第2話 意中の彼女


「ちょっと、金出せよ」


「はぁ?」


 帰ろうとした俺の目の前に、高梨颯太が現れた。


 高梨颯太と言えば、俺の学年でも代表的な不良だ。去年は別のクラスだったからあんまし知らなかったけど……

 カツアゲまでしてたのか?


「はぁ? じゃねぇよ!」


「いてっ!」


 高梨は俺の頭を叩くと、髪を掴んで持ち上げさせた。


「いいからさっさと出せよ!」


「わかったわかったから!」


 俺はそう言って、カバンをまさぐる。


「……因みに、何で俺に?」


「は?」


 俺の言葉に、高梨はなんでもないかのように言った。


「たまたま目に付いたからだよ。まぁ安心しろ、次は三日くらい待ってやるから。しっかり金集めてくんだぞ」


 ……なるほど。


 クラスの陰キャ数人からカツアゲをしていて、今日たまたま俺をターゲットにしたってことか。


 こいつもに貢ぐ金を集めているんだろう。

 ない金は取れないから順番に時間をやって金を奪ってるのか?


(流石に酷いな……)


「お、おい、仁……」


 隣で心配そうに囁いた涼人に、俺は人差し指を立て、笑ってみせた。


 ──心配要らないぞ、と。


「……!!」


「……? お前、何笑って──」


「誰がやるか馬鹿野郎!」


 高梨がそう言った瞬間、俺は思いっきり高梨に頭突きを見舞った。


「うげっ!?」


「仁!?」


 それと同時に、俺はカバンを持って全力で逃走する。


「ぐ……! 待て!!」


「待つもんか!」


 俺は怒り狂う高梨から逃げ、学校を飛び出した。



〜〜〜〜〜



「待て!!」


「はぁ、はぁ……!」


(捕まったら死ぬぞ……!)


 俺は学校を出て、直ぐに入り組んだ細道へ向かう。

 予想通り、ここならすぐに撒くことが出来た。


「クソッ! どこいった!?」


『高梨颯太から逃げる 1/1』

『メインクエストをクリアしました!』

『SRスキル【三日月蹴り】を獲得しました』


「ふぅ……? 三日月蹴り……?」


『メインクエスト:胎動』

『達成条件1:高梨颯太から逃げる 1/1』

『達成条件2:高梨颯太を倒す 0/1』

『報酬:SSRスキル、SRスキル』


「え…………」


 倒す?

 ……喧嘩しろってことか?

 あの二年生の不良全体を牛耳ってる高梨から?


 喧嘩もほとんどしたことない俺が?


「冗談じゃねぇぞ……」


 それに、三年生の鮫島は高梨をも打ちのめした化け物らしいし……不良仲間の復讐とかいってあいつに出てこられたらたまらない。


『メインクエストに失敗又は辞退すると全ての能力値とスキルは永久に失われます』


「……はぁ」


 とりあえず、さっき獲得したスキルを確認してみるか。


【三日月蹴り】

三日月蹴りを使うことが出来る。

(相手のガードを崩す)


「ん?」


 なんだ?

 三日月蹴り??


「え、これ……攻撃スキルってやつか?」


『三日月蹴りを使用します』


 使用した瞬間、身体が勝手に動くような感覚。

 刹那。

 三日月のように、俺の足が綺麗な弧を描いた。


「……!?」


 なんだこれ……!?


(すっげぇ……!)


 もしかして……

 もしかしたら……


「スキルの力があれば……」


 高梨あいつにも、勝てるかもしれない……!


 でも……


(これだけで勝てるのか?)


 相手は仮にも校内のナンバー2だぞ?


 格闘技も習ったことがない帰宅部の俺が……

 陰キャの俺が学年一の陽キャにスキル一つで……


 ……ん?

 スキル一つで?


「そうだ!」


 スキル!

 沢山のスキルを集めれば……!


「メインクエストは今出てるし……とすると、サブクエストとやらを出せばいいのか?」



〜〜〜〜〜



 一体……


 一体……


「サブクエストってどうしたら出るんだよ!!」


 帰っても手伝いクエストみたいなのは一つも出なかったし……

 もう夜だぞ!?


「でも明日までに何か手に入れないと……」


 思いっきり頭突き喰らわして逃げたから、明日は無事では居られないはずだ。


 それに、最悪なことに同じクラスだしな。


 何か攻撃スキルを手に入れないと……!


