第33話 Big sounds が脱出の合図だ!

 人質だった赤鬼ジョンと黒鬼、そして船員二人を引き連れて物陰に隠れた。


 残る鬼はあと3人。

 屋敷の中には船長がいるはずだ。

 屋根の上に見張りが2人いる。

 そのうちの一人、鎖骨鬼は鉄砲を持っている。


 敵が何処に潜んでいて、いつ鉄砲を放ってくるのか分からないという緊張感は長続きしない。

 たぶん僕の体力も尽きかけているハズだ。

 昨日からろくに休んでいないからな。

 出来るだけ早く決着をつけたいが、まずは戦力にならない怪我人3人を逃がすため僕らが陽動する事にした。


「ジョン、

 ゴー ツー ノーザンサイド。

 ウィー ゴー ツー サウザンサイド。

 ビッグサウンド イズ サイン ツー スタート。

 ランナウェイ ツー アウアベース。

 OK?」

  (ジョン、あなた達は北側へ行け。

  私達は南側へ行く。

  大きな音はスタートの合図だ。

  ベース(島民Aの家)へ逃げろ。

  わかったか?)


「OK! Good luck.」


 赤鬼ジョンと船員2人は北側の門の方へ向かった。

 僕とマサルと黒鬼は南側へ。

 黒鬼には赤鬼ジョンと一緒にいけと言ったのだが、

「アイツ ユルサナい。オレ タタカう」

 と聞き入れなかった。


 おタミさんに酷い目にあわせた連中を許す事は出来ないだろう。

 さっきまで憔悴していた人物とは思えない怒りの目をしている。

 仕方がないので黒鬼には船員が持っていた片手剣を渡した。

 怪我人ばかりの中、貴重な戦力でもあるから黒鬼にも頼る事にした。


 南側の庭に面した場所に到着して、周りを見回したが敵の姿は見当たらない。

 多分物陰に隠れて、息を潜めて、僕達を待ち構えているのだろう。

 そこで僕は懐に入れてあったキッズケータイを取り出した。

 僕がこの世界に来た時に持っていた物で、今までずっとバッグの中に入れてあった物だ。

 爺さん達に向けて警報を鳴らして以来、久しぶりに電源を入れた。

 電池残量がごくわずかだけど電源が入った事に何だか嬉しさのようなものを感じた。

 が、今は感傷に浸っている場合じゃない。

 ペンダントを引っ張り、庭の真ん中に投げ入れた。


 BEEP! BEEP! BEEP! BEEP! BEEP!


 警報音が辺り一帯に鳴り響いた。

 マサルと黒鬼は思わず耳を塞ぐ。


 ターーーン!


 警報音が鳴り響くキッズケータイが弾け飛んだ。

 暗闇の中で表示画面の僅かな光を放つケータイは格好の的だっただろう。

 音のした方向を振り向くと真っ白な煙と鎖骨鬼を見つけた。

 距離は約5、6m。

 素早く僕は太刀の鞘から小柄こづかを抜き、投げナイフのように屋根の上の鎖骨鬼を狙って投げた。


「グッ!」


 命中!

 鎖骨鬼は屋根から転げ落ちた。

 黒鬼が恵まれた身体能力で鎖骨鬼の落ちた方へ全力ダッシュし、一思いにズブリと剣で刺し貫いた。

 その横には鉄砲が落ちていた。

 航海士から取り上げた鉄砲と合わせて2丁。

 これで鉄砲の狙撃に怯えずに済む。


 屋敷の中に居るであろう船長が気になったが、ひとまず僕らは南の門から屋敷を出ていった。

 蔵で赤鬼ジョン達を救出する時も、庭で鎖骨鬼と対峙した時も、船長が姿を表さなかったのは何故だろう?


 ともあれ、残る敵はあと2人だ。


 ◇◇◇◇◇◇


 回収したキッズケータイは鉄砲の的になり二度と音は鳴らなくなった。

 このケータイで父さん母さんに連絡ができる訳ではない。

 頭では分かっているけど……

 これがあればいつか連絡出来るかも知れない。

 いつかこのケータイが鳴って父さんと母さんが僕を呼び出してくれるかも知れない。

 ……という漠然とした淡い期待みたいなモノがあったのも事実だ。

 しかし今、その希望が完全に消えて無くなってしまった事に一抹の寂しさを感じていた。


 この世界に来て4年。

 身体は大きくなったけど、自分の心の中にはその時のまま止まっている部分があるのだと気付かされた。

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