!」


「……」


 涼人が殴られている。


「うわぁ……」

「あんなやつ庇ったから……」


「オイ! 見世物じゃねぇんだよ! 死にたくなかったら引っ込んでろ!!」


 高梨の言葉に、遠巻きに俺たちを見ていた奴らは一斉に目を逸らした。


 この二年全体を支配しているというだけはあるな。

 誰も逆らおうとは思えない。


(だが、俺は──!)


「なぁ! なんのつもりだ!? このクソ陰キャが! 死にたいのか!?」


「ぐ、うぐ……っ!」


 高梨が涼人を掴んで殴るのを見て、俺の中で何かが燃え上がるのを感じた。


「このクソ──」


「やめろ!」


「……あぁ?」


 俺の声に、高梨が不機嫌そうに振り返る。


 俺は傷つけられても構わない。

 だが……!


「その手、離せよ」


「あん? 何言ってんだ陰キャの分際で──」


「その手離せっつってるんだよクソ野郎!」


『三日月蹴りを使用します』


「ぐっ、ハッ……!?」


「「「!!」」」


 涼人はずっと、中学から俺を助けてくれた親友だ。

 人と話すのが苦手な陰キャだった俺だが、涼人には何度も助けられた。

 ペアを組む授業だって、涼人が居なければどうなってたか分からないし……


(とにかく──)


「く、くそ……テメェ……!」


「吠える前に来いよ、クズ野郎」


『三日月蹴りを使用します』


 これ以上こいつに好き勝手させるかよ。


「うっ……! テメェ、よくも……!」


『三日月蹴りを使用します』


「ぐぁっ!」


 高梨は立ち上がると、こちらを睨んで走り出すが、三日月蹴りが回避出来ずに腹部を抑えた。


「ね、ねぇ、あれ……」


「やば……あいつそんなに強かったのか?」


「いや……もしかして……高梨が弱いのか?」


「!!」


 それを見た周りの生徒が、ヒソヒソとそんなことを言いだす。


「イキってるけど……噂だけってこと?」


「テメェら死にてぇのか!! ふざけたことぬかすんじゃぼぁっ!?」


『三日月蹴りを使用します』


「じゃぼあっ? ちゃんと喋れよこの野郎」


 気圧される周りに変わって、俺は再度三日月蹴りを叩き込んだ。


「う……うぇっ……!」


「い、いいぞ!」

「やれ!!」


「て、テメェら……っ!」


 高梨のさっきや普段の言動も相まって、他の生徒達も高梨に否定的な態度を見せるようになった。

 いつも高梨の横暴に逆らえなかったからか、恨みが積もっている生徒もいるようだ。


 これなら、俺から攻撃を仕掛けた悪印象も無くなってるだろう。


 で、なんで俺がそんな呑気なことを考えているかと言うと……


「お、おま……」


「金を持ってこいだと? だったらお前が持ってこいよこのクソ野郎!」


『三日月蹴りを使用します』


「ヴッ……!」


 不意打ちも相まって、三日月蹴りを受け続けた高梨は、俺が思っているよりも簡単に倒れた。


『メインクエストをクリアしました!』

『メインクエスト:胎動』

『達成条件1:高梨颯太から逃げる 1/1』

『達成条件2:高梨颯太を倒す 1/1』

『SSRスキル、SRスキルを獲得しました!』


「……」


「「「……」」」


 教室中が静まり返り、唖然とした空気が感じられる。


(ああ……気持ちいい……)


 そうだ……これを求めてたんだ──


(──SSRスキル!!)


 またスキルを2個もゲットした。

 それに、このSSRスキル……


(そうそう、こういうのを求めてたんだよ!)


『SSRスキル【思考加速】を獲得しました!』


【思考加速】

考えるスピードが倍になる


 こういう、日常生活で無双出来るスキルがもっと欲しいんだよ!

 最高だぜ! 気持ちいい!!


 なのにSRスキルの方と来たら……


 俺は今手に入れたSRスキルを見て、ため息を吐く。


「仁……お前……いつの間にそんな強くなったんだ!?」


「あ……涼人」


 いつのまに……と仰天するのも当然だよな。

 高梨をこうもあっさり倒せるのなら、昨日なんで逃げたんだって話だし。


「いや……まぁ、ネットでちょっとな?」


「そ、それだけでか!?」


『メインクエストが開始しました!』


「──これはどういう騒ぎだ?」


「「「!!」」」


 メッセージウィンドウと共に、太い声が聞こえた。

 その声に、ザワついていた教室が一瞬で静まる。


「うそだろ……」


「やっぱな……!」


 現れたのは、三年の不良頭、鮫島蓮斗さめじまれんとだった。






──────────


二年を仕切る不良、高梨颯太を倒した仁。

しかし、そこに番長である三年生、鮫島蓮斗が現れて……!?


次回『【決戦の時間】』


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