第32話 鬼達の救出

「マサル、無事か!?」


 奥座敷へ踏み込むと、そこには船長らしき鬼とマサルが対峙していた。


「大将、すまねぇ。

 天井からの攻撃を躱されちまって、この有様だ」


 よく見るとマサルは何ヶ所か斬りつけられて、血が滴っていた。


「よくやった、マサル!

 お前が足止めしてくれたおかげで二匹は戦闘不能になった。

 もう一匹の鬼には深手を負わせた!」


「へへっ、大将っていつも褒めてくれるんだよな。

 嬉しくってついつい余計に頑張っちまうぜ」


「オレの後ろへ廻れ。

 コイツはオレがカタをつける」


 マサルは思っていたより機敏な動作で僕の後ろに回った。

 傷は多いが致命的な深手は負っていないようだ。


「マサル、深手を負った鬼がどこかへ逃げ込んだ。

 警戒してくれ」


 鬼が日本語を理解しないだろうから大声でコンタクトする。

 そして再び脇差しを抜き構えた。

 その時、


「大将、石礫だ!」


 マサルの声に素早く反応して、床を蹴り身体をゴロンと一回転させた。


 ターーーン!


 僕の入って来た方向を見ると、真っ白な煙と手負いの航海士が鉄砲をこちらに向けているのが見えた。どうやらこの時代の火縄銃は速射が苦手みたいで、引き金を引いても直ぐには弾が飛び出ないのかも知れない。

 でなければ絶対に撃たれていた。

 僕は懐にあった小袋を取り出して、口を縛ってあった紐を口に咥えて引き抜き、袋を航海士へ投げつけた。

 ボフッと航海士に当たった小袋は中の炭の粉をぶちまけて航海士の顔を真っ黒にした。

 島民Aが懇切丁寧にすり潰した炭の粉がモワモワと舞いあがったと思った次の瞬間。


 ボン!と炎があがった。


 火縄銃の種火が炭の粉に引火して一気に燃え広がったようだ。

 予想ではメラメラ燃えて相手を火傷をさせるつもりだったけど、思った以上に大きな音がして、爆発っぽかった気がする。


 たぶんアレだな。

 良い子はマネをしない様に、ってヤツだ。


 火傷してゴロゴロともんどり打っている航海士をマサルが馬乗りになり、喉元に長脇差を突き刺した。航海士は激しい出血の後 、暫くして動かなくなった。

 残るは船長だ、と振り向いたがさっきまでいた所に船長の姿はなく戸が開け放たれていた。


 逃げやがった!


 ◇◇◇◇◇


 船長がどこへ逃げたのか分からないが、先ずは本来の目的である赤鬼ジョンと黒鬼の救出を優先しよう。

 見張りの二人も屋敷の異常に気付いているはずだ。

 幸い蔵へ向かう途中、船長は居なかった。

 屋根の上にいた見張りの姿もない。

 どこかに隠れてこちらを伺っていると考えるべきだろう。


 蔵の前でマサルに周辺を警戒させながら僕が閂を外し、戸を開け、中に入った。

 中には赤鬼ジョンと黒鬼が縄で縛られていた。

 脇差で縄を切り、猿ぐつわを取ると、黒鬼が叫ぶ。


「おタミサン、おタミサン ダイジョウブか」


「ゴメン、分からないんだ」


「おタミサン……」


 泣き腫らしただろう黒鬼は憔悴しきっている。


「キャプテン ランナウェイ、

 ラストスリー」

  (船長が逃げる(※)。残り3人だ。)

  ※モモタロウは時制が苦手です。


 電子辞書がないから赤鬼ジョンに簡潔に伝えた。

 たぶん通じたと思う。


「2人とも無事だったんすね」


 蔵の外に出るとマサルが出迎えたその時、


「Watch out!」

 (気をつけろ)

 と大声で叫びながら赤鬼ジョンが僕を突き飛ばした。


 ターーーーン!


 ウッと赤鬼ジョンが腕を押さえて蹲った。

 音のした方向には鎖骨鬼が屋根の上にいた。

 僕らがヤツを見つけたのを知ると、サッと身を隠し逃げていった。

 アイツさえ裏切らなければこんなに苦労していなかっただろうと思うと、無性に腹が立ってくる。

 敵に鉄砲があるから迂闊な行動は出来ない。


 とりあえず戦闘不能になった船員居る部屋へ向かった。

 その途中、手ぬぐいを見つけたので赤鬼ジョンの怪我の部分を縛った。

 弾は腕を突き抜けたみたいだ。

 この時代の鉄砲の弾は鉛製だ。

 理科の授業で鉛は毒だって聞いた事があるから体内に残ると大変だ。

 後で傷口をしっかりと消毒しよう。


 負傷した船員2人は先ほどの場所で先ほどの姿のまま倒れていた。

 息をしているから生きてはいる。とどめを刺した覚えはないし……。

 昏倒した方の船員の上体を起こして膝を背中に当ててグッと肩を開いた。

『活を入れる』と言うらしいのだけど、やり方を爺さんに教わって何度か若にやった。

 そしてそれ以上の回数、活を入れられた。

 正に鬼だよ。


 船員らは戦意を喪失しており、赤鬼ジョンの言葉を素直に聞いている。

 僕が鬼を助けたいと考えている事が伝わったらしく、安堵の表情していた。

 僕の仕業とはいえ腕を使い物に出来なくしてしまったから応急処置をしてあげた。

 その辺にある柴から比較的真っ直ぐなのを持ってきて、骨の位置を矯正したあと手ぬぐいで固定した。

 ここでも鬼の目に涙が光った。

 悶絶しながらだったけど。


 今思えば僕は爺さんに色々な事を教えて貰ってたんだな……。



 ※解説:粉塵爆発について

 炭の粉末が爆発……異世界名物、粉塵爆発ですね。

 粉塵爆発が起こる条件は粒子が細かい事と、可燃物と空気の混合比が最適である事です。粒子が細かいと物質の比表面積が大きくなり反応しやすくなります。また空中で分散し易くなります。可燃物と空気の混合比は、可燃物の比率が大きいと空気の触れる面だけが燃えるだけになり、空気の比率が大きすぎると火は燃え広がりません。

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