第34話 モモタロウ様、無理しないで!

 見張りのキギスとポチとイギリス人船乗りがいる場所へと行き、キギスと合流したらそこにはおタミさんが横たわっていた。怪我は大したことがなく、弾が掠めた驚きで気絶したみたいだった。

 うーん、吉備津彦尊様の言う安っぽい話……なのかなぁ?

 でも良かった。

 早速、同行しているマサル、キギス、黒鬼とイギリス人船乗りに指示を出した。


「マサル、その鬼と一緒に島民Aの所へ行け。

 赤鬼ジョン達がそっちに行っているハズだ。

 赤鬼ジョンの怪我の様子を確認してくれ。

 そしてお前もケガの手当てをしろ。

 そっちに鬼の首領が行くかも知れないから、家に留まって警戒を緩めるなよ。

 いいな!」


「合点でさぁ!」


「ゴーツーアウアベースウィズ マサル

 アンド セーブゼム」

 (マサルと一緒に行け。そして彼らを守れ)


「イェサー」


「キギス。

 長期間の見張りで疲れているのに悪いが、ここに残って見張ってくれ。

 オレも一緒にここに残る」


「わ、分かりました。

 わたしは戦っていないからまだ大丈夫」


 一瞬、キギスも島民Aの家に戻そうかと考えた。が、怪我をしているとは言え鬼5人がいる所に地図を持ったキギスが留まるのは危険だと思い直し、僕と一緒にいるよう指示した。


「黒鬼!

 おタミさんを安全な場所へ連れて行くんだ。怪我の手当てを頼む。

 終わったらここへ戻ってきてくれ 」


「ワカッた」


 マサル、イギリス人船乗り、黒鬼、そして黒鬼に背負われたおタミさんを見送った。

 が、その次の瞬間、頭がクラっとして自分でも信じられないくらい身体が重くなり、片膝を付いた。


「モモタロウ様!大丈夫ですか!?」


「身体は大丈夫だ。

 溜まっていた疲れが吹き出しただけだ。

 寝不足で心が少し疲れただけだ」


 時間は夜中の3時頃か?

 今寝たら夜明けまで眠ってしまいそうだ。


「モモタロウ様、無理しないで!

 少しでもいいですから休んで下さい。

 無理はするなって、いつもモモタロウ様が仰っているじゃないですか」


「済まない。だけど今夜中にケリを付けなければならないんだ」


「分かってます。

 だけれども一刻だけでもいいので身体を休めて下さい。

 私がずっと傍におります。

 何かあったら叩いてでも起こしますので」


「分かった。

 すまないが半刻時だけ眠る。

 そしたら何が何でもオレを起こしてくれ。

 昨日オレがお前らを起こしたようにだ」


「任せて下さい。

 力いっぱいビンタして、起こしますので」


 思い起こせば鉄砲に狙われたり、刀で命のやり取りをしたり、緊張の連ぞ・・・く

 僕の意識は深く深く落ちていった。


 ◇◇◇◇◇


「……タロ様、………モモタロウ様、……きて」


 パン!パパン!パパパン!


 ……ん、キギスか?

 そういえば起こせって言ってあったけ。


 頬っぺたに叩かれた感触を感じながら、気怠い身体を起こした。

 辺りは少しだけ明るく、夜明けが近い時間である事が分かる。

 が、そこにキギスの姿は無かった。


 どこだ?

 ……黒鬼の声がする。

 あっちだ!


 声がした方向に走っていくと、船長と残り1人の船員がキギスに襲い掛かっていて、黒鬼が必死に止めているところだった。

 キギスは僕から船長らを引き離すため囮になったのだと直感的に察した。


「キギスーーーーー!」


 僕は大声でキギスを呼び、船長らに追いつこうと全力で走った。

 船長らは僕の声など全く気に止めず、キギスだけを狙っているみたいだった。

 なかなか追いつけないのはポチが船長達を邪魔しているからだ。


 !


 船長らがキギスを追いかけている姿を見て、僕が屋敷で動き回っている間、船長が全く姿を見せなかった理由が分かった。

 僕は泳がされていたんだ。

 船長の目的はあくまで地図、そして地図が入った背負いのバッグ。

 それを背負っているキギスの居場所を見つけるため、あえて手を出さなかったんだ。

 鎖骨鬼のお喋りヤローめ!


 やはり、島民Aの家に引き返すべきだったか?

 いや……そうしていたら船長は島民Aの家を強襲していただろう。

 あそこは今、怪我人だらけで元部下だった鬼も居る。

 キギスを守れるのは僕しか居ないんだ!


「キギスーーーーー!」


 キギスは大回りに走って俺の方へと向きを変えた。

 黒鬼は船員にタックルをかまして倒した。


 僕は太刀を抜きながら、キギスの走るコースをショートカットする様に真っ直ぐ走り、キギスと船長の間に割り込む事に成功した。


 船長はお前なんぞいらねえとばかり、片手剣を抜き振りかぶってきた。

 チャンス!


 僕は大振りの剣を十字に受け、素早く足払いを放った。

 屋敷の中で船員に放った技だ。

 そして爺さんに散々してやられた技だ。


 走る勢いも手伝って、船長はド派手にすっ転んだ。

 そのまま切りつけようと太刀を振り下ろしたが、転んでも手放さなかった片手剣で受け止められた。そして、船長は身体のバネだけで起き上がり僕と対峙した。


 いよいよ最終決戦だ!

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