第39話 お代官様、故郷の名産キビダンゴにございます
***** 代官様視点が続きます *****
「モモタロウよ、まずは島の者を助けてくれた事に礼を言う」
「勿体なきお言葉、恐悦至極に御座います。
しかしながら私は島の者の手助けをしたに過ぎません。
島の者の協力がなければ一匹の鬼も伐つ事はできませんでした」
ほう、手柄を独り占めする気は無いようだな。
「鬼共を退治したそなたに聞きたい。
鬼共は何故この地にやってきたと思う」
「申し訳ございません。
私には鬼共の事情は図りかねます。
しかしながら沖合に鬼の船が停まっております。
船の中を調べれば何か解るやも知れません」
「なるほど、そなたは船へ討ち行ったのではないのか?」
「船上での戦いは不得手なため、鬼共とは岡の上にて戦いました」
「ではそなたは船の中には立ち入っておらぬと?」
「左様にございます」
「お前達三名で船を調べに行って来い。
長兵衛、沖合の船まで舟を出させよ」
「承りました」
郎党共3人と長兵衛が部屋を後にし、残るは儂と郎党頭、桃太郎とお付の娘の4人。
話をする程、この若者に興味が湧いてくる。
もう少し踏み込んで聞いてみるか。
「モモタロウよ、船の中に財宝があったとしたらどうしたい?」
「恐れながら。
この島は香西様が治める地。
故に香西様がご判断される事案であり、私如きが口を挟むべきことでは御座いません」
うむ、自分と我々の立場をよく弁えておる。
農民兵には勿体ない人材だ。
「ふむ、確かにそなたに聞くのは筋違いであったな。
では、鬼を退治したそなたは何を望む」
「私が鬼共を伐った目的は鬼共に苦しめられる民が救われること。
民が救われた今、私の望みは既に叶えられております」
ふん、綺麗事をサラリと言うのお。
青臭い。少し困らせてやるか。
「しかしな、救われたとは言え奪われた物は返らない。
鬼共が奪った食料は鬼の胃袋に消え、クソになってしまった。
もし船からめぼしい物が見つからねば次の収穫まで食うものに困る生活だ。
誠の意味で民は救われたとは言えぬよ」
すると桃太郎は横にいる娘に目配せをし、スっと箱を差し出してきた。
「これは我が郷土の名産、キビダンゴにございます。
とても滋養によい食べ物に御座います故、民のために是非お役立て下さい」
なんじゃ?
団子だと?
こんな小さな箱に入った団子で何を救うと言うのじゃ?
所詮は童子。
儂の見立てはハズレておったのか?
期待が膨らんでいた分、がっかりとしつつ箱を受け取ろうとした。
「……!?」
ずしりと重い。
団子がこんな重いはずが無い。
おもむろに日本一と書かれた包みを開き、箱を開けてみると団子が詰められていた。
が、その下には銭がぎっしりと敷き詰められていた。
「ほぅ」
立場上、心付けを受け取ることはしょっちゅうある。しかしこんな小洒落たやり方は初めてだ。見た事も聞いた事も無い。
奇想天外とはこうゆう事を言うのか?
実に奥ゆかしい童子だ。
童子にしては大金だが、小さな箱に収まる程度の銭だ。額は然程では無かろう。
だが受け取ってしまった以上、断る訳にいかぬ。
これは一本取られたな。
「心得た。
悪いようにはせぬ。
安心して国に戻られよ。
そなたの主には儂から礼状を認(したた)めておこう」
◇◇◇◇◇◇
追伸.
帰りの船にて同行した郎党共に話を聞いた。
残念な事に鬼の船にこれといった物は無かったようだ。
島民に聞き取りをした者の話では、モモタロウは島民全員に感謝されておったそうだ。
自分と人質にされた家族を救った英雄だと皆口を揃えて言ったそうだ。
特におなご達の人気は凄まじく、下は七つの幼子から上は七十の婆ぁまで皆ぞっこんだったそうじゃ。
別の者にはモモタロウに鬼を退治するほどの実力があるかを調べるためモモタロウに稽古をつけさせたが、我が郎党共をして怪童と言わしめる程の腕前だったようだ。一見対等に相対している様だが 、動きに無駄が無く、余裕を持って相手をしていた。
要するに手加減しているのが見え見えだったそうだ。
聞けば備前にその人有りと言わしめた戦場の鬼神殿に薫陶を受けているらしい。
つくづく規格外の童子であった。
◇◇◇◇◇◇
***** モモタロウ視点 *****
ふへぇぇぇ。
お頭より偉い人に会ったのは始めてだったよ。すっごく緊張した~。
進学塾に貼り出してあった受験対策の面接心得が役に立ったんじゃないかと思う。
『面接は第一印象が決め手』とか、
『ハキハキと受け答えろ』とか、
『前向きな回答を心掛けろ』とか。
鬼達の持っていた交易品を船から引き上げた事がバレるんじゃないかと冷や汗ダラダラだったけど、時代劇の定番、悪代官と越後屋のお約束はこの世界でも有効みたいだった。
ニッポンの伝統芸能「黄金のお菓子」は効果バツグンだったよ。
銭300枚は大金だけどこれでOK!
キビダンゴ様様だね。(*^^)v
※解説:明銭について
室町時代の流通通貨は主に日明貿易で輸入した明銭です。自国貨幣が輸入に頼るというのは現代人の感覚では奇妙に見えますが、室町幕府は銭を発行するだけの力が無かったからです。
拙作中において、明銭一枚あたりの貨幣価値は100円くらいとして換算しております。
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