第29話 特攻!

 二人への説得に失敗(?)して、マサルとキギスも鬼達との決戦に臨む事になった。

 メンバーはヴェネツィア人商人3人とイギリス人船乗り、そして僕達3人と島民Aの8人。

 全員に向かってこれからの事を説明した。

 僕の英語がどこまで通じているのか分からないが、切羽詰まっている事は通じたようだ。

 全員に緊張感が漂っている。


 僕が即席で立てた作戦は至って単純だ。

  1. 僕とマサルが屋敷に忍び込む。

  2. 機をみて僕が暴れ回る。

  3. 赤鬼ジョンと黒鬼を救出する。

 以上だ!


 相手が鉄砲を2丁持っている以上、相手の懐に入る以外手は無いし、商人達に荒事は無理だ。

 この中で僕の次に腕のたつのはマサルなのだ。


「マサル、オレに命を預けてくれ!」


「大将、死ぬ時は一緒でさ」


 いつもの通りなら首謀者二人は奥座敷に居る。

 敵の見張りは4人、おそらく2人1組になって交代制で見張るハズだ。

 航行の時もそうだったと聞く。

 2人ならばどこかで死角が出来るハズだから、隙をみて僕とマサルが屋敷に侵入する腹積りだ。


 そして僕は機をみて乱戦を挑み、敵を引きつける。

 小柄なマサルは天井裏に忍び込み、奥座敷の首謀者の一人を強襲する。

 屋敷を占拠していた連中が天井裏の存在を知らなかったから、家屋の構造を知らないはずだ。

 長兵衛さんの屋敷の天井裏は農具置き場になっていて、子供の時はいい遊び場だったと島民Aが言っていた。当然、天井裏への入口も知っている。


 屋敷の見取り図から赤鬼ジョンと黒鬼が閉じ込められているのは蔵だと予想している。

 僕かマサルのどちらかが蔵へ向かい2人を救出して、屋敷を脱出する。

 ここまでが最低限の勝利条件とした。

 首謀者二人を討伐して残りの船員を説得できれば最上(まんてん)だけど、ダメな時は軍隊が来た時だけ他の皆んなに隠れて貰おう。


 キギスには地図の入ったバッグを背負い、これを死守するよう命じた。

 僕と赤鬼ジョン達が脱出に失敗して、我が身が危険だと思ったら僕達を見捨てて逃げろ、とも命じた。


「キギス、お前には辛い役回りを頼む事になるが耐えてくれ。

 その地図が悪党に渡れば、国攻めに利用される。

 この島で起こっただ惨事が国全体で起こるんだ」


「わ……分かりました。

 だけれども死なないで下さい。

 お願いですからご無事でいて下さい。」


 ……桃太郎の話でこんな悲愴なシーンあったっけ?


 ◇◇◇◇◇


 目の良いキギスに屋敷を見張らせた。

 予想通り見張りは2人。

 よく見ると見張りの片方は鎖骨鬼っぽいな。

 屋敷の南側と北側の屋根の上に陣取って目を光らせていた。

 焚き木を焚いて辺りを照らしている。

 中々スキがないな。

 小便でもタバコでもいいから離れてくれないかな。

 そう言えばタバコってアメリカ大陸からもたらされたんだよな。

 コロンブスの西インド諸島到着が石の国(1492年)だから今から100年くらい前か。

 まだ普及していないのかな?


 すると南側の門が開き、首謀者の一人である航海士ともう一人縄でぐるぐる巻きされたのが出てきた。目を凝らし見るとそれは黒鬼だった。(だってまっ黒だもん)

 縛られた黒鬼が大声を張り上げる。


「モモタロウさーん、ニゲてー。

 オニハ チズお トリタイデす。

 ボクワ ダイジョウぶ。

 ヘーき。

 ダカラ ニゲテクダサーい」


 航海士は黒鬼が何を言っているのか分からず、僕への要求を叫んでいると思っているのか?

 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。


「黒鬼さぁーん!」


 予期しない方向から女性の声が響き渡った。

 あれはおタミさんか!?


 ターーーン!


「きゃあ」


 銃声と悲鳴が同時に起こった。

 屋根の上にいる鎖骨鬼の周りに白い煙がもわもわと立ち込めていた。


「おタミサーん!」


 黒鬼の悲痛な叫び声がこだました。


「=-*&@-=&;)?」


 黒鬼は自分の国の言葉で叫び続け、航海士の持つ縄から逃れておタミさんの方へ駆け寄ろうともがいた。

 その様子を見て、僕は一緒にいたイギリス人船乗りに「ヘルプ ハー プリーズ」と言い残し、マサルに合図して屋敷への潜入を決行した。


 暴れる黒鬼を持て余しした航海士は黒鬼を殴りつけ、力ずくで縄を引っ張り黒鬼を蔵のある方向へ連れていった。

 それを見て人質二人は蔵だと確信した。

 その間にマサルは天井裏に潜っていった。


 僕は薄暗い部屋の片隅に隠れ、息を潜めて外へ出た航海士が戻るのを待った。

 日本の民家と言うのは防音性がほぼゼロだ。

 屋敷に居るはずの船長、船員、鎖骨鬼、マサルがどこにいるのか神経を屋敷中に張り巡らせるように意識を集中した。


 客間からいびきが聞こえる。

 2人だな。

 たぶん交代要員の船員だろう。

  …キシ

 天井裏にマサルの気配を感じる。

 すると船長は奥座敷に1人だけでいるのか?


 !


 畳を歩く音がこっちに来る。

 航海士だ。



 ※解説:タバコについて

 文中にもある通り、タバコはアメリカ大陸からヨーロッパに伝わりました。

 16世紀当時、スペインはタバコの貿易でぼろ儲けしていました。

 日本へは鉄砲の伝来と同時にタバコも持ち込まれた様です。

 つまり1543年はタバコ伝来の年でもあるわけです。

 私は吸いませんが……。

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