「……あれ?」


「……?」


 夜中のコンビニ。

 誰も居ないだろうと思っていたら、そこには予想外の人物がいた。


 滝川瑞樹たきがわみずき

 高身長なクール系女子で、剣道部の次期部長とも言われている天才……だそう。


 ポニーテールにまとめられた髪が似合う美女だ。


 そして、俺の憧れの人でもある。


 中高一貫校なのだが、中学三年の時に同じクラスになったことがあり、密かに恋焦がれている相手でもある。


(なんか気まずい……)


 俺は軽く頭を下げると、隠れるようにして飲み物コーナーへ向かった。


 まさに理想……といった彼女だが、どうしても恥ずかしくてほとんど話せたことは無い。


 なんで俺はこうなんだろうか……


(いや、それどころじゃない!)


 相手も多少面識はあったからか軽く頭を下げて返してくれたが、俺は彼女にとっては影のような存在にすぎないだろう。


(だけどいつかは……!)


 高梨を倒して……堂々と学校生活を出来るようになったら、いつか彼女に告白するんだ。


【再誕】

全身の皮膚や歯、臭い等を清潔にする(使い切り)


 俺には、こんなスキルをくれるクエストがあるから──!


 でも、やっぱりそのためにはメインクエストをやり遂げないといけない。

 失敗したら、今持ってるスキルも使用したスキルさえも、失われるのだから。


 クラスの端っこで学校生活を終えるような陰キャの俺に、こんなチャンス……逃す訳にはいかない!


(喧嘩は怖いけど……それでも俺はリア充になりたい……!)


 その時だった。

 コンビニを出たところで、思いもよらない光景が広がっていた。


「なぁ、連絡先くらい教えてよ〜」


「お願い!!」


「夜に一人じゃ危ないよ〜?」


「……嫌です」


 滝川さんが、同い年くらいの男子三人組に絡まれていたのだ。


(え……ナンパか? 流石だな……)


 先に出たはずなのにと思ったら、こんなところで捕まってたのか……


『サブクエストが開始しました!』


「うおっ!?」


「……?」


「あ……? なんだお前」


 不意に出現した画面に、俺は思わず声を上げてしまった。

 その声に反応して、三人と滝川さんが振り返る。


『サブクエスト:彼女を守れ』

『達成条件:不良三人を倒す 0/3』

『報酬:』


「なんだ〜? もしかして彼氏?」


「いやまさかwww」


「ちょっと彼女お借りしま〜す、なんて」


 これは……!


「はは、ビビっちゃった?」


「まじかよwww頼りねぇwww」


「ね、連絡先だけでいいからさ! ね!?」


「……おい」


『三日月蹴りを使用します』


 しつこく滝川さんに詰め寄る男に向かって、俺はスキルを発動した。


「ぐ……はっ……!!」


「「!!」」


 肝臓の辺りに思いっきり蹴りが刺さり、男の一人が膝を着く。


「滝川さん……早く逃げて」


「あ、うん。ありがとう」


 その言葉に、滝川さんはさっさと消えてしまった。


 滝川さんは俺が守る……と言いたいところだけど、正直彼女は俺より強いだろうし、あんまり心配することないけど……ほんとにさっさと帰ったな。


 まあいいや。


「まずは、二番目のお前からだ。www生やしまくってんじゃねぇ」


「二番メェ!?」


『三日月蹴りを使用します』


「海斗!!」


「お前、よくも!!」


『不良三人を倒す 1/3』


 俺は二人に向き直ると、不敵に笑って手招きした。


「渡りに船だよ、ありがとな」


「はぁ? 何言って──カハッ!」


『三日月蹴りを使用します』

『三日月蹴りを使用します』


「な……」


『不良三人を倒す 2/3』


「さぁ、後はお前だけだぞ?」


(もしかして、俺……強ぇ!?)


「くっ……!」


 俺は笑いを抑えきれずに漏らすと、それらしい構えをとって、呟いた。


「かかってこいよ」


「なんだと……!?」


 ああ……お前達のおかげで丁度戦いの準備が出来そうだよ。


『報酬:──


「丁度いい経験値狩りだ」


──SSRスキル、SRスキル』





──────────


初めての攻撃スキル、【三日月蹴り】……!?


次回『初喧嘩』


少しでも面白い、続きが気になる、と思った人はフォロー、及び最新話か目次の下部より★★★をポチッとしてくださると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る