第38話 異形、たしかに異形!
***** 島を取り仕切る代官からの視点です *****
女木島を取り纏めておる
何でも鬼共が島を荒らし回っており、報告のために取り急いで目通しを願いたいとの事だ。
本来ならばじじぃの戯言として
儂は鬼に扮した他国の者の仕業であると考えておるが、鬼であれ賊であれ我が領内での蛮行を許さぬ事に変わりはない。
「……という訳で、鬼共は備前の国からいらっしゃいましたモモタロウと申す若侍様が退治しました」
「それは誠か?
いや、その以前に鬼共が島を乗っ取り、島を拠点に方々へ被害を与えていたというのか?」
「島の者は人質を取られ逆らうことも出来ず、食料を取られ、女子供も容赦なく虐げられてました。
その苦境をモモタロウ様がお救い下さいました。
モモタロウ様は島にて戦いの傷を癒しております」
「うーん、聞きたいことは山ほどある。
しかしお主から聞く話は信じ難きことばかりじゃ。
明日、船を用意し島へ参る。
モモタロウとやらが島を出ぬよう引き止めておけ」
「ははぁ」
何というか、これほど扱いに困る難題が我が身に降り掛かるとは、思いも依らなんだ。
我が領内に潜んでいた鬼というか賊が他領に被害を与えておったという事は、他領の軍隊が我が領内へ攻め込む口実を与えかねん。
……いや、退治されたというのは喜ばしきことなのだ。
戦の口実を未然に防いだのだからな。
しかしモモタロウとやらは備前の者と聞く。
余所者に島を救われたというのは体裁が宜しくない。
はっきり申せば我々が無能の謗りを受けかねぬ。
そもそも島が占拠されていた事すら気付かぬ間抜け扱いじゃ。
面子が立たぬ。
もし仮に長兵衛の申す事が真実であるとしよう……
鬼が略奪をした財宝の数々を余所者のモモタロウとやらに渡すことはあってはならぬよな。
もしかしたらモモタロウとやらが
その時はその者も鬼の仲間として引っ捕らえよう。
明日は郎党共を引き連れて、島へ渡るのが良かろう。
◇◇◇◇◇◇
島へ着くと長兵衛が出迎えた。
モモタロウとやらは屋敷にて控えておるとの事じゃ。
まずはそ奴の顔を拝むため屋敷へとむかった。
屋敷の前には島の者達と最前に若武者らしき身体の大きな
「そなたが鬼を討ち取った者か?」
「はっ!
ふむ……。
前髪を残しておるから成人前か?
礼儀のなっている童子であるな。
軍役衆の家臣と言うが要は農民兵か?
じゃが着物は整っておる。
所々落とし切れない血糊の跡があり、着物の下の包帯が激しい命のやり取りをした事を示している。
凛とした物腰は優れた兵士の証でもあろう。
姿勢も良いし、美男でもあるな。
もしこの童子が配下の者ならばきっと成長が楽しみであろう。
「詳しい話は後ほど聞くとして、まずは退治した鬼とやらを検分するとしよう」
長兵衛が儂を屋敷の庭へ案内した。
するとゴザを掛けられた屍らしきものが4つ横たわっていた。
襲撃を受けた村々からの報告では鬼は4人から6人であったと聞いている。
少ないとは思うが数は合っておるな。
「ゴザを除けよ」
同行した郎党がゴザを除けた。
そこには苦悶に満ちた表情をした異形の裸体があった。
「なんじゃこれは! 異形、確かに異形だ!
1人だけが異形ならばヒトの範疇と言えようが、4人揃って異形なのは人ならざる者共と考えるしかあるまい。
イチモツは馬並みで吐き気を催すわ!」
思わず声を荒らげてしまったが、この様な人間が居て堪るか!
目が潰れて首をザックリ切られておるが、その胴体の肉付きは正に鬼そのものだ。
身体中に金色の体毛がモジャモジャに生え、顔は半分がモジャモジャの髭で覆われており、金色の髪の毛もモジャモジャだ。
あと鼻がでかい。
鼻の穴もでかい。
目が窪み、威嚇するような眉は仁王像を思させる。
ツノこそないが鬼と言って間違い無かろう。
「報告には凶暴な黒鬼が暴れ回っていたと聞く。
確かに真っ黒な鬼もおるな」
真っ黒な顔の黒鬼の上半身は醜く焼け爛れ、喉元には深い刺傷がある。激しい戦いであったと察せられる。苦悶に満ちた表情は地獄絵図の如きだ。
頭のてっぺんが禿げた異形は、醜悪な顔つきで色が白くヒョロガリなくせに巨大なイチモツがダランとぶら下がっており気味が悪いわ。
伝説の悪僧、
さて、少なくとも島に鬼がおった事は相違ない事は分かった。あとは桃太郎と申すこの童子の人となりだな。
「鬼が如何なるものかはあい分かった。
子細を聞きたい。
中へ参ろう」
郎党の一人に島の者への聞取りを命じ、儂らは屋敷の奥座敷へと向かった。
※解説:
弓削道鏡は8世紀の禅師で時の女帝・孝謙上皇の寵愛を受け権力をふるい、神託を捏造して天皇の座を狙ったとされる人です。(宇佐八幡宮神事件)
おそらく当時の権力者、政敵によって歴史が歪められているので実像はよく分かりませんが、虚像の弓削道鏡はデカマラの代名詞みたいな扱いです。
そもそも宇佐八幡宮神事件を記した続日本紀が政治色いっぱいの史記なのですから、もっと見直されるべき人物ではないかと思います。
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