第31話 マサル 対 鬼

 ***** マサル視点での鬼との戦いです *****



 俺っちは今、天井裏だ。

 鬼の頭領の部屋の真上に居る。


 トコトンお人好しな隊長に付いちまったおかげで命を張って鬼と戦う事になった。


 ……へへっ、悪くねえ。


 運のねぇ事に、鬼の頭領は起きてやがる。

 寝てりゃー楽だったのによ。

 しかも部屋のど真ん中に居て、屋根裏の天井の薄い場所の下じゃねぇ。

 ここの屋敷の天井裏は人が上がれるよう丈夫な板で補強してあるが、さすがにこの板は踏み抜けねぇな。

 ……参ったな。

 なら部屋の隅っこに飛び降りて、鬼の頭領に切りつけるしかねぇか。


 ん、物音がする。

 大将が暴れてるんだ。

 本当にすげえ人だ。

 俺っちも行くぜ。


 長ドスを構えて、ぴょんと天井裏の薄い板を踏みつけ飛び降りた。


 バキッ!


 ホコリ臭い天井を突き抜けて畳に着地した。

 鬼は……こっちか!


 天井から飛び降りた衝撃で痺れた足をものともせず、鬼に向かって飛び込み、力いっぱいドスを振り下ろした。

 しかし鬼は素早い動作でドスを転げながら躱して、すくっと立ち上がった。


 デケェ。


 ホントに鬼だ。こいつは。

 大声で何か喚いているが、こちとら鬼の言葉は分からねぇんだよ。

 得物えものを持っていない今が好機だ。

 いくぜ!


 長ドスをぶんぶん振り回して鬼に斬り掛かろうにもこいつでかい上にすばしこい。

 ちっとも掠らねぇ。

 焦る気持ちが腹ん所に煮えたぎってきくる。


「うぉぉぉ!」


 気合い入れた懇親の一撃をスカされた次の瞬間、横っ面を思いっきり殴られた。

 身体が宙を浮いて一間(1.8m)以上吹き飛ばされた。

 頭がクラクラする。自分でもよく気絶しなかったと不思議に思えるぜ。オヤジに殴られた時より10倍キツい。


 鬼は床の間にあった得物を手に取り、ゆっくりと刀を抜いた。

 このままじゃ間違いなく殺される。

 逃げるしかねぇ!


 ふらつく脚でどうにか立ち上がり、脚に力が残っているかを確認した。

 よしっ!


 逃げようとした瞬間、大将のいる方から派手に物音がした。

 あん人は戦っている!

 もし俺っちが逃げて、この鬼が加勢に行ったら……

 こんなのが加勢に回ったらどうなる?


 大将は俺達に島を出ろと言ったんだ。逃げろって言ったんだ。

 でも俺っちが一緒にいさせてくれって、頭下げて頼んだんじゃねーか。

 ここで逃げ出したら、残った意味ねーじゃんか。


 腹を決めて、長ドスを構えた。

 大将がケリをつけるまでコイツを足止めする!

 鬼のヤローは薄ら笑いを浮かべて、近づいてきやがる。

 俺っちは後ずさりしながら柱の陰に隠れる。

 鬼はそんな事お構い無しに斬りかかってきた。


 鬼とはいえ、さすがにこの太い柱は切れねぇらしい。

 鬼の刀が柱スレスレで宙を斬る。

 ブォンとすげー音だ。

 チビっちまいそうだ。

 思わず柱から離れちまったところを鬼がスルッと柱の横をすり抜け突進してくる。

 うわぁ、怖ぇー!


 全力で跳んで鬼から離れようとしたが、鬼は構わず刀を振り抜いたみたいだった。

 殺られた!と思った。

 けどすっ転びながらも鬼と距離が取れた。

 背中がスースーする。

 どうやら着物がパックリ切られたみたいだ。


 ホントに怖ぇーぜ。

 コイツには絶対勝てねぇ。

 身のこなしにムダがない。

 さっきの俺っちの攻撃も余裕でいなしてた。


 たけど逃げてやらねぇからな!

 大将がケリをつけたら、きっとあん人はここに殴り込んでくる。

 それを信じて俺っちはまた柱の陰に隠れた。


 鬼はまた同じ様に刀を振り回して、こっちに突っ込んでくる。

 今度は柱の反対側に回り込んで逃げる。

 すばしこさはこっちが上みたいだ。


「チビを舐めんなよ!」


 声に出して、鬼を挑発してやった。

 すると鬼は柱に刀を持っていない手を掛けて、回り込みながら勢いよくケリを入れてきた。

 横っ腹に丸太が当たったかの様な衝撃を受けて吹っ飛ばされる。

 くっ……ここで蹲っていたら餌食になる。

 何とかして立ち上がった時、鬼は既に刀を振りかぶっていた。


 チキショー、もうダメだ。


 その刹那思い起こしたのは、密かに惚れていたキギスの事。

 でもキギスは大将にぞっこんなんだよな。

 しかも朴念仁の大将はキギスの気持ちにちぃーっとも気づいていねェときもんだ。

 羨ましいったらありゃしねーぜ。


 鬼が刀を振り下ろしたその時、頭の中で大将の声が響いた。


  『死ぬな!』


 その声に刺激されて、反射的に横へ転がって刀を避けた。

 腿を切られたが深手じゃねぇ。

 鬼は何度も刀を振るうが、俺っちは畳の上をゴロゴロ転がり鬼の刀を必死に避けた。

 そう簡単に殺られる訳にはいかねーよ。

 なんつったって大将の命令だからよ。


 再び柱の陰に隠れた時には、鬼の刀が掠めた箇所から血が滲んでいた。

 だが俺っちは死んじゃいねぇ。

 ざまぁ見やがれ!


 鬼がうんざりした顔で近づいて来た時、もう一つ足音が近づいて来た。


「マサル、無事か!?」



 ※解説:日本人の体型について

 拙作では、マサルが身長140センチ、船長が身長180センチオーバー。その差、40センチで、体重は倍半分くらい違うという想定です。

 きっとマサルから見た船長は、まるで世紀末覇者みたいに見えているだろうと思います。

 日本人の平均身長は奈良・平安時代から江戸時代に掛けて徐々に下がっていきました。理由は肉食の禁止によるものみたいです。

 幕末、日本に来た西洋人は、日本人について『背が低い』、『清潔好き』、『好奇心旺盛』と評していたみたいです。しかし既婚女性のお歯黒だけはすごい不評だったようで……。

 キギスもいつかお歯黒になるのだろうか?

